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即死チートが最強すぎて、異世界以外のやつらもまるで相手にならないんですが。  作者: 藤孝剛志
日常編1

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獣人

「ということデ! 全ては夢だったので今さらいろんなことを蒸し返すのはなしなのデース! の会ですよー!」


 とあるカラオケ店のパーティルーム。マイクを握ったキャロル・S・レーンが宣言していた。

 修学旅行に行ったのが高校二年生の三学期。(おおとり)春人(はると)たちのクラスは混乱のうちに二年生を終えることになった。クラスのかなりの人数が異世界から帰ってこれなかったのだ。そのまま暢気に学校生活を送れるわけもなく、心の整理もつかないままに春休みとなったのだが、キャロルが何かしらの踏ん切りを付ける会をしたいと言いだしたのだ。

 春人は部屋の中を見回した。部屋の中央に大きなテーブルがあり、豪勢な料理が並べられている。テーブルの周りにはちらほらとクラスメイトたちが座っていた。


 ――さすがに全員は来ないか……。


 異世界から帰還したのは二十九名で、この場にいるのは十五名だ。

 何人かは学校に来なくなっていたし、転校した者もいる。クラスメイトと顔を合わせれば嫌でも異世界での出来事を思い出してしまうだろうし、それも仕方がないだろう。

 高遠(たかとお)夜霧(よぎり)の姿はなかった。彼のことだから来るのが面倒くさかっただけかもしれない。壇ノ浦(だんのうら)知千佳(ともちか)も来ていないが、夜霧が来ないなら彼女も来ないのが自然かもしれなかった。

 参加者の中で気になるのは、篠崎(しのざき)綾香(あやか)だった。彼女は、世界がやり直され異世界召喚直後に戻ったとき、バスにいなかった。つまり高遠夜霧に殺されたと思われるし、帰還者の人数にも含まれていないはずなのだ。なのになぜかこの場にはいて、当たり前のように席についていた。


「ちょっとみなさん! 盛り上がりに欠ける気がするのデスガ!?」


 そんなことを言われてもな、と春人は思った。


「歌うという気分でもないだろう」


 矢崎(やざき)(すぐる)が呆れたように言った。異世界では将軍(ジェネラル)だった彼だが、そんな態度はなりを潜めている。仕切りたがるのが生来の性質というわけでもなかったのだろう。


「歌えとは言いませんケド! と言いますか、歌に夢中になられてもそれはそれで困るのデスガ!」

「そう言われても……私たち無茶苦茶しちゃってたわけでしょ。それをなかったことにはできそうにないし、だから今日の集まりにも顔を出したんだけどさ。その……やりあっちゃったわけだし……」


 大谷(おおたに)柚衣(ゆい)、異世界ではチアリーダーだった彼女がちらりと春人を見た。春人もバツが悪かった。春人は何かと彼女を利用していたからだ。

 しかも、マニー王国の地下にある魔界六層では、謎の不定形生物に襲われた彼女を見捨てて逃げ出してすらいる。これで元通り仲良くできるわけもなかった。


「そう! それなんデスヨ! 今日話したかったのは! いいですか、皆さん、ぶっちゃけますけど、私たちは殺し合いをしました。いえ、させられたのです! それは私たちのせいではないのデスヨ!」

「……強制されたって言っても、生き残るためだって言っても、私たちは実際に殺そうとして……」

「カルネアデスの板はご存じです? 古代ギリシャの時代から、どうしようもないときは罪に問われないことになっています。殺さなければ殺されるという状況であれば、それは仕方がなかったのですよ!」


 カルネアデスの板は、思考実験の一種だ。

 船が難破し、海に投げ出された乗組員が二人いる。一人が船の板きれにしがみついたところ、もう一人がやってくる。しかし、二人が掴まれば板は沈んでしまう。その状況において、後から来た者を突き飛ばして板を独り占めして生き残ることは罪に問われるのか、という問題だ。

 一般的にこの状況は緊急避難に該当するとされ、罪にはならないとされている。


「でも、だからってそれを納得はできないし……それに……そんな状況だと簡単に人を殺そうとしてしまう自分を赦せるのかって……」

「異常な状況で、異常な行動を取ってしまう。それは、その人の本質でも本心でもありまセンヨ? お酒を呑んで暴れても、それはお酒のせいなのです!」

「いや……それはどうなんだ……」


 春人は思わずぼやいた。酒は自分が好きで呑むものだろう。酔って暴れることがわかっているのなら呑まなければいいだけの話だ。


「そもそも、あんな状況だったとしても、全員がクラスメイトを殺そうと行動したのはおかしいと思いませんか? あれは賢者による思考誘導が行われていたのです! その点については、賢者シオンも認めていましたよ!」

「今さら何を言っても言い訳でしかないが……クラスメイトを囮としてバスに置いていくなど、普段の俺であれば考えもしなかったと思う……」


 矢崎がゆっくりと言った。

 ただ異世界人を召喚し、力を与え、賢者の試練をこなさなければ殺すと言ったとしても、平和ボケした日本人の高校生が即座にクラスメイトを見捨てるわけがなかった。

 思考誘導は確かにあったのだ。それは好戦性を増し、力に溺れるようにと仕組まれていた。


――それは僕も同じか……。


 コンサルタントの力を用い、(たちばな)裕樹(ゆうき)を唆した。これも本来の春人なら行わなかったことだろう。多少シニカルな面があることは自覚しているが、そこまで冷徹でも、計算高くもなかったはずだ。


「ですので! あったことは受け止めつつ、やはり夢だったのだと思うしかないのですよ! けっきょく、死んだはずの、殺したはずの皆さんがこうしてここにいるわけなのですし! それにあんなことがあったからこそ、次は間違えないようにしようと思うこともできるのではないですか! そう! あの経験を活かせば、たいていの問題はたいしたことがないと思えますし! 人に優しくもできるのデース!」


 キャロルが無理矢理に話をまとめた。どうにもうさんくさいが、とりあえずはそう思うしかないというのも事実だろう。春人たちはまだ高校生であり、これからも人生は続いていくのだ。済んだことにいつまでも囚われてはいられない。


「ああ、もう、歌います!」


 袖衣がマイクを握り立ち上がった。

 流行の曲を歌い出せば、ぎこちなくはあったがそれなりに盛り上がりはじめたようだ。


「鳳クンは背中に翼が生えて空を飛んだらしいですネ?」


 隣に座ったキャロルが、そっと春人の耳元に囁いた。


「……蒸し返さないとか言ってなかったかな?」

「オオー!? それとこれとは話が違うのではないですカ? あ、ちなみに異世界のあれこれを各人にインタビューしていまして、複数人から証言は得られているのですよ?」


 魔界第六層でのことだ。謎の不定形生物の襲撃から逃れるために、春人は獣人としての力を解放し空へ飛んだのだ。これは切り札であり、目撃者は全て不定形生物に殺されると見做して力を使ったのだが、まさか時が戻るなどとは思っていなかった。


「それは、能力が覚醒して――」

「どう拡大解釈しても覚醒したコンサルタントが空へ飛んでいくとは思えないですネ? それとも何ですか? 御社を翼が生えたかのように高みへと導くということですか?」


 異世界での不思議な出来事だった。そう言い訳しようとしたのだが、キャロルに先回りされてしまった。

 それに、夜霧たちには獣人であることを話しているので、そちらから話が伝わっているかもしれない。冗談だったと誤魔化すこともできるが、春人はどうでもよくなってきた。


「話が違うと言ったのは、その翼というのは異世界由来ではない、元から持っていた能力なのではないかということですよ。異世界で起こったあれこれを今さらどうこうは言いませんが、それとは関係なくこの現代日本において異能を保持しているかもしれない相手は警戒してしかるべきですよネ?」

「さっさと転校でもすればよかったか」


 どこまで知っているのかは定かではないが、おそらく下調べは済んでいるのだろう。キャロルには確信に近いものがあるようだった。


「普通に引っ越したぐらいなら、追いかけるのは簡単かと思いますよ? それとも裏の世界にコネでも?」


 そんなものはなかった。春人の家は獣人社会においては傍系でしかなく、ほとんど一般人でしかなかったのだ。よって住所の偽装は困難であり、引っ越し先を調べるぐらいは誰にでもできるだろうと思われた。


「それで。そんな話をこんなところでしようというのか?」

「大丈夫デース! 誰も聞いてませんし、私がそんな話をしたところで、また忍者だかアニメだかそんな話だと思われるだけデスネ!」

「もしかして、それはわざとなのか?」


 ふと、キャロルのわざとらしい話し方が気になった。


「そのとおりです! 実は日本語ペラペラなのですよ。片言の日本かぶれ外国人キャラというのは、いざというときのためのカモフラージュなのです!」

「どうなんだそれは。何かを隠そうとして余計に目立っているんじゃないのか?」

「それはあちらを立てればこちらが立たぬ、目くそ鼻くそというヤツですね!」


 やはり日本語は少し怪しいのではないかと春人は思った。


「このようなことを明かしたのは少しでも信頼してほしいからでして、何もあなたを化け物だと迫害するつもりも、興味本位で追い回すつもりもないのですよ。ただ、私の立場上、確認しないといけないのですネ」

「立場、ね。何かしら怪しい点は多いと思っていたけど」


 彼女もシオンによるマインドコントロールを受けていたはずだが、その割には妙に冷静であり続けていた。その行動から推測するに、夜霧については事前に知っていて彼と敵対しないように立ち回っていたのだ。つまり、思考誘導されていようと関係がないぐらいに、夜霧に脅威を感じていたのだろう。


「ま、私のことは妖怪ハンターぐらいに思ってもらえればよいですよ。今のところはそれで支障はありませんから!」

「獣人を狩ろうとでも?」

「私たちもおとなしくしている獣人さんをどうこうしようとは思ってないのですよ。実際、鳳くんのことは何も知りませんでしたから、こんなことでもなかったら関わることはなかったですね」


 それはそのとおりだろう。春人たち獣人はその正体を徹底的に隠している。本来なら、殺されたとしても正体を明かすことはなく、人の姿のまま死んでいくのだ。異世界での変身は、春人が正気ではなかったことを意味していた。やはり、シオンによる思考誘導は根深く、掟を蔑ろにするまでに精神を蝕んでいたのだ。


「わかったよ。僕も、妖怪だか忍者だかの話をするとしよう。それで、何を確認したいんだ?」

「ずばり! 鳳くんは土着の獣人ということでよろしいですか?」

「そうだね。僕の一族はずっと昔から日本にいる。まあ、僕だけどこかから拾われてきたなんて可能性もゼロではないんだろうけど」

「そんなことを言いだせばキリがありませんしね。では皇関連ということですね?」

「なんでそんなトップシークレットが漏れてるんだよ……」


 春人は思わずあたりを見回した。幸い、こちらに注目している者はいなかった。

 皇が裏社会を牛耳っているというのは知られている話だが、その後ろ盾に獣人の力があることは知られていないはずだった。


「そこは蛇の道は蛇というやつですねー。そもそも大勢の人々が関わっていることを完全に秘密になんてできっこないですよ?」


 そもそも、春人は下っ端過ぎて上層部がどんな組織と関わりがあるかなどまるでわかってはいなかった。獣人の存在が秘密だとはいえ、何かしらの同盟組織などがあり、秘密が共有されていてもおかしくはないだろう。


「皇を知っているのなら話は早いな。伝手があるのなら照会すればいい。僕なんかは傍系の末端に過ぎないけど、一族郎党の全てを隅々まで把握しているはずだよ」


 はぐれ獣人などがいて勝手なことをされては目も当てられない。皇は全ての獣人を管理しているはずだった。


「うーん? もしかして鳳さんは、皇の現状をご存じではない?」

「そう言われてもね。滅多にお目にかかることはないし……後継者争いがあったような話は聞いたけれど」


 長子である姉のあかねは関わっていたはずだが、末子である春人にはほとんど関係ないことだった。鳳家が早々に脱落したことぐらいは知っているが、その後の経緯はわかっていない。さすがにトップが決まったのなら大々的に披露するだろうし、まだ決着はついていないのだと春人は思っていた。


「皇は壊滅状態ですよ? 皇楸が没し、それを機に後継者争いが起こり、最終的に猫の獣人の方がその権力を手にすることになったとのことなんですが」

「なんでそんなことまで知ってるんだ……」


 春人は呆れた。部外者が春人以上に事情に精通しているのだ。自分がいかに小物なのか思い知らされるようだった。


「我々としてもそのあたりの把握は死活問題なわけで、情報収集には必死なのですよね」

「猫と言えば小西家か。そこが勝ったのならそれで終わりの話じゃないのか?」

「ところがですね。皇が持っていた獣人を支配する力が継承されることはなかったのですよ。おかげで勝ったところでその権力など砂上の楼閣。けっきょくのところ獣人を掌握することができず、ぐだぐだになって今に至るというわけですね」

「継承ってどういうことだ? 獣人を従える力は皇家固有のものじゃなかったのか?」


 春人は、皇一族を見たときのことを思い出した。遠目に見ただけに過ぎないが、それでも獣人を圧倒する気配を感じたものだ。


「その力は定期的に補充する、といった性質のもののようですね。その補充元が機能しなくなったことを皇は隠していたわけですが、それを小西家がというか、皆が知ることとなったわけです」

「つまり、獣人を統括する組織が存在していない……」

「そういうわけです。照会しようにも窓口が機能しているかも怪しいところなのです」

「だとすれば土着がどうかなど証明しようもないけど、信じてもらうしかないね」

「今の反応で皇と関係ないわけがないですから、疑いは晴れましたよ」

「そもそも僕は何を疑われていたんだ?」

「実は吸血鬼由来の獣人がこのあたりにやってきたという噂がありまして。もしかして何か関係がないかと探りを入れていたわけなのですが!」

「探るというより直接訊いていただけだと思うけど、しかし吸血鬼?」


 吸血生物由来の獣人でもいたかと春人は考えた。獣人は元となった生物の性質を色濃く受け継ぐ。食性はほぼそのままなので、血が主食の生物がいるなら吸血鬼と言っていいのかもしれないが、思い当たる獣人はいなかった。


「そうなのです。日光や十字架が苦手だったり、鏡に写らなかったり影がなかったり、霧や蝙蝠や狼に変化したりするあの吸血鬼ですよ」

「それはフィクションだろう?」

「おやおや、フィクションみたいな獣人の鳳くんがそんなことを言いますか」

「獣人はそういう生物と考えられなくもないだろう。だけど吸血鬼なんて言われるとオカルトそのもの……いや、いてもおかしくはないのか?」


 なにせ異世界に転移するなどということがあるのだ。他にどんな不思議なことがあったとしても受け入れる余地はあった。


「土着の鳳くんに対して外来種というわけですが、心当たりはなさそうな感じですね。もしかして匿っているなんてことがあるかと思っていたのですが」

「他に獣人のグループがあるなんて聞いたことがなかったな。いや、世界のどこかにいると言われればそういうものかとは思うけど」

「大別すると三種類ほどでしょうか。一つは何か昔からいるそういう生物ですね。もう一つは吸血鬼が下僕として作り出したような獣人で、さらにもう一つは宇宙生物が作り出したやつです。鳳くんは最後のやつですね」

「……は?」


 獣人は太古からいる謎の生物。春人はそんな認識でいたのだが、キャロルの言はそれを覆した。


  *****


 獣人でいて幸せなことなどほとんどない。人に正体がばれれば粛清されるし、番となる相手は厳重に管理されているので自由に恋愛をすることもできない。獣人であることを活かせるのは闇の仕事に限られていて、それも上の人間の意のままに操られているだけのことだ。

 ただ制限を課せられ、命がけの仕事に従事させられ、見返りはさほどない。獣人は窮屈で不自由な生物だ。

 だから春人は、異世界に残ってもいいかと思っていた。

 異世界なら獣人の掟に縛られることなどなく、自由に生きていけるからだ。

 しかし、いざ選択を迫られると、春人は帰還することを選んだ。これは当たり前の事実ではあるのだが、単純に異世界というのは何かと不便であり、現代人が暮らし続けるのは難しかったからだ。

 もちろん現代日本人が何不自由なく暮らせる都市なども存在していたが、大賢者がいなくなった後でも存続できるのかは疑問だった。

 あの異世界は新たな神が管理することになった。賢者たちもそのままの地位でいられるわけがなく、その影響力は次第になくなっていくことだろう。賢者やその従者たちもそのうちにいずこかへ追いやられるはずだ。

 そうなると、賢者の後ろ盾のない召喚者たちはただの一般人ということになるし、これから先どのような立場になるかわかったものではなかった。

 それなら、帰ったほうがましと考える者も多いだろう。クラスメイトのほとんどはそう判断したようだし、春人もそうだったのだ。


「鳥の獣人だったのが幸いしたな」


 春人は本州の西端、窓之島(まどのしま)にいた。実際には半島であるが、この地へ続くのは幅百メートルほどの地峡のみであり、周囲のほとんどは海なので島と見做されてこのような名称となっている。

 春人は、窓乃島の浜辺に立ち、夜の日本海を眺めていた。正確にいえば、その先にある島を見ているつもりなのだが、ここからでははっきりとその姿が見えることはない。

 春人は上半身裸になり、脱いだ服は大きめのウェストバッグに入れた。そして背から翼を生やし、ゆっくりと飛び立った。

 黒神島(くろかみじま)

 火山の噴火により沈んだとされている島だ。当然船など出ているわけもなく行く手段は限られているのだが、春人には翼がある。吸血鬼をオカルトだと言った春人だが、人の背に生えた程度の翼で空を飛ぶのも十分に常識外れだった。

 本来、こんな場所での獣人化は掟で禁じられているのだが、見付からなければいいだけのことだ。皇家はほぼ壊滅状態とのことだし、こんなところでまで掟を守る気はなくなっていた。

 思うがままに空を飛ぶ。唯一、獣人でいて幸せだと思える瞬間だろう。しばらく海面すれすれを飛んでいき、黒神島があったとされる地点までやってきた。

 海岸線の長さは約十キロメートル、面積は約七平方キロメートルほどの火山島だったが、ほとんどが海に沈んでしまっている。

 獣人たちの聖地であり、数年に一度の集会で春人も訪れたことがあったのだが、今では見る影もなかった。

 もっとも、鳳家の傍系でしかない春人は島の全貌は知らなかった。神がおわすとされる山には近づくことすら許されなかったからだ。

 春人は宙に浮きながらあたりを観察した。

 ほとんどと言ったように、ここに島があった名残はあった。火山の山頂付近は海面に露出しているのだ。どうやら海上部分が爆発してなくなったのではなく、噴火でマグマ溜まりが空になり、そこに島全体が落ち込むことで海底へ沈んだらしい。


「だとすればまだ残っているかもしれないけど……覚悟を決めるしかないか」


 海上をうろうろしていたところで埒が明かない。春人は海中へと飛び込んだ。三月とはいえまだ寒い海の中だ。常人なら装備もなしにまともな活動などできないが獣人化した春人にとってはさほど問題ではなかった。

 潜ってみれば、案外簡単に探している物が見付かった。

 火山に巨大な物体が突き刺さっているのだ。銀色に輝いて見えるそれが春人の目当ての祭祀場だった。


「なるほど。キャロルたちはこれを知っていて、宇宙生物が由来だと考えたのか」


 それが宇宙船だと言われたなら、そうとしか思えなくなるだろう。全体像はわからないが、細長い物体が山に突き刺さっているような形状だ。幅は三十メートルほど、長さは見えている部分だけで五十メートルほどで、材質はよくわからなかった。

 春人は宇宙船らしき物体の上に降り立った。ざっと見たところ、入り口は見当たらないが所々に亀裂が生じている。人が通れるほどの亀裂もあり、そこから春人は内部へと侵入した。

 内部に海水が浸水していたが、奥に向かってしばらく泳いでいくと空気のある場所へと出た。床や壁が発光していて中は明るく、見通しもいい。空気も循環しているし、海水もどうにか排水しているようだ。


「さすがに空調が停止していたらお手上げだったな」


 獣人が常人よりも丈夫だといっても、何時間も海中で行動できはしない。これは運が良かったのだろう。

 適当な部屋を覗くと、そこには円筒が並んでいた。中には、獣とも人とも判別できない胎児のような生物が浮かんでいる。中の生物は生きているようだったが、このまま生まれたとしても世話をする者がいないので、保留状態になっていることを祈るしかないだろう。


「そういえば妊婦を見たことがなかったけど……そんなことで気付けるわけもないな」


 普段の生活の中で他の獣人と関わることなどほとんどない。違和感を覚えるほどに適齢期の獣人を見かけることなどなかったのだ。獣人も生殖行為は可能だが、それで子供が生まれることはないのだろう。獣人は一人一人が別種の生物といっていいほどに多様であり、交配不可能だとしても不思議ではなかった。


「そうなると、鳳家もただ鳥系の獣人を寄せ集めているだけという可能性が高いな」


 そう考えると、家族に似た顔の者がいないことにも納得できる。もっとも、家族がどれぐらい似かよるかなど様々だろうし、それぐらいのことで血縁を疑うわけもなかったが。


「こんな人工的なものだったとはね。しかしこれは……」


 獣人の総本山、その秘密の核心。下っ端の春人が知る機会などないはずなのに、どこか見覚えがあった。


「ザクロの治療ポッドか」


 春人は異世界で大怪我をしたが、ザクロと名乗る神に助けられた。その際に円筒形の治療装置に入れられたことがあるのだ。


「そうなると……ザクロの手下が僕を助けたのも必然だったのかもしれないな」


 なぜ助けられたのかよくわかっていなかったが、大元を辿れば由縁があるのかもしれない。キャロルから話を聞いて以来、漠然と思い描いていた絵図が少しずつ形になってきた。


「これが宇宙船だとして、飛び立てる状態ではないんだろうな。だが動力は完全に停止していない。ならば……」


 春人は船内を探ることにした。いくつかの部屋を巡り、コクピットらしき部屋を見付けた。特に何もないのでここがそうだとは普通ならわからないだろう。

 だが、春人には異世界での知識があった。コンサルタントスキルで得た膨大な知識。その中には、興味本位で調べたザクロの船に関するものもあったのだ。

 何もないとしか見えない壁を一定の手順で触れる。すると、様々な情報が周囲に浮かび上がりはじめた。


「細部まで同じではないようだけど、パーツの規格が同じ船ということか。そうなるとこれが宇宙船なのか怪しくなってくるな」


 宇宙人、地球以外に知的生命は存在するのか。様々な考え方はあるだろうが、楽観的に考えたとしても地球人が宇宙人と遭遇する可能性は著しく低いだろう。宇宙人の存在を肯定しようにも確たる証拠などどこにもなく、全ては推論に過ぎないからだ。

 では、この宇宙船のような何かが証拠となるのではないかと考えられるだろうが、春人にはもっと現実的な回答があった。

 これは異世界由来の乗り物なのではないか。春人は実際に異世界に行っていて、その存在を知っている。彼にとっては、存在の不確かな宇宙生物の証拠と考えるよりは、異世界からやってきたのだと考えるほうが遙かに理に適っていた。


「なんらかの事故でここに漂着したようだけど、助けを呼ぼうとした形跡はないな」


 事故なら緊急信号などを発信するものだろうが、それらしき通信の記録はなかった。


「通信装置は壊れていないようだから、そうなるとどこかから逃げてきたか……試してみるか」


 何者かが救出にやってきても困った話になるが、そんな心配よりも好奇心が勝ったのだ。

 ただ通信をするにしても闇雲に行ったところで意味はないのだが、春人には心当たりがあった。

 ザクロだ。

 春人はザクロの固有識別IDを知っていた。異世界でザクロと連絡を取るときに使っていたものだが、このIDが一時的なものでないとすれば、もしかするとここからでも連絡が取れるのではないか。

 春人は、空中に出現しているホログラフィックコンソールを操作した。

 いくら知識があるといっても異世界の謎の乗り物の端末だ。全てがわかるわけもなく、操作の大半が行き当たりばったりとなるが、とりあえず一通りの通信手順を終えた。

 しばらく待ってみたが、特に返信はなかった。


「それも当然の話か」


 操作を間違えたかもしれない。通信装置が壊れていたかもしれない。宛先を間違えたかもしれない。通信には膨大な時間がかかるのかもしれない。通信が届いたとしても無視されたかもしれない。うまくいかない理由はいくらでも考えることができた。

 ここでできることはやったので、春人は別の部屋を探ることにした。他にめぼしいものがあるとすれば、やはり獣神だろう。

 滅びたとされる獣神はここで祀られていたはずだ。滅びた理由は知らないし、神とまで呼ばれる存在が滅びたわりには獣人の間では騒ぎになっていなかった。すでに形骸化した象徴でしかなかったのだろう。

 だが、皇の力、全ての獣人を支配する力が継承されなかったという話を聞くと、また様相が変わってくる。やはり神の威光があってこその力だったのではないか。皇が壊滅状態というのも、根本的な原因はやはり神の不在にあるのではないか。

 適当にうろつきまわり、春人は円形の広場を見付けた。

 獣人の死体が積み上がっていた。島が沈んだのは数年前のことだから、それ以来放置されていたことになるが、腐っている様子はない。春人は獣人の死体がどうなるのか知らなかったが、こういうものなのだろう。


「獣神の骸があるとすればここかと思ったけど……さすがにこれじゃないだろう」


 見たところ、様々な種類の獣人の死体が山のようになっているだけだ。


「お手上げかな」


 あれこれと探り回っているのは自らのルーツを知りたいという好奇心によるものだ。おおよその知りたいことは知れた気もするし、このあたりが潮時なのかもしれない。


「探し物かね?」

「まさか……」


 振り向くと、黒いスーツを着た細身の男が立っていた。


「呼ばれて、やってくる手段があり、コストもたいしてかからないなら、とりあえずやってくるだろ?」

「まさか来ていただけるとは……その……こう言ってはなんなのですが、別にたいした用事があったわけでは……」


 何か反応があれば面白いと思ってダメ元でやってみただけだった。恐れ多くなり、春人は縮こまった。


「ああ、別に構わない。ここにいる俺は影だからな。君の世界の言葉で言えば一時的なキャッシュのようなものか。重要な情報でもあれば本体に反映させるが、どうでもよければこのまま消えるだけのことだ。だから気楽に接してくれればいい」

「その、お久しぶりです。僕のことは覚えておられるのでしょうか?」


 もしかすると異世界で会ったのも影だったのかもしれず、そうなるとその情報が本体に伝わっているかはわからなかった。


「ああ。主上がいる可能性が高い場所には本体で出向いていた。後でいろいろと言われかねないからな」

「その、UEG様は……」

「滅びたことは承知している。あの性格だからな。いずれはそんなこともあるかと思っていた。行方不明になっていてもたいした問題はなかったので、さほど影響はないのだが。それで、何か探していたのか?」

「はい、ここにいたはずのオカシラ様と呼ばれていた獣神を探していたのですが」

「ふむ……名残はあるな。こっちだ」


 ザクロが円形の広場の端へと向かっていく。春人はその後をついていった。


「あの死体の山にも名残があるから、あれを身体として使っていたようだな。しかし、コアはこれだ」

「……これですか?」


 ザクロが示す先にぐちゃりと潰れた何かがあった。はっきりと足跡が残っているので踏み潰されたのであろうとはわかるが、それ以外にはよくわからない塊がそこにあったのだ。


「ああ。中枢部分はこれだな。見たところ、コアだけを逃そうとしたところを踏み潰されたというところか。で、どうする?」

「どうする、とは?」

「まさか、これを見付けるためだけに俺を呼んだのではないだろう?」


 ザクロの顔が呆気に取られたようになった。


「いえ、まさか来ていただけるとは思っておらず、用事があったかと言われれば、確かにこれを探そうとはしていたのですが……」

「てっきり、これを蘇らせろということかと思ったのだが」

「できるのですか?」

「おそらくは可能だろう。死に切ってはいないようだしな。もっとも自力で蘇れる状態でもなさそうだが」

「僕などの願いをそんなに簡単に叶えてもいいのですか?」

「簡単にできることなら断る理由がないな」


 ザクロはそのような神だった。強大な力があるが故に、どうでもいいことに出し惜しみをしないのだ。


「少し……考えさせてもらえないですか」

「それはいいが、ここにいるのはしょせんはいつ消えてもいい影だということは忘れないでくれ」


 獣神。獣人の信仰の拠り所であり、その象徴。信奉者であるなら即座に復活に取りかかるべきなのかもしれないが、このままでもいいのではないかと現代日本の若者としての春人は考えてしまう。

 皇体制の崩壊は、獣神の死亡が原因なのだろう。このまま放っておけば、獣人社会もそのうちに消滅してしまうかもしれず、それこそが春人にとって理想の展開なのではと思うのだ。

 獣人のしがらみがなくなって困ることなど春人にはない。二度と変身せず、人としての人生を送ればいいだけのことだ。


 ――しかし、獣人社会がなくなるというのは楽観的な想定かもしれない……。


 現状、皇体制が揺るいだのは皇家が持つ獣人を支配する力が継承されなかったためだ。要はそれだけのことなので、力によって獣人を統一しようとする勢力が出てくるかもしれない。そうなれば、それほど力のない鳳家では分が悪かった。新たな体制では今以上に虐げられる可能性も出てくるだろう。

 それならばここで獣神の復活を行い、獣神に取り入ったほうがまだましなのかもしれない。


「復活をお願いできるでしょうか」


 けっきょく、いろいろと考えはしたが一番の理由は好奇心だった。傍系の末子では拝謁することなど叶わなかった獣神。その姿を見てみたいと思ったのだ。


「承知した」


 ザクロが潰れた塊に掌を向け光を照射する。すると塊が蠢きだし、元の形を取り戻していった。ひしゃげた塊が球体状へと変化する。それは人の頭部のようだった。頭髪のない、赤子の頭だけといった形だ。


『おお……おお! 力が……取り戻されていく!』


 脳裏に声が響いた。赤子の口は動いていないが、それから発せられていることは自明だった。オカシラ様とは頭部だけのこの姿からそう呼ばれるようになったのかもしれないが、これだけなのだとすれば春人にとっては拍子抜けだった。


『身体を……よこせ……』


 オカシラが春人を睨み付けた。まさかとは思ったが、春人の身体を欲しているらしい。


「ふむ。それよりもあちらにあるアレでいいのではないか? 元々はアレを使っていたのだろう?」


 春人をかばったのか、ザクロが左手でオカシラを持ち上げた。口に指をかけて保持するという、実に雑な持ち方だ。


『貴様……何者だ? どうしてこんなところにいる?』

「それはどうでもいいだろう。お前は復活できるのだ。些事は捨て置けばいい」


 ザクロが山積みになった死体へと近づいていき、右手を死骸へと向け光を照射する。すると、死んでいるはずの獣人たちが蠢きはじめた。


「こんな簡単に蘇生などできるのですか?」

「簡単かどうかは見方によるな。魂はすでにないし身体だけが活性化したような状態だが、こいつにとってはそれで問題なかろう」


 ザクロが無造作にオカシラを放り投げた。頭部だけの奇妙な生き物が死骸の山に着地する。頭部は死骸に埋もれていき、すぐに変化が始まった。

 獣人たちの身体が形をなくし、一所に集まろうとしているのだ。融合し、増殖し、次第にそれは形を整えていく。そして、できあがったのは様々な獣の特徴を備えたキメラだった。

 四本の獣の足、背には翼、尻尾は蛇、巨大な人の頭部を持つ、金色の巨大な獣。まさしく獣の神であり、獣人を従える存在と言えた。

 それを目の当たりにすれば、獣人でなくともひれ伏すことだろう。それは神意を放っていた。どれほどの阿呆であっても、即座に格の違いを思い知るはずだ。


「はははははっ!」


 オカシラが大笑し、広場が震えた。再び身体を得たことがよほどうれしいのか、その場でぐるぐると子犬のようにはしゃいでいる。

 そして、それを見ている春人は、獣神といってもこんなものかと冷めた目をしていた。

 本来、そんな思考をすることを獣人は許されていない。身体が、知恵が、思想が、その全てが獣神に仕えるために存在しているのだ。だが、春人は、その存在にそれほどの畏怖を感じてはいなかった。

 もちろん、戦えば負けるだろう。獣人が優れているといっても人よりも少し身体能力で上回っているだけであり、これほどの巨大な獣が相手では勝負以前の問題だ。

 だが、それは野生の熊を相手にしても同じことだろう。春人にはそれが、ただ巨大で狂暴な獣にしか見えていなかったのだ。


「なんだか馬鹿らしくなったよ、こんな獣に人生を振り回されていたのかと思うと」

「貴様! なぜひれ伏さぬ! 頭を垂れぬのだ!」


 少し落ち着いてきたのか、オカシラは突っ立っている春人に気付いた。


「そう言われてもね。僕も慣れてしまったということなんだろうな」


 異世界での経験が春人を強くしていた。春人は、オカシラなどよりも遙かに強大な神性と遭遇している。それらと比べれば、獣神といったところでひどく薄っぺらい存在としか思えなかった。

 実際、冷静になって見てみればどうにも小物臭い。背景情報を抜きにしてしまえば、神としての威厳など感じられなかったのだ。


「餌ごときがほざきよるわ! まあいい。貴様など一呑みよ! 力は……眠る直前にまで戻っているようだな! ならばもう少しだ! 全ての餌を喰らい、完全なる力を取り戻す! 全てを支配し、星の海へと到達するのだ!」


 ビジョンが春人の脳裏に流れ込んできた。

 どこかからやってきたオカシラが原始の地球に漂着する。

 重大な損傷を負ったオカシラは眠りにつき、時折覚醒するようになった。

 修復には滋養が必要だった。だが、この星の生命はオカシラには適合しない。そのためこの星の生命体に改造を施し、取り込めるように少しずつ改変していったのだ。

 改造した餌を取り込み、少しずつ身体の修復を試みる。微睡み、目覚め、そんなことを繰り返すうちに、作り出した生命は文明を育み、星の海へと届くようになりつつあった。

 そのため、ただ喰らうのはやめた。いつか星の海へと帰るため、利用しようと考えはじめたのだ。


 ――星の海とは宇宙か? いや、やはり異世界のことなのか。どちらにせよ、この勢いならこのまま事に及びそうだ。


 復活したオカシラはこの文明を支配し、利用するつもりだろう。つまりは世界征服だ。今時世界征服など馬鹿みたいな話だが、人間とは別種の生物による支配なら人の利害など無視できるだろうし、あながち不可能でもないかもしれなかった。


「ザクロ様。取り消してもいいでしょうか? やはりこれは死んだままでいてもらったほうが都合がよさそうです」

「そうか? ならばそうするが」


 ザクロが片手をオカシラに向けた。


「貴様! 何のつもりだ! そんな餌ごときに従うというのか! やめろ!」


 力の差は歴然なのか、オカシラは途端に慌て後ずさった。


「ふむ。春人は再び殺せと言い、お前はやめろと言う。俺からすればどちらの言を聞こうが構わない状況ではあるのだが……悪いな。どうやら俺は、春人に親しみを持っているようだ」


 ザクロの手から光が放射され、オカシラを包み込む。途端に、オカシラの身体が燃え上がった。

 オカシラが悶え苦しみ、変形する。膨れ上がり、春人たちに向かって増殖した肉の手を伸ばすが、それは届くことなく燃え尽きた。

 オカシラの身体が、歪み、分裂し、炭化していく。


『……おお……俺は……帰るのだ……海へ……』


 肉声を発することはできなくなったのか、春人の脳裏へ声が流れ込んでくる。助けろと。燃えさかる炎に飛び込み、中枢を救い出せと訴えかけてきた。

 だが、春人は動かなかった。獣人の創造主による、支配する力。本来なら逆らいようのない力を、春人は撥ね除けたのだ。

 しばらくして、全ては消し炭となった。今度こそ、完膚なきまでに死んだはずだった。


「ああ、言い忘れていたが。ある程度強い神は死のうがどこからか再び湧き出てくるものだ。完全に滅ぼす方法はない……ないはずだった」

「それは今日明日というものですか?」

「いや、数万年というスパンでの話だな」

「ならば問題ないでしょう」


 そんな先の話は春人にすればどうでもいい話だった。


「しかし、事情はわからないが、あれは春人の親のようなものだろう? 今さらだがよかったのか?」

「世界征服とか土台無理な話なんで、巻き込まれるのは迷惑なんですよ。なにせこの世界には高遠夜霧がいますからね」


 オカシラが死ぬだけならいいが、獣人が巻き添えを喰らう可能性があった。なにしろ、障害を排除するために、ほとんど関係のないような者まで何千万人と殺した実績が夜霧にはあるのだ。


「そうか。ところで今ので力を使い果たした」

「え? もしかして危なかったですか?」

「ああ。殺し切れなかったら返り討ちにされていたところだな。また何か用事があったら呼んでくれ。本体も春人には親しみを持っているはずだから無下にはしないはずだ」

「今回の件は本体には反映されないんですか?」

「反映も手間がかかるからな。今回はそれほどのことでもないと判断した」


 そう言って、ザクロの影はあっさりと消え去った。


「さて、どうしたものかな」


 なんとなくではあるが、獣人社会での立ち回り方がわかってきたような気がした。

 獣人を支配する力。それを撥ね除けたことにより、その扱い方のようなものが見えてきたのだ。


「まあ、やり過ぎないことだろうね」


 高遠夜霧。その存在を知ってしまった者は、否が応でも意識し続けることになる。何をしようとしても、越えてはいけない絶対の一線が見えてくるのだ。


「しかし呼んでくれと言われてもな……」


 海に沈んだ謎の乗り物の通信設備。これをどうするべきかと春人は頭を悩ませるのだった。

解説(書籍版ではあとがきで各話解説をしていましたので、各話ごとに書いておきます)


『姉ちゃんは中二病』という作品の舞台、黒神島のその後の話という誰得な話です。島に上陸して遺跡を調査して……という話のつもりだったのですが『姉ちゃんは中二病』を読み返すと島が沈んでいました。何余計なことしてんだよと、過去の私に文句を言いたくなりました。

 獣人が調整槽に入ってたり、統率種がいたり、宇宙からやってきた始祖が、みたいな話は『強殖装甲ガイバー』のパク……オマージュです。

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