03-2.勝ち目がない? 誰に言っているのだと笑う
得体の知れない相手に従っていながらも恐怖心を抱かなかったのならば、それはバカなのか、勇敢なのかわからない。恐らくはバカに近いのだろう。
「神聖ライドローズ帝国フリークス公爵家の令嬢だよ。まさか、公爵領に住んでいながらも領主一家のことを知らなかったのか? 常識外れの田舎者だな」
「そんなことは知ってる! 俺が言いてぇのはそれじゃねえ!」
「それならば、分かるように話せ。ただでさえ、田舎者の訛りが強い言葉は聞き取りにくいのだから、省略して話をするのはやめろ。言いたいことを伝えられないようでは、ここでは苦労をすることになるぞ」
シャーロットの言葉を理解できるだけでもいいとするべきなのだろうか。
初めて困ったような表情をみた。
まさか、ここまで言わなければ、自分の立場がわからないのだろうか。そうだとすれば教育係をロイドではなく、別のものに変えるべきかもしれない。面倒な話だが使えるようにならなくては意味がないのだから、これも必要なことなのだろう。
考えごとをする時の癖なのだろうか。ギルティアは自身の髪を手で掻き乱しながら、変な声を上げていた。
訛りの強い言葉は聞き取りにくいとはいえ、理解ができないわけではない。そもそも地元の言葉をわからない人はいないだろう。
エルフ族の言語に似た発音が混じっているギルティアの話し方はさらに聞きにくいが、わからないわけではない。今、指摘をしなくてもよかったかもしれない。
「公爵家の令嬢様は十歳の子どもじゃねえのかよ。お前、どう考えたって十歳じゃねえだろ」
ギルティアの言葉を聞き、納得した。時々、向けられる彼からの疑惑の眼差しはそういうことだったのだろう。
ギルティアはシャーロットが本物の令嬢か疑っていたのだ。
十歳とは思えない話し方と振る舞いを見た人の多くは同じような疑問を抱く。それを口にする人は少ないものの、生まれの差があっても考えることは同じとはおもしろい。
「なぜ、そのように思う?」
「妹が十歳のときはそんな風に話はできなかった。村の連中もそうだ。お前みたいに振る舞う奴は見たことがねえ」
「貴族とはそういう生き物だ。相応の教育を受けていれば大人同様の振る舞い方を覚えるものだよ」
シャーロットは疑問に答えた。
しかし、ギルティアは納得しなかった。不審そうな眼をシャーロットに向ける。その眼は不信感を抱いているものの、なにかを期待しているようにも見えた。
「あんたはそういう話の次元じゃねえよ。もっと別のものだ」
ギルティアは言い切った。
シャーロットを試しているのかと思ったが、そういうわけではないようだ。
純粋に疑問を口にしているだけなのだろう。もしかしたらエルフ族の血が混じっていることにより第六感が優れているのかもしれない。
「俺にはわかるんだ。お前は自分の目的を果たすための共謀者が欲しくて、俺を探していたんだろ。その為に手段を選ばなかった、だから、年相応ではない振る舞いができるんだ。……そうだろ?」
ギルティアの真っ直ぐな青色の眼には濁りはない。
秘境の湖のように透き通った水の色をしている。嘘を口にしているのならばそのような眼の色はできないだろう。嫌気が差すほどに正直な眼をしている。
ギルティアは変わっている。
第六感によるものだとしても、シャーロットの目的に気付いているのならば、逃げようとするべきなのだ。逃げれば命を失うこととなっても抵抗するべきだ。
予言された七人の一人であるギルティアの命を奪うことは国家反逆罪となる。
それを知っているシャーロットには、ギルティアの命を踏み荒らすことはできないのだから。
「お前の勘を肯定しよう。では、どうする? 誰も知らないはずの私の目的に気付いているのならば、それを阻止するために足掻くか? それともお前が口にしたように私の共謀者となるか?」
「俺を連れてきた時みたいに強制しねえのか」
「望むのならば強制してもいい。だが、自分の意思で選べるだろう?」
「なにも知らねえのに信用していいのかよ。お前、それでも公爵令嬢なんだろ」
真っ当な生活をしている令嬢ならば震えて泣き出していたことだろう。そもそも、怪訝そうな表情をする年上の男性と二人だけの空間にいようとしないだろう。ロイドの言った通り、護衛役として従者を傍に置くのが正しいだろう。
そのようなことを理解している。
その必要がないのはシャーロットが普通ではないからだ。ヴァーケル村の村長はギルティアのことを呪われていると口にしていたが、それはシャーロットも同じだ。
「信用しているわけではない。私は知っているだけだ」
「知っている? なにを?」
「お前が呪われた理由を知っている。エルフ族と人間の混血児だからではない。――お前は予言者によって呪われている。それを解呪することもできなかったからこそ、辺境の地にあるヴァーケル村で匿われていたのだろう」
それを口にすれば、ギルティアは目を見開いた。
それもそうだろう。混血児だから呪われているのだと村人たちを騙して来たのは、ギルティアと村長の決め事だ。
それを知っているのは村に残したアンディに命令をして村長を脅したからだ。もっともそのようなことを教えやる優しさはない。
騙されてしまえばいい。
唯一の理解者がいるのだと錯覚すればいい。
そうしてしまえば、簡単に扱うことができる。しかし、その考えすらも読めるのならば、それほどに使い勝手のいい従者はいないだろう。
「なんで知っているとでも言いたげな顔だな。答えは簡単だ。私もお前と同じように呪われているからだ」
シャーロットは生まれる前から呪われている。
予言者の母によって呪われている。
母上は帝国を救うためだけにシャーロットたちを呪ったのだ。元聖女とは思えない恐ろしい呪いをかけたのだ。その呪いによって帝国を救う可能性を編み出したというのだから恐ろしい人である。
帝国のためならば見知らぬ子どもであっても、実の娘であっても、身分のある生まれの子どもであっても、相手を選ぶことをせずに呪ったのだ。
母は非道な人だ。
英雄となる予言の子には問題を残さない呪いは周囲に影響を与えた。
同じ日に生まれてきた弟には不幸でしかなかった。
それすらも、いずれ帝国を危機から救う為なのだから仕方がないと言い放ったのだ。
それすらも、帝国を救う為になることだと、大義名分を言い訳にして逃げた。
実の子であるシャーロットも弟も見捨てたのだ。
「私は術者を知っている。そしてこの忌々しい呪いの解呪方法も知っている」
「……それは本当の情報か?」
「嘘を吐く必要はないだろう。信じなくても構わない。ただし、その場合、お前は死ぬまで呪いと付き合っていくことになるが」
シャーロットは希望をちらつかせる。
(バカだな)
それをギルティアは信じたようだ。
嘘ではないと見抜いたというべきだろうか。
「冗談じゃねえ。こんなふざけた呪いを死ぬまで抱えてられるかよ!」
「そうだろうな。私もそう思うよ」
英雄になる為に生まれてきたのだから仕方がないと諦めることができる人もいるだろう。
これは呪いではなく選ばれた者だけが手に入れることができる才能なのだと解釈する人もいるかもしれない。特殊体質と片づけられてしまう呪いの力の恩恵を受けている人だっているかもしれない。
シャーロットも特殊体質がなければ、何度、命を落としていたかわからない。




