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追放聖女は“幸福値”しか視えません  作者: 東野あさひ


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第6話 ラティと光の演出

光祭り当日の朝、私は早くからカフェに立ち、窓から村の通りを眺めていた。

風はやわらかく、朝露を乗せた空気が肌を撫でる。


通りには、もう人の気配があった。

子どもたちが光玉を吊るすための紐を張り、婦人たちは手作りの屋台飾りに色紙を結んでいた。


そして——その中心に立つのは、かつて一歩も外に出られなかった少年、ラティ・コーン。


「もう少し右……うん、それで高さぴったり」


指示を出しながら、彼は自ら手を動かし、魔術陣で浮かせた光玉を位置調整していた。

周囲の子どもたちも慣れた様子で彼に話しかけ、誰も彼を“変わり者”とは呼ばない。


「すごいな、ラティくん」


私はそっと声をかけた。


彼は少し照れたように笑い、そして言った。


「こんなに“誰かと一緒に”何かやったの、初めてかもしれない」


彼の幸福値は、18 → 29へと上がっていた。

数日で10以上の上昇——この村で一番急成長している数値だった。


「あとね、エルフィナさん。僕、演出を考えたんだ」


「演出?」


「祭りの終わりに、空に光を放つ“結晶術式”を応用して、“祝福の文字”を浮かべるの。村の空に、“ありがとう”って出すんだ」


私は思わず微笑んだ。


「それは素敵ですね。でも、結晶術式の安定性には注意して——」


「うん、大丈夫。何度も試してる。……もし成功したら、“次の自分”に進める気がするから」


次の自分。

私はその言葉に心が震えた。


幸福値という数字だけでは測れない何かが、ラティの中で生まれているのを感じた。



祭りが始まると、村はまるで色を取り戻したようだった。


太陽が傾き、空が橙色に染まり始めた頃。

通りには紙灯籠と光玉が揺れ、パンと焼き菓子の香ばしい匂いが漂う。


マリアとダグラスの屋台は行列ができていた。

パンには「希望」「絆」「明日」といった幸福ワードが刻印され、子どもたちが競って選んでいた。


幸福値の変化は、目に見えていた。


・マリア:36 → 40

・ダグラス:35 → 39

・クレア:30 → 34

・アリシア:26 → 31

・ラティ:29 → 35


そして、村の“総幸福値”は……


997 → 1003


しきい値を超えた。


その瞬間、私は店の奥、遺跡の扉が“音を立てて完全に開く”のを、はっきりと感じた。

空気が震え、どこかで古い仕掛けが動き出したような感触。


——だが、私はすぐにはそこへ向かわなかった。


祭りは、まだ終わっていない。



日が落ち、最後のイベント——“光の演出”の時間になった。


人々は広場に集まり、カウントダウンを始める。


「10、9、8……」


舞台の端に立ったラティは、深呼吸をし、魔術陣に両手を添えた。


——発動。


ふわり、と空に淡い光が舞い上がる。赤、青、金、緑……無数の光玉が空に広がり、やがて円を描いて浮かび上がった。


《ありがとう》


空に、光の文字が現れる。


ざわめきと、拍手と、子どもたちの歓声。


人々の顔が、まっすぐに笑顔になっていく。


——そして、そのとき。


幸福値が、全員分、一気に上がった。


・ラティ:35 → 43

・マリア:40 → 45

・クレア:34 → 38

・ダグラス:39 → 44

・アリシア:31 → 36

・エルフィナ:自身 28 → 33


私は、気づけば涙を流していた。


この感情が、数字で示されること自体に、どこか悔しさもある。

けれど、確かにここにある“幸福”を、私は見逃さずに抱きしめたいと思った。


その夜。

祭りが終わり、人々が帰ったあと。

私はひとり、カフェの奥、物置の裏にある扉の前に立った。


扉は、開いていた。

奥には、ひんやりとした空気と、薄い光が満ちていた。


「——遺跡が、呼んでいる」


幸福によって開かれた封印。

この先にあるのは、失われた過去か、それとも未来か。


私は、静かにその中へ足を踏み入れた。

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