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悪女シャーロット・フリークスは英雄になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 彼女の名は、シャーロット・シャルラハロート・フリークス
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01-3.予言者の娘には誰も逆らえない

 しかし、盗賊たちは水の檻の中に入っており、手足を出せない。武器は水の檻から弾き出されてしまっており、抵抗をする術をすべて失っている。それなのに彼らは諦めていなかった。


「いいえ、知っているからこそ、危険だと言っているのです。お嬢様。農具しかないヴァーケル村の者たちが盗賊として成り立つのには、一つだけ理由があります。彼らの頭領――、ええ、そうです。お嬢様が飼い慣らすと言っていた頭領こそが彼らの力なのです」


 シャーロットを庇うように前に出たロイドは、身に付けていた剣を抜き取る。


 シャーロットはただの公爵令嬢ではない。


 大予言者である母によって、いずれ帝国を救うこととなる七人の偉大な魔術師の一人と予言されたのだ。


 鬼だとか、希代の悪女だとか、散々な呪いの言葉を吐いていたものの、当時、母は身籠ってもいなかったシャーロットを指名した。授かりものである子の誕生を予言し、的中させたことは帝国中を騒がせたらしい。


 しかし、生まれる前から呪われているというのも悲しいものである。


 だからこそ、いずれは帝国の未来を背負うこととなるシャーロットを守るための護衛はいる。シャーロットがどれほどに強くても、予言が外れることを恐れる両親は、護衛と称した監視役を付けたがる。


 それならば、シャーロットが厳選した者だけを引き連れた方がいい。


 ロイドはその中でもシャーロットの一番のお気に入りである。


 今後もロイドほどに気に入った騎士はいないだろう。彼はシャーロットの従者であり騎士なのだ。


「俺たちを裏切った奴が好き勝手に言うんじゃねえよ」


 木の上から一人降って来た。


 水の中級精霊たちは彼を恐れるように逃げている。珍しいことがあるものだ。精霊が恐れるのは神格のものか、叶わないと判断した者だけである。


(混血種か)


 エルフの血が混ざっているのだろう。


 鋭く尖った耳が特徴的な青年はロイドの前に立ちふさがる。


(予言の英雄の一人か)


 予言された英雄となる一人だ。


 それなのに保護されなかったのは、彼が混血種と呼ばれ、嫌われている種族の人間だからだろう。


「お嬢様。【防護壁(バリア)】でご自身を御守りください。貴女様を守りながら対処するのには時間がかかってしまいます」


 ロイドは頭がいい。降りて来た頭領が敵だと判断したようだ。


 会話で解決をする余地はないと判断をしたのだろう。


「既に展開してある。好きに暴れて構わんぞ、ロイド」


 木の上に潜んでいるのは気づいていた。


 真っ向勝負を挑んでくるとは思わなかったが。


「お前の周りにも【防護壁(バリア)】を展開した。必要なら護衛兵も呼ぶか? 獲物を見つけて飛び掛かりたそうな顔をしている奴らが五人ほどにいるぞ。それも好きに使っていい」


「では、彼らはお嬢様の護衛にお使いください。彼は――、ギルティアはここで仕留めます」


 シャーロットたちの会話を聞いて気が立っているのだろう。獣のような眼を向けている。それでも直ぐに攻撃を仕掛けて来ないのは、捕えてある彼の仲間が気がかりだからか。


「仕留める? それはダメだ。生きたまま捕えなくては意味がない」


 それにしても、拾いものがあればいいと思い立って来てみたものだが、予想以上に良いものを見つけた。


(ヴァーケル村には二人いたはずだ)


 母はこのことを知っていたのだろうか。


 母が予言をした七人の内の一人がここにいた。


 このような荒れ果てた土地にはもったいない。


(なぜ、母上は放置をしていたのか)


 混血種が理由ならば、英雄に名を連ねていないはずだ。


 いずれ、シャーロットが自分の味方として勧誘すると知っていたのかもしれない。


「ロイド、下がれ。それは私の獲物だ」


 力量不足ではない。


 ただ見てみたいのだ。母が予言した帝国を救う英雄の実力を見たい。


 十歳でありながらも、天才魔術師と世間を驚かせているシャーロットと同等の存在になり得るのか、ただ利用されるだけの哀れな存在なのか。それを自分の手で見極めたい。


(あれは私の獲物だ)


 一目見た時から気に入った。


 美しい外見も気性の荒さも、シャーロットのものにするのにはちょうどいい。


(捕まえたら私の従者にしよう)


 獲物を狩る感覚だった。


「ギルティアといったか。駒にでもしようと思っていたが、撤回しよう」


 シャーロットは提案をするわけではない。これは決定事項だ。青年、ギルティア・ヤヌットではシャーロットに勝てないと理解をした上で笑いかけたのだ。


「お前は私の従者になれ。いずれは共に帝国を支えることになるのだ。今の内に派閥を作っておくのも悪くはないだろう。ありがたく思え。私の派閥に入れてやるのだ」


 手加減はしない。する必要がない相手に会えたのは久しぶりだ。


 父と手合わせをした時以来だろうか。


 今では父と手合わせをしてもシャーロットが勝ってしまう。呪われた子は英雄になる為だけに強くなっていくかのように、気味が悪かった。


「お嬢様……?」


 ロイドが戸惑っているのはわかっている。


 でも、止まれない。


「ヴァーケル村を発展させる。英雄の育った村だ。特産などなくても賑やかになるだろう。良かったな。お前の名でこの村は発展するのだ。――だが、その反抗的な眼は好かない。“伏せろ”」


 相手は理解をしていないのだろう。


 ギルティアに魔力を乗せる。言霊に乗せただけの魔術だ。


 ロイドに守られる必要はないというかのように前に出れば、ギルティアの身体は地面に押し付けられる。


 直接、触れるような真似はしない。シャーロットは伏せろと魔力を纏わせた言葉を口にしただけだ。


 それに従ったのはギルティアの本能か、その身に流れているのだろうエルフ族の特性か。どちらでもいい話だった。


 大人しくシャーロットに従うのならば異種族の血が混ざっていても問題はない。


「良い目をしている」


 地面に押し付けられたギルティアは、相変わらず反抗的な顔をしている。魔術を使おうとしているのだろう。


「魔術を使おうとしても無駄だ。私に敵うはずがない」


 彼の周囲の空気が揺れるが、それすらも掻き消してやれば、魔術が使えなくなる。自身の魔力ではなく、周囲にある自然の魔力を行使しようとしたところを見ると、やはり、エルフ族の血が混じっているのだろう。


 この辺りではそのような者は少なくはない。


 しかし、差別の対象であることには変わりはなかった。


「お前は私の従者にする。だが、私は父上とは違って情がないわけではない。今のところは。だから、お前の願いを一つだけ叶えてやろう」


 ロイドは面白くない顔をしていることだろう。


 強引に前に出たシャーロットの腕を引っ張ってでも後ろに隠したいのだろう。ある程度、一緒にいるとその行動が理解できる。


 シャーロットは自分が思うなりに優しい声で提案をした。


 それが脅迫だということに気づいていない。


「傀儡になりたくないのならば、お前の意思で私を選べ。賢い脳味噌があるのならばどうすればいいのか分かるだろう?」


 魔術を使おうとしても掻き消されて使えない。それに焦りを抱いているのだろう。今までは無意識に魔術を使ってきたのだろう。


 このような辺境の地では魔術を教える者はいない。


 エルフ族は血の混じった者に教えの手を伸ばすことはないだろう。仲間から迫害される覚悟がある者が身近にいれば話は変わってくるが、自分自身の魔力を使おうとしないのを見る限りはその可能性は薄い。


「……妹と村の連中には手を出すな」


「私は一つだけと言ったのだが。まあ、いいだろう。お前の妹君には良い暮らしをさせてやる。盗賊などせずとも真っ当に生きられるように約束しよう」


 村の連中のことなど思ってもいないくせに、よくも偽善者ぶれるものだ。


 シャーロットは心の底で思ったことを口にしない。


(こいつの本性を早く見てみたい)


 母の予言通りならば、ろくでもない性格のはずだ。


 英雄は性格が歪んでいる。


 与えられた異能力の影響からなのか。魔力の多さなのかはわからないが、家庭環境が歪な場合が多く、彼らの性格は酷く歪んでいた。


 それでも、愛国心はある。


 愛国心があるからこそ、英雄に選ばれたのだ。


「フューネ、アンディ。彼らに衣服と簡単な食料を与えろ。それから息を整えたら村の長の元まで連れて来い。抵抗するなら気絶させて連れて来い」


 隠れていた従者に告げる。用件だけで彼らは簡単に動く。


「息の根は止めるなよ」


 約束が成立したと言うかのように、水の中級精霊たちが作った檻を壊し、盗賊団が解放される。精霊たちは仕事が終わったというかのように、シャーロットの頭上を一周してから消えていく。


 名を呼ばれて飛び出して来たフューネとアンディに盗賊団は好きなように着せ替えられている。父上が与えた使用人とはいえ、彼女たちは役に立つ。


「お嬢様。どうやら態々出向く必要もないようです。あちらから姿を見せました」


 ロイドに言われて見てみれば、顔面蒼白とした老人が走って来る。元気な老人もいるものだ。少なくとも隠居している祖父はあのように走ることは出来ないだろう。


(ヴァーケル村は丈夫な人間が多いな)


 エルフの加護を受けているのだろうか。


 ヴァーケル村を囲うように存在しているエルフの森が僅かに揺れた。風ではなく、意図的なものであるとシャーロットだけが知っていた。

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