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追放聖女は“幸福値”しか視えません  作者: 東野あさひ


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第4話 祭りの記憶と“幸福のしきい値”

「セリフ村では、毎年夏に“光祭り”っていう行事があったんですよ。でも、ここ数年は中止続きで……」


そう語ったのは、村の会議所で事務を担当している中年の女性、クレアさんだった。


彼女の話では、数年前までこの村では夏の終わりに小さな祭りが開かれていた。通りに灯籠を並べて、子どもたちが手作りの光玉を掲げ、大人たちは広場で音楽と踊りを楽しむ——そんな、ささやかながらも心に残る行事だったという。


「でも、主催していた代表さんが亡くなって、それからは誰も引き継がなくて……」


私は彼女の頭上に浮かぶ数字を見た。


幸福値 27 → 22


祭りの話をする前よりも、数字が下がっていた。


「……それは、残念ですね」


「ええ。私も……ずっと、寂しいと思ってたんです。でも、誰に言えばいいかも分からなくて」


私は一つ、賭けに出ることにした。


「では、うちのギルドで主催しましょう。“幸福最大化ギルド”として」


「えっ……本当に?」


彼女の幸福値が、一気に22 → 29まで跳ね上がった。


「この村の人たちが、また心から笑える日を作りたいんです。幸福の数字が上がれば——」


そこまで言いかけて、私は一瞬、言葉を飲み込んだ。


(——封印された遺跡が、開く)


あの扉が光を帯びた夜から、私は確信していた。

この村には、“幸福”がある一定の量に達したときに動き出す仕組みがある。

パン屋夫妻、ラティ少年、そして今、クレアさん。数字の変化は確実に現れている。


もし、村人全体の幸福値を一斉に上げられたとしたら——。


「光祭りを復活させましょう、エルフィナさん!」


クレアさんは、はじけるような笑顔を浮かべた。

29 → 33。その場で幸福値は跳ね上がった。


「まずは実行委員を集めましょう。準備、資金、協力者……やるべきことは山ほどあります」


「はい。私も声をかけてみますね!」


こうして、村の夏の終わりに、新たな“しきい値”を越えるためのプロジェクトが始まった。



私はカフェを拠点に、協力者を募った。


最初に手を挙げたのは、もちろんマリアさんとダグラスさん。


「いいわね、祭りなんて久しぶり。うちのパンも出店するわ」


「……おれは、照明係でもやるか。昔、松明の配置とか担当してたから」


幸福値はそれぞれ32 → 36、32 → 35と、着実に上昇していった。


ラティも誘ってみたが、最初は戸惑っていた。


「……ぼく、人前に出るのは……」


「無理には言いません。でも、光祭りには魔術で灯りを演出する“光玉使い”が必要なんです」


「光玉……?」


私はラティに、小さな魔術灯を見せた。指先で触れると、ふわりと暖色の光を帯びる玉。


「これ、全部で百個作る予定なんです」


「ひ、ひゃく……」


「もちろん一人でとは言いませんよ。でも、ラティくんなら“強度と色調を安定させる魔術”が使えます。私、知ってるんです。あのパンを発酵させたときの、あの温度制御はすごかった」


ラティは目を見開き、やがてぽつりと呟いた。


「……それなら、ちょっとだけ……試してみる」


幸福値18 → 22



準備は着実に進み、村のあちこちに明るい空気が戻ってきた。


けれど、私は気づいていた。

数字は、まだ足りない。


村の総幸福値は——現在、984。


“扉の浮彫りに記された数字”は、1000。


あと、16。


それだけあれば、最初の“封印”が完全に解除されるはずだ。


私は、誰にも気づかれないよう、深く息を吐いた。


「次は、祭り当日の“笑顔”で、一気に超える」


——幸福で、世界を前に進める。


私はそう誓っていた。

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