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追放聖女は“幸福値”しか視えません  作者: 東野あさひ


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第22話 新たな夜明け

幸福値が消えた世界——


それは、予想よりも静かに、しかし確かに変わり始めていた。


「エルフィナさん、野菜の仕分け手伝ってくれる?」


ラティが笑顔で私を呼ぶ。私は頷き、彼女のもとへと向かった。 かつては頭上に“数値”が浮かんでいた人々。けれど今は、ただ表情と声だけが、その人の感情を物語っている。


最初は戸惑いもあった。自分が“幸福なのかどうか”を、他人の視線で測れなくなったから。 けれど——


「……こっちのが、落ち着くな」


オルステンがぽつりと呟いた。 焚き火の前で、パンを焼きながら。


「数字があると、気にしちまうんだよ。『今、幸福値下がってないか?』ってな。まるで、自分の気持ちじゃなくて“表示される値”に縛られてる気分だった」


「うん。……私も、そうだった」


幸福値を“視る力”を持っていた私は、その言葉の重みを誰より知っていた。


「今は……人の目を見るようになった。仕草とか、声とか、そういう“直接的なもの”で、わかるようになった気がする」


「不安もあるけど……でも、私はこの方が好き」


ラティが微笑んだ。


その夜、村では小さな“収穫祭”が開かれた。 神機の停止によって、本来の収穫時期より早く自然が回復し、畑には例年よりも多くの実りがあったのだ。


「これも、君たちのおかげだ」


マリアが言う。


「幸福を数値に縛られず、“選ぶ”ことを思い出せた。……この村はきっと、もう“管理”されなくても生きていける」


「いえ……それは、みんなが選んだからです」


私がそう返すと、マリアは優しく笑った。


「それでも君の存在が、その選択の“きっかけ”になったのは間違いない。……エルフィナ、ありがとう」


感謝なんて、求めていなかった。 けれど、その言葉に私は救われた。


幸福を定義すること。 それは、誰かの未来を“規定”することに近い。 だからこそ、私はもう——


「誰かの幸せを、私が決めることはない。ただ一緒に、考えるだけ」


心の中でそう誓った。


焚き火の炎が、夜空にゆらめく。 子どもたちが歌い、大人たちが笑い、誰かがそっと涙を流す。


それぞれの感情が、そこにある。


“幸福値”が消えた世界で、私たちは——


“幸福を選ぶ”ことを、取り戻したのだ。


そしてその時——


(チリッ)


空間の隅で、小さな“違和感”が生まれた。


(……今、微かに何かが視えた?)


ごく一瞬だった。 けれど確かに、空の向こうに“幸福とは異なる色”を感じた。


不吉とも、警告ともつかない、それは……


(まさか……神機は、まだ完全には——)


胸に小さなざわめきを残したまま、私は夜空を見上げていた。

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