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悪女シャーロット・フリークスは英雄になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 彼女の名は、シャーロット・シャルラハロート・フリークス
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03-1.勝ち目がない? 誰に言っているのだと笑う

* * *



 屋敷に戻り、すぐに手に取ったのは予言書だ。正確にいうと母が予言した内容が記された予言書の模倣本だ。


 本物は皇帝陛下の手元で厳重に管理されているといわれている。実際はどうなのかは知らないが。


 降嫁前は、神託を受け取ることができる聖女として有名だった母上は、結婚後も教会の管理下で生活をしていることが多い。


 娘のシャーロットですら年に数回しかその顔を見ることはない。


 どのような状況下においても神託である予言を受け取れるようにする為の措置だとされているが、実際は監禁のようなものだろう。それでも母は文句を言わずに生活をしているのだから理解ができない。


「……なるほど、共鳴現象か」


 母上が予言した帝国を救う英雄は七人。


 その内の三人が自分自身とギルティア、ロヴィーノだ。聖女を含めればマリーもいるため、四人は見つけれたことになる。


 世間が知っている予言の子はシャーロットだけである。


 それ以外は母と皇帝陛下しか知らないとされている。正確には皇帝陛下が信頼をしている数名の側近も知っているだろう。


 先日、母に強請っても教えてくれたのはギルティアの存在だけだった。それもフリークス公爵領内にいることと、人間と異種族の混血種であるということだけだ。


 ギルティアが予言された一人だとわかったのは、彼の顔を見てからだ。


 予言された七人には共通点がある。


 魔術とは異なる力を所持していることだ。母は特殊体質と呼んでいた力を持っている者同士、分かり合えるものがあるのだろう。この本では共鳴現象と書かれていた。


 予言の才がないシャーロットでもそれだけは分かった。本能だったのかもしれない。


 目が合った瞬間にわかったのだ。ギルティアはシャーロットと同じだと。


「厄介なことになったな」


 本を閉じる。


 母は厄介なものを予言していた。


「帝国の危機か……。私は英雄になりたくはないのだが」


 悪女と呼ばれるままの生活を送りたい。


 十歳の子どもを悪女と呼ぶ世間もどうかとは思うが、しかたがないだろう。フリークス公爵家は悪役にふさわしい家系なのだ。


 しかし、その生活も終わりが近づいている。


 帝国の危機が近づくと特殊体質を持つ者同士は共鳴現象を引き起こすようになると書かれていたのだ。それが現実になるのかわからないものの、予言の的中率を考えれば当たる可能性が高い。


(半年以内になにが起きるというんだ?)


 ギルティアを見つけることができたのは、危機が近づいているということではないのか。


(内戦か、戦争か、反乱か。想像はできるが特定はできない)


 ロイドに任せてあるギルティアがこのことを分かっているとは思いにくいが、確認をしてみる方が良いだろう。屋敷に連れて帰ってきた時にも違和感を抱いていたのだが、ギルティアは物分かりがいい。


 まるでこうなることを知っていたかのように受け入れるのだ。もしかしたら、それは特殊体質によるものなのかもしれない。


 三回、扉を叩く音がした。


 屋敷での仕事の説明のため、私の傍を離れていたロイドが戻ってきたのだろう。


「お嬢様、ロイドです。ギルティアを連れて参りました。入室のご許可を頂けませんでしょうか?」


「入れ」


「失礼いたします」


 椅子を動かして扉の方向へと体を向ける。


 慣れた手つきで扉が開かれ、ロイドが入って来る。その後ろをギルティアが付いてきたのだが、やはり慣れている様子にも見える。普通ならば怯えるか、挙動不審になるのではないだろうか。緊張している様子も見られない。


 数時間前にはギルティアの妹を殺そうとした相手に対して恐怖心もないのだろうか。それとも、それも共鳴現象による影響なのだろうか。


「ロイド。ギルティアの様子はどうだった?」


「お嬢様の命令通り、見張っておりましたが、緊張している様子は見られませんでした。それどころか落ち着いているようにも見えました。お嬢様、この男は普通ではありません。今すぐ、始末をするべきではないかと思います」


「ふふ、大丈夫だ。普通ではないだろうと予想はしていた」


 目の前で見張っていたなどと言われても表情を変えないのには驚いた。猜疑心や恐怖心を持ち合わせていないのだろうか。それともなにか企んでいると疑った方が良いのだろうか。いや、どちらも考えすぎかもしれない。


「ロイド。下がっていろ」


「それはなりません。お嬢様、この男は危険人物です。お嬢様と二人にするわけにはいきません」


 ロイドは過保護だ。


 シャーロットの実力を知っていてもなお、守ろうとする。


「大丈夫だ。なにか問題を起こせば、ギルティアを殺して、ヴァーケル村も焼き払うだけだ」


「甘く見ていると酷い目に遭うかもしれません。お嬢様。お願いいたします。同席をする許可をお与えください」


 ロイドもヴァーケル村の出身だからだろうか。


 見た目ではギルティアよりもロイドの方が年上に見えるが、実年齢はそうとも限らない。エルフ族の特徴が容姿に表れていることを考えれば、見た目よりも歳を重ねているのかもしれない。


 十五年以上も前にヴァーケル村を発ったといっていたロイドのことを知っていることも考えれば、その可能性は高いだろう。


「話が終わり次第、呼びに行かせる。それまでは外で待機していろ」


 お気に入りの従者とはいえ、必要以上に立ち入らせるつもりはない。


 帝国の危機を救うとされている予言に関わっているかもしれない。そうなれば、これは公爵家だけの話ではなくなってしまうのだ。


 帝国規模の話にロイドを巻き込むわけにはいかない。


 お気に入りである彼がいなくなってしまうのは悲しい。なにより主人の命令を聞けない従者は必要なくなってしまう。


 シャーロットは、他人を切り捨てることに慣れてしまっているのだ。必要ないと判断すれば、お気に入りだと思っている感情すらも色褪せてしまうかもしれない。


「……かしこまりました。お嬢様、廊下にて待機させていただきます。せめて、緊急時には駆けつけることだけはお許しいただけないでしょうか?」


「いいだろう。許可しよう」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします。――ギルティア、お嬢様になにかをしたら殺すからな」


 ロイドは何度かシャーロットを振り返りながらも、部屋を出て行った。


(ギルティアの肩を強く叩き、殺害予告をしていくのは見なかったことにしておこう)


 騎士であるとはいえ、実際に戦ったら命を落とすことになるのはギルティアではなくロイドだ。それが分からないわけでもないだろう。


 それでも、シャーロットの為に命を投げ出すだろう。


 勝てない相手だと分かっていながらも、私を守ろうと身を盾にするだろう。


 それが余計な真似をしているだけだと分かっていながらも、ロイドはそうしてしまうだろう。


「……お前、何者なんだよ」


 ロイドが部屋から出て行ったのを確認したのと同時にギルティアが口を開いた。真面目に言っているのだろうか。


 何者かわかっていないまま付いてきたのだとしたら笑える話だ。

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