第41話 魂を繋ぐ機構
エウロパ中枢——それは、かつて幸福値管理の“神経中枢”と呼ばれた場所だった。都市ごと記録装置で構成された人工浮遊島であり、今は国境を持たぬ空中領域として、厳重な隔離が施されている。
ミーナたちは、セラノス研究区で得たアクセスキーと“幸福非記録区”の特異演算記録を手に、その扉を開けることになった。
「本当に、行くのか?」
フェリクスの問いに、ミーナは静かに頷いた。
「……私たちで、終わらせる。もう誰かが、数値で心を測ることがないように」
空中列車は、旧軌道を越え、やがて薄雲の合間から巨大な影を映し出した。それがエウロパだった。
「これが……神機の中枢」
ルカが呟く。島の輪郭は機械と都市が融合したような姿をしており、何層にも重なる塔とリング型構造体が複雑に絡み合っていた。
列車が停まり、彼らは自動開閉橋を渡って最初の管理区画へと足を踏み入れた。
「侵入者確認。記録演算起動——」
警報が鳴り、神機兵が起動する。ミーナはとっさに手を翳した。
「幸福記録非準拠識別子、コード“アルカイック001”。手出しはしないで」
神機兵の動きが止まった。演算塔が判定を始めている。
「……準拠認定。通過を許可」
フェリクスが息をついた。
「うまくいった……のか?」
「まだ第一関門だけ。でも、少なくともアルカイックコードは、ここにも通じる」
その後、彼らは中枢に近づくごとに増える警備をかいくぐり、やがて“魂記録機構”と呼ばれる施設に辿り着く。
そこは、幸福値を超えて、人の“精神共鳴”そのものを記録しようとした最終研究区だった。
「これが……最後の演算機?」
ミーナが手を伸ばしかけたそのとき——
「待て」
響いた声に皆が振り返る。
そこに立っていたのは、仮面をつけた人物だった。淡い蒼の外套を纏い、白銀の仮面がその素顔を隠していた。
「君が“アルカイックの記録者”か。……ならば、消えてもらう」
その手から放たれた演算衝撃波が、塔を揺らす。
「逃げろ、ミーナ!」
フェリクスが叫ぶ。ルカが盾で防ぎ、ジャレッドが反演算の呪文を組む。
だが、その仮面の人物——コードネーム《ノア》は、ただ静かに言った。
「幸福など幻想だ。秩序は、数値にこそある」
——記録と、幸福。
その対立が、ついにこの場所で火を吹こうとしていた。
「だったら……その幻想を、私が守る!」
ミーナは叫び、記録されないままの心を演算塔に刻もうとする。
光が迸り、衝突の瞬間、塔そのものが赤く染まった——




