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悪女シャーロット・フリークスは英雄になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 彼女の名は、シャーロット・シャルラハロート・フリークス
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01-2.予言者の娘には誰も逆らえない

(残りの時間は半年。それしか猶予はない)


 シャーロットには時間がなかった。


 シャーロットにとっては生まれた時から与えられた呪いとも呼べる予言により、神聖ライドローズ帝国の革命の時が一刻一刻と近づいている。それを救うための英雄になることがシャーロットに刻まれた呪いだった。


 シャーロットは強い。


 それは英雄として生きるために与えられた特殊能力によるものだ。


(使えるものはなんでも使わなければ)


 シャーロットは決意をしていた。


 呪いに抗うのだ。


 シャーロットは悪女になっても良いと思っていた。しかし、国を救うような英雄にはなりたくなかった。そのような立場で他人を見下し、帝国を救うのには不向きな性格をしていると自負していた。


「十歳の誕生日プレゼントをもらったということにしようか」


 送られてくるだけの山のようなプレゼントよりも、シャーロットは忠実な部下がほしい。


 時間がないのだ。使えるだけの戦力がほしかった。


(私の大切な弟を守れるものがほしい。呪いなんて忌々しいものを弾き飛ばすような画期的な魔法を手に入れたい)


 欲は膨らむばかりだ。


 それを両親は与えてはくれない。


 それならば、シャーロットが自分の手で探すしかない。


「そうと決まれば村長に話を通さなければならんな。立地条件は悪いが、仕方がない。いずれはフリークス領の第二の都になると思えば、多少、困難があった方がやり甲斐があるというものだ」


 停車した馬車から飛び降りる。


 役に立たない操縦士は気絶をしている。馬は水の中級精霊に驚いたのだろうか、腰を抜かして大人しくなっていた。


「気絶している操縦士よりは役に立つだろう。役に立たなければ始末すればいい。父上がしていることを私もするだけだ。ロイド、お前が驚くような必要はないだろう?」


 父は非常に合理的な人である。


 趣味は金銭を稼ぐ仕事。外交外遊。帝国の貴族と言えばそんなものかもしれないが、他の貴族とは違うところがある。


 父は領地の繁栄こそがもっとも効率のいい金稼ぎだと思っているのだ。そのためには、価値の無いと判断した村々、いわゆる“ハズレの村”や“ハズレの町”は整備が行き届いていない。


 それどころか、父が課す税金を納める以外では関わりを持ってすらいない。


「私に喧嘩を売って負けたのだ。こいつらの命を私のものにしても、なにも文句は言えないだろう」


 シャーロットの言葉は絶対だった。


 ここは公爵家から捨てられた場所なのだ。


 その一つがこのヴァーケル村だ。


 辺りはエルフの森が多い、魔国との国境も近い。理性の持たない魔物も出没をしていると聞く。フリークス公爵領内でも魔物による人的被害がもっとも多いのだ。


 そうなれば、当然のように盗賊家業で生き抜こうとする者も出るだろう。


 それはいいのだ。


 生きる為には手段を選ばないのは仕方がないことだ。


 すぐに命を諦めてしまう連中よりも好感を抱ける。そういった連中は死にたくないからこそ頭を使うのだ。


 死にたくないからこそ腕を磨く。


 魔術を使えなくとも、盗賊に限って生存率が高いのはそういうことだ。生きる気力を失わないということはなによりも大切なことであることを、道を外れた彼らが知っているというのは不思議なものである。


 父が“ハズレの村”として切り捨てからこそ、この村の若者たちは盗賊業に手を出してしまったのだろう。


 そう考えてみれば、元を辿れば公爵家のやり方が悪いと言われても仕方がない。そのようなことを言われてもなにも感じない。


(罪を犯しながらも生きる気力を失っていないのは、彼らにとって不幸だったのか、幸運だったのか)


 シャーロットには理解ができなかった。


 他人の不幸を理解できない。


 それはシャーロットにとって道端の石となにも変わらない。


(私に拾われるのだから幸運とは言えないだろう。必死になって生きようとしてきたことを後悔するかもしれない)


 そうなっても、なにも感じないのだから、シャーロットもおかしいのだろう。


 シャーロットにとって大事なものは決まっている。


 シャーロットが守れる範囲の者たちは、それなりに大切に思っている人たちで固めると決めているのだ。ロイドもそうだ。口では文句ばかりを言うが、シャーロットのすることを支持している。


(私の知ったことではないが)


 だからこそ、シャーロットの知らないところでその命を落とすことがないように、傍付きにしているのだ。


 これは大切な者を守る為の行動だ。そう思っている。


「見てみろ。こいつらの悔しそうな顔を。負けたというのにもかかわらず、まだ勝てると思っている目をしている。諦めていないのだよ」


 水の中級精霊が作り上げた檻を破ることもできないのにもかかわらず、絶望を抱いていない。まだ負けたわけではないと、逆転することが可能であると信じている。その目はいつまでも見ていられる。


 そういう目をシャーロットもしていたかった。


 諦めたような目をシャーロットはしている。予言に逆らうのだと決めていながらも、それは不可能だと知っているからこそ、なにもかも、諦めてしまいたかった。


 しかし、それはできない。


 諦めることすらも選択肢になかった。


「たまらないな。どうしようもないバカというのは見ていて楽しいものだ」


 彼らが分かっていないのだ。


 この状況だからこそ彼らに勝利がないわけではない。


 シャーロットを敵に回してしまったからこそ勝てないのだということを理解していないのだ。なんて愚かなことだろう。それがわからないようでは、彼らが勝つこともシャーロットに傷をつけることすらも不可能であるということを理解していない。


「ヴァーケル村はエルフの森に囲まれ、魔国との国境も近い。それだけの理由で父上はこの村を切り捨てたのだろう」


 立地条件は悪すぎる。


 この村そのものは磨いても価値がでないだろう。


「愚かな話だ。だからこそ、戦闘訓練が盛んな優秀な兵士が生まれるというのに、父上はわかっていない。裕福な腹の出た子どもなど相手にもならん。こいつは磨けば金になる。優秀な者たちよ」


 シャーロットは村人たちの目に覚悟を感じた。


「とはいえ、あっさりと水の中級精霊に捕まるようでは話にならんが」


 水の中級精霊が作り上げた檻の中にいる彼らを覗き込む。魔術の心得があれば私を檻の中に引きずり込むことも可能だ。それをしようとしないということは魔術を知らないのだろう。


 捕えている盗賊たちに近づけば、後ろから腕を引っ張られる。視線を向ければ、ロイドが死にそうな顔をして首を横に振っている。


「危険です。お嬢様。下がっていてください」


「なにを警戒しているのだ。お前もこの村の出身だと言っていただろう。年代としては彼らの幼少期を知っているのではないか? それならば同情をしても警戒する必要はないのではないか?」


 シャーロットはロイドの言葉に違和感を抱いた。


 露骨なまでに警戒心を強めている。


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