04-1.公爵令嬢はなにを望むのか
辺境の地であるヴァーケル村の厄介者を従者にしたというのは、王都にある屋敷から滅多ことでは離れない父の耳にも入ったらしい。
ギルティアを迎え入れてからまだ一日しか経過していないというのにもかかわらず、父から私宛に速やかに解雇しろと手紙が届けられた。
なぜ、父はそれほどにギルティアを危険視しているのだろうか。
ヴァーケル村をハズレの村だと認定し、放置していたことにも関係があるのかもしれない。
しかし、生まれながらにして呪われたこの身を疎んでいることを知らない父ではない。それならば共犯者を求めて行動することは想定内だったのではないだろうか。隠すことを徹底してないことはその証拠のようなものである。
「ロイド。お前も父上と同じ考えか?」
「公爵閣下もお嬢様の身を案じてのことでしょう」
「質問に答えろ。お前も同じ考えかと聞いている」
シャーロットの機嫌は良くなかった。
弟の具合が悪いのだ。
双子の片割れの具合が悪く、心配でしかたがなかった。
「……恐れ多くも公爵閣下と同じように考えております。ギルティア・ヤヌットには関わるべきではありません。彼は罪を犯しております。お嬢様の傍に置くのには彼ほど不向きな存在はないでしょう」
ロイドは素直に答えた。
見た目だけならばロイドとギルティアは似たような年齢だろう。
しかし、エルフ族の血が混ざっていることを考慮すればギルティアの方が年上だろう。それならば幼少期に接点があってもおかしくはない。ロイドはギルティアのことを嫌っているものの、ギルティアからは負の感情は読み取れなかった。
もっとも、それは他人に対して必要以上に踏み込む気がないからなのかもしれない。
「それが困ったことに調べても出てこないのだ。ロイド、お前がギルティアを毛嫌いする理由はどこにある? 正義感の強いお前のことだ。理由がなければ奴のことを嫌うことはしないだろう。奴が罪を犯しているというのならば、それはどういったものだ。答えろ」
シャーロットの問いに対し、ロイドの顔色は悪い。
無謀な行為をすることの多いシャーロットの従者として連れ回してきたロイドがこれほどに顔色を悪くするのはいつ以来だろうか。
本来ならば護衛役を兼ねた従者ではなく、指導者側である執事に昇格することだってできるだろう。ロイドを手放すことを惜しむシャーロットの我が儘により彼は昇格することはない。
給与とシャーロットたちが所有しているこの屋敷内での立場は執事と同等のものではあるが、それに納得しているわけではないだろう。
父に脅されたのだろうか。
シャーロットの暴走を止められないような従者は不要だとでも言われたのだろうか。
ロイドの顔色がこれほどに悪くなったのは、以前、父から解雇通知を突きつけられた時だ。あの時と同じような顔色をしている。
「お答えすることはできません。公爵閣下もお嬢様の身を案じているからこその提案でしょう。どうかそのお気持ちを受け入れてはいただけないでしょうか」
ロイドはそう言った。
(今にも倒れそうな顔色をしていながらもよく言えたものだ)
それを言うようにと、頭の固い癖に父の言いなりになっている執事長に命じられたのか、身内を人質にでも取られたのか。
いや、ロイドの身内はいなかったはずだ。
妹がいたと口にしていたことはあったものの、その妹は不幸があり、今は土の下に眠っているはずだ。それ以外の身内はいないと言っていたのは噓ではないだろう。
「お嬢様はまだ庇護を受けるべきご年齢でございます。あのような者を傍に置くべきではありません」
「他人の庇護下にいなければ身を守れないとでも?」
「ご両親の庇護下にいるべきでしょう。この際、意地を張るのはお止めになられてはいかがでしょうか。お嬢様、悪い大人に騙される前にご両親の元に戻るべきではないでしょうか」
これは、なにかしらの事情はあるのだろう。
ロイドはシャーロットの意に反したことはしないのだから、そうでなければならない
「お嬢様、従者である私の言葉には納得されないお人だということは重々承知の上でございます。しかしながら、これもお嬢様の身を案じているからこその提案でございます。お気に召せなければ処罰を快くお受けいたします。それにより、お嬢様からギルティア・ヤヌットを遠ざけることができるのならば、私の命など惜しくはありません」
この世に望まぬ生を受けて十年。両親の直接的な庇護下にいたのは五年。
その間にシャーロットは年相応の人生を歩んではこなかった。生まれた時から帝国の未来を担う存在として選ばれていたのもあるだろう。生まれたその日に、未だに顔も知らない第一皇子との婚約を結ばれたのは、両親の愛情によるものだと、くだらないことを信じる連中は好き勝手に言っていた。そのようなものが愛情ならば肥溜めにでも捨ててしまえばいい。
シャーロットは他人とは違うのだろう。
見た目だけは年相応のものだ。親戚関係に当たる貴族たちの十歳になる令息や令嬢と変わらない。中身だけが完成させられている。それは呪いによるものだということを理解してしまっているほどに作り上げられたものだ。
「私はそのようなことを望んではいない」
他人に関心を抱かないのは呪いの特性なのだろう。
十年程度の年月しか生きていないシャーロットですらもお気に入りとして傍に置いている者たち以外には関心を抱けない。シャーロットの倍は生きているだろうギルティアにはそのような情がなくなってしまっていても、別におかしい話ではない。
「ロイド、私はお前の言葉を尊重しよう。だが、それに従うつもりはない。それにお前を処罰するつもりもない」
シャーロットは目を逸らさなかった。
ギルティアには常識的な思考がなくなることは呪いによる影響だと言ったものの、それを簡単に受け入れるつもりはない。
母の思い通りになるつもりはない。
シャーロットはシャーロットである。
愛国心はあるものの、その誇りを捨ててまでも帝国に尽すつもりはない。
「父上にはこう言ってやろう。私を服従させたいのならばベリアルの身分を元に戻せと。それができないのならば、私はいつだって父上を殺す為に機会を狙い続けるだろうと。それがお前の娘の選んだ答えだと言ってやればいい」
両親を殺すことに迷いはないだろう。
今までも顔を見合わせる度に毒殺、刺殺、銃殺、呪詛と様々な方法を試して来たのだ。それでも誕生日には顔を見合わせて祝いたいとくだらないことを口にするのだから理解が出来ない。
弟を見限ったのは両親だ。
弟を守りたい私が両親の命を狙うようになってもおかしい話ではないだろう。
母なんてシャーロットよりも狂っている。
そこまでしているのに、最愛の娘だとシャーロットを抱き締めるのだから。その隙だらけの身体を刺し殺してやろうと思ったことは数えきれない。
「それともお前も十歳の子どもが口にする言葉ではないと否定をするか? それでも構わないぞ。私はロイドのことを気に入っているのには変わりはない。私が私を保てる限り、お前を従者として選ぶだろう」
否定されることは慣れている。
この身が呪われたものだと知った時からわかっていることだ。呪われているからこそ両親は私を愛していると嘘を吐くのだ。いずれは帝国を救う為に立ち上がると母の予言を信じているからこその演技だろう。
母の呪詛は身体を蝕んでいく。
予言という名の呪いは確実にシャーロットの意思を塗り替えていく。




