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悪女シャーロット・フリークスは英雄になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 彼女の名は、シャーロット・シャルラハロート・フリークス
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04-2.公爵令嬢はなにを望むのか

 帝国を救うために相応しい英雄へと作り変えるための呪詛は、シャーロットとして生きていくためには必要なものを不要だと判断したのだろう。そのくらいのことを気付けないほどに愚かでありたかった。


「この話は終わりにしよう。ロイド。お前が話をしたくないと拒むのならばそれでいい。そこまで知りたいわけではないからな」


「……お嬢様。私は、貴女が望まれるのならばっ」


「強要するつもりはない。それよりも朝食の時間に遅れてしまうだろう? 今日は私の好物を作るとジェフリーが言っていたからな。冷めてしまってはもったいない」


 椅子から降りて歩き始めれば、ロイドは気まずそうな顔をしていた。


 そのような顔をするのならば打ち明ければよかったのだ。


 ロイドの過去になにがあろうと、ギルティアがなにをしていようとも、シャーロットには関係がない。


 知りたかったのはギルティアが犯したという罪の内容だ。それは彼奴にかけられている呪詛の進行度が進んでいるのに関わっているかもしれない。シャーロットよりも倍の速度で進行していることが気がかりで仕方がないのだ。


 術者を殺す以外にも方法があるのかもしれない。


 少なくとも進行速度を緩める方法があるのかもしれない。


 それを探るための情報が欲しかっただけなのだが、ロイドには理解が出来なかったのだろう。とはいえ、この話をロイドの耳にいれるつもりはない。屋敷にいる者たちの耳に入れるつもりはない。


 シャーロットは、誰も巻き込むつもりはないのだ。


「そいつをお供に選んでいるのは趣味かァ? シャーロット」


 ロイドが自室の扉を開け、廊下に出た途端にギルティアに声がかけられた。


 朝から顔を出さないとは思っていたものの、ご丁寧なことに廊下で待っていたのだろう。壁に背を預けるようにして立っているギルティアに対し、ロイドは露骨なまでに嫌そうな顔をしている。


 シャーロットを庇っているつもりなのだろうか。


 シャーロットの前に立ったロイドの背に隠れてしまい、ギルティアがどのような表情をしているのか見えなくなった。


「お嬢様に対して無礼な言葉を取り下げろ、ギルティア・ヤヌット。お前に言い渡した持ち場に戻れ」


「はァ? 俺に命令してくれんなよ、ロイド」


「お前の直属の上司は俺だ。公爵邸にて働くというのならば上司の命令に従うのは当然のことだ」


 ロイドは穏やかな性格に部類されるだろう。少なくとも上司だからとその権力を行使している姿も低い声で命令をしている姿も初めて見る。


 シャーロットに振り回され、シャーロットに意見を述べることはあるものの、いつだってシャーロットの意思を尊重する男だ。


 そのような男だからこそ、シャーロットはシャーロットであり続ける間はロイドを手放してやるつもりはないのだ。


 父に与えられた護衛の一人ではあるものの、ロイドはシャーロットが傍に置いておくために選んだようなものだ。


 ロイド以外の護衛が陰で見張っているのとは違い、執事としての役目も言い渡したのは単純に彼の気性が気に入ったからだ。


 それなのにどうしてだろうか。


 ロイドはシャーロットを守るのが役目だと言わんばかりにギルティアを威嚇し、私を背に隠してしまう。それは無駄なことだと、ロイドが誰よりも理解をしているだろう。


「お前のような輩がお嬢様のお傍に近づくことは許されない。身分を弁えろ」


「弱い奴が立ち塞がる方が許されねえだろうなァ。シャーロットを庇うなんてバカのすることだぜ? あんたが守らねえといけねえほどに弱くはねえよ」


「お嬢様の傍にお前を近づけないのも俺の役目だ。早く持ち場に戻れ。お嬢様は忙しいのだからお前に構ってやるような無駄な時間はない」


 二人の間になにかがあったのは確実だろう。


 ロイドが話そうとしないギルティアが犯した罪に関わっているのだろう。


 近寄らせないことが役目だと宣言したロイドには悪いことをするとは思うが、仕方がないことなのだ。


 シャーロットの目的を果たすためには戦闘に厄立つだろうギルティアの力が必要となる。そのためには傍に置いておかなくてはならない。本当は十年前からシャーロットに仕えているロイドの我が儘ならば叶えてやりたい気持ちもあるが、こればかりはどうすることもできない。二十八歳にもなったのだから大人になれとロイドに言い聞かせるしかないだろう。


「ロイド、ギルティア。朝食の時間に遅れてしまうだろう」


 今にも取っ組み合いをしそうだった二人の視線を一身に浴びるのは、あまり身体によくない気がするのはなぜだろうか。年齢相応の大きさしかないシャーロットを見下ろすつもりはないのだろうが、ロイドの驚いたような表情を下から眺めるのはあまり好きではない。


「ギルティア、お前の仕事は私の護衛だ。従者として常に傍にいろ。家の者からなにを言われてもそれに従う必要はない。執事長にもギルティアの好きにさせるように伝えておこう。ロイド、お前の元での教育は取り止める。これまで通り、お前も私の傍に居続ければそれでいい」


「さっすが、シャーロット。あんたは話が分かるから助かるぜェ」


「面倒を引き起こされても困るからな。ロイド、返事はどうした?」


 シャーロットの命令は絶対だ。ロイドもそれをわかっている。


 わかっているからこそ、ロイドは不服そうな顔をした。


「……お嬢様のご命令ならば従いましょう」


「それでいい。お前たちのくだらない話を聞いていたら時間が過ぎてしまう。さっさと行くぞ」


 私が歩き始めれば、ロイドは無言で着いてくる。


 その間もギルティアを牽制することは忘れないようで、しっかりと距離を保って威嚇をしているのは背中越しでも伝わってくる。害がなければそれでいい。ギルティアにはロイドに手を出さないように言い聞かせておけばいいだろう。


「なぁ、シャーロット」


「なんだ」


「コイツ、要らねえなら俺が処分するぜ? 傍に置いてもうるせぇだけで役に立たねえだろ」


 ギルティアの提案は不快だった。


 シャーロットが望んでいない未来を提案された。


(役に立たないのは事実だ)


 ロイドではシャーロットの野望を叶えることはできない。しかし、切り捨てるほどに情がないわけではなかった。


「私のお気に入りに手を出させるつもりはないよ。ギルティア、ロイドたちに傷の一つでも付けたらお前の首を斬り落としてやろう」


「あんたに殺されるほど弱くねえよ」


「お前の故郷を凍らせる程度の魔術ならば仕事の片手間で使える。様々な魔術で甚振ってから首を斬り落とすのだから、お前に比べて、剣術が劣っていようが問題がないだろう」


 これは脅しではない。


 必要ならば魔術を行使し、その首を斬り落とすことになるだろう。


 首を斬り落とした程度で死ぬとは限らないものの、今後の対策には役が立つだろう。五年前、自分の首を斬り落とそうとしたこともあったが、シャーロットの場合はこの忌々しい特殊体質により死を迎えることはできなかった。一時間ほどの気絶をしただけだった。それを踏まえて考えれば、ギルティアも死なないかもしれない。


「苦痛を味わう趣味がなければ止めておけ。私も従者の血を好んで浴びる趣味はない」


 黙っているロイドはシャーロットが自殺未遂を引き起こした時のことを思い出しているのだろうか。あの時は両親への警告として命を絶ってやろうとしたのだが、母による忌々しい呪いの力はシャーロットの願いを妨げるだけだった。殺処分させる予定だったベリアルを座敷牢に軟禁する程度で踏み止まらせたのは、シャーロットの自殺行為を止めさせるためだったと聞いた時には笑いが止まらなかった。


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