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悪女シャーロット・フリークスは英雄になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 彼女の名は、シャーロット・シャルラハロート・フリークス
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02-2.逆らった者の行方を知っているかい?

 最初から大人しく従っていればいいのに、愚かなことをするから悪い。


 大人しく従っていればよかったのだ。そうすれば意味もなく殺傷をすることはなかった。


(凍り付かせたエルフ族が住む森は、気が向いた時にでも魔術を解除することにしよう)


 木々を凍らせたものの中に住むエルフ族は生きているだろう。凍えて命を落とす者はいるかもしれないが、彼らの知恵で乗り越えるだろう。この森が駄目になったと判断して次の場所へと移り住むだろう。


 彼らは人間が思っている以上にたくましい連中だ。


 人間が騒がしく暮らしている土地ではなく、別の土地へと移り住もうとしているのは精霊たちから聞いていた。精霊たちを通じて、静かな場所の候補地を幾つかエルフ族に伝えてある。だからこそ、人間が思うほどに森を凍らせたことはエルフ族には影響がないのだ。


 ロイドとギルティアを連れて馬車まで戻ろうと背を向けた途端、殺気を感じた。瞬時に【防護壁(バリア)】を展開する。


 シャーロットに触れようとして弾かれたのは石だった。


(【防護壁(バリア)】を展開するまでもなかったな。)


 すぐに潜んでいた使用人によって取り押さえられていた少女が殺気を放っていたのだろう。


 エルフ族ではない。ただの人間だ。


 言葉を理解できない幼い子であるのならば放っておいたが、そういうわけではないのだろう。見た目を考えればシャーロットよりも上だろう。しかし、まだ少女といっても問題はない年齢だ。


 おもしろいくらいに村長も大人たちも、ギルティアも狼狽えている。


 この場に少女が来ることを誰も想定をしていなかったのだろう。それも、村にとっては大切にされていたのだろう。だからこそ笑ってしまうくらいに狼狽えているのだ。


 なにより、ハズレの村にしては、身だしなみが綺麗なのはその証拠だ。


 その日暮らしをしているだろう村の子だというのにもかかわらず、少女が身に付けているものだけが良質なものだ。


 市民階級でありながらもそれを身に付けることができるのは、首都ヴァーミリオンに住む商人くらいだろう。貴族からしてみれば安物ではあるが、庶民には憧れの品だったはずだ。


「さて、どうしてくれようか」


 シャーロットは笑った。愉快でしかたがなかった。


(これがもう一人の英雄)


 少女の正体を見抜いた。


 しかし、シャーロットの手元に置いておきたいという欲求には駆られなかった。ギルティアとは違い、少女には特別な力がない。


(聖女か)


 英雄たちの旗印としての存在だ。


 神聖ライドローズ帝国こそが正しいのだと主張するためだけに選ばれた生贄にすぎない。


(それにしても、気配が弱すぎる)


 ギルティアと比べて気配は普通の人間と同じだった。


 英雄に選ばれたとは思えないほどに弱弱しいものだった。


「見せしめとして生きたまま燃やそうか? 生きたまま氷漬けにしてやってもいいぞ。それとも奴隷商に売り飛ばしてもいい。私に逆らった度胸を認めてやろう。さあ、好きな死に方を選ぶといい」


 少女の着ている服はシャーロットが与えたものではない。


 フューネとアンディが用意したものではないが、それなりに綺麗なものだ。ただの農民が手に入れるのには苦労がするだろう。それほどに可愛がられている少女を取り押さえられては、村長も顔を青褪めるのも無理はないだろう。


「……俺の妹なんだ。頼む、見逃してやってくれよ」


 ギルティアが頭を下げた。


 震えているのは恐怖ではない。この男、妹がしでかしたことに対して笑っているのだ。


「見ればわかるよ。その程度のつながりは」


 シャーロットは笑った。


(妹を庇うわけではないのだな)


 見逃してほしいと願うのは別に理由があるのだろう。


 シャーロットも本気で脅迫をしているわけではない。将来は聖女となるべく育てられる少女を害するつもりはなかった。


「どうやらこの村は徹底的に手を加える必要があるようだ。ふふ、父上も人が悪い。面倒だからと放置をするからこうなるんだ。さて、どうしてやろうか」


「見てわかるなら見逃してくれっ! たった一人の妹なんだ、彼奴は、きっと俺が奴隷商に捕まったと思って――」


「私が奴隷商に見えるとでも言いたいのか、お前は」


 縋るように頼み込んでくるギルティアの腕を払い落す。


(こいつもこいつで立場を理解していない。従者に選んだのだ、この私が。主人に泣きつくどころか暴言を吐く従者がいるものか!)


 シャーロットと同じように預言で選ばれたのだからと甘く見ていたが、この態度の悪さと図々しさはどうにかしなくてはならない。


(いや、態度の悪さは見逃してもいい)


 視察に行く時に身分を取り繕う手間がない。


 それにいずれは同僚になるのだ。シャーロットへの態度は多少雑な方が後ほど役に立つ。しかし、これほどに粗悪なのは認められないだろう。


「ロイド、ギルティアの話し方はそのままで良い。後は礼儀作法と常識を叩きこんでやれ。魔術は私が叩き込んでやろう。死なない程度にならどのような扱い方をしても構わない。とりあえずはロイドの部下になるんだからな」


「かしこまりました。お嬢様」


「任せたよ。さて、どうしてやろうか。ギルティアはこの娘の命乞いをしたが、私はそれを簡単に叶えてやるほどに優しい人ではないのでな」


 よくよく見れば、生意気そうな顔立ちがギルティアと似ている。


 エルフ族の特徴が見られないことを考えれば、両親の片方が違うのだろう。状況を理解できていなそうな顔をみれば、ギルティアと違って従者として取り立てるほどの利用価値もなさそうだ。


 こいつも見た目で判断をしているのだろう。生意気そうな顔をしてシャーロットを睨んでいる。その手にはいくつもの小石がある。


「お兄ちゃんを連れていかないでっ!!」


「嫌だよ。子どものお願いは聞いてやらない主義なんだ」


「あんただって、マリーとそんなに変わらないじゃない! お兄ちゃんを連れていかないでよ!」


 少女――、マリー・ヤヌットは生意気だった。


 涙を浮かべながら必死に抵抗をしている。


「お前と一緒だって? 笑わせてくれる」


 気が変わった。なにもできない子どもの癖にシャーロットに逆らったのだ。その度胸を認めて苦しんでもらおう。


 辺境の地で愛されて育ったバカな子どもとシャーロットを一緒にするなど許されない。


 シャーロットはそれを認めない。


 マリーには不幸になってもらわなくては気が済まない。


(どうしてやろうか)


 どうすればマリーの強い眼差しを曇らせられるだろうか。


「この場で殺されたいか?」


 マリーに手を伸ばせば、銃声が聞こえた。


 放たれただろう銃弾はロイドが展開した【防護壁(バリア)】で弾き飛ばされたものの、私に危害を加えようとしたことには変わりはない。


 すぐにアンディが犯人を捕まえている。


 村長の後ろで様子を窺っていた男性だ。


 まだ諦めていないのか、暴れている男性の首にナイフが当てられ、掻っ切られる。


(殺せと命令を下していないのにもかかわらず、相変わらず、手の早い奴だ)


 魔術で強化されているナイフを全力で振るったのだろう。男性の首の半分が取れかかっている。あまり見ていていい気分になるものではないため、目を逸らす。


 痛みの中で悶えることはなく命を落とせたのは運が良かっただろう。


「……興が冷めた。子どもを嬲り殺しにするのは止めておこう」


 マリーを守ろうとして命を落とした男性に敬意を払うべきだろうか。いや、シャーロットの命を狙った時点で死が確定したようなものだ。敬意を払う必要もないだろう。


「良いことを思い付いた。ギルティア、お前の妹なのだろう? お前が別れを告げろ。二度と会わないと告げてやればいい。それに抵抗するようならば殺せ」


 ギルティアには、返しきれない恩を作っておくのも良いだろう。


 なにより、シャーロットも子どもを殺すのは僅かではあるが抵抗がある。腹立たしいものの家族を奪われそうになったから立ち向かったのだろう。生かしておけば、今後、シャーロットの邪魔になるかもしれない。


 しかし、兄妹を助けたいと願う気持ちはわからなくもない。


 マリーから見れば、シャーロットは人攫いだろう。


 一緒にいた家族を奪って行こうとするのだから刃向いたくもなるだろう。この状況を見ていたのならば刃向うことは自殺行為と同じだということを理解していないのは、嘆かわしい話だ。


 刃向うのならば、帝国の意思に反するとして殺さなければ示しがつかないことは理解している。ここでマリーを許せば、後に村全体の反逆に繋がる可能性もある。そしたらその時だ。村人を殺してしまえばいい。


「……マリー、兄さんのことは死んだと思え。あの人はフリークス領の公爵令嬢だ、領主の娘だ。逆らえば村が氷漬けになる。それは嫌だろ?」


 頼りない足取りでマリーに近づいたギルティアの表情は分からない。


 ただ理解ができないと言いたげな顔をしているマリーは私を睨もうとしたが、それすらも阻止されていた。


(嘘だな)


 村が氷漬けにされてもギルティアは笑うだろう。


 彼はどこかおかしい。


 最後だといわんばかりにギルティアがマリーを抱き締めている姿をみてもなにも感じない。兄妹を思う気持ちは理解できるものの、結局は他人事だ。


 それに、ギルティアは笑っていた。


 こうなることがわかっていたかのようだった。


「わかんない、わかんないよ、お兄ちゃん! どうしてお兄ちゃんが行かなきゃいけないの!? マリーをおいていかないでよ!」


「仕方がないことなんだ。お前は兄さんとは違ってこの村で生きていける。だから、兄さんのことは忘れろ」


「いやよっ!」


「兄さんの言う通りにしてくれ。約束をしただろう。お前はこの村で生きていくんだ。そのためには、兄さんはお前の傍にいてやれないんだよ」


 二人のやり取りを眺めていると違和感を抱く。


 主にギルティアへの違和感だ。見逃して欲しいといいながらも執着心は無いように見える。そもそも、盗賊に身を落としてまで守ろうとした村を簡単に捨てたことがおかしい。これはなにかある。それも母が予言した内容に関連するようなことだろう。


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