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追放聖女は“幸福値”しか視えません  作者: 東野あさひ


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第21話 共鳴、そして自由へ

翌朝。村は早くも日常を取り戻しつつあった。


子どもたちの笑い声、畑を耕すスコップの音、パンを焼く香ばしい匂い—— それらが織りなす穏やかな朝の風景。 けれど、私はその風景の中に混ざりきれずにいた。


(数値が戻ってきた……)


その事実を、どう受け止めればいいのか分からない。 ただ、もう以前のように“視えること”を忌み嫌う気持ちはなかった。 昨日、オルステンと話したとき、私は初めて、数字が“役に立つ”瞬間を目撃したのだから。


「……エルフィナ、ちょっと来てくれ」


神妙な顔をしたジャレッドが、診療所の裏手に私を呼んだ。


「例の“影プロセス”、拡大してる。今朝になってから、村の周囲で“演算共鳴”が起きてる」


「共鳴?」


「幸福値の数値化に耐性を持つ人間が複数存在すると、それらの“思考波形”が神機の自律演算と干渉してノイズを生む。だが、今は違う。逆に“強化”されている」


「つまり……私たちの“幸福”が、新たな演算を生み出してるってこと?」


「ああ。それも、君を“中心軸”として」


私は驚いた。


「私が……起点?」


ジャレッドは頷いた。


「おそらく神機リュカオンの“最終演算”は、記録者たる君の幸福を中心に再構成される仕組みだった。君が“幸福である限り”、それに連動する形で周囲の幸福も“補正”される」


私は息を呑んだ。


つまり——


(私の幸せが、誰かの幸せを“補正”してしまう)


善意であっても、それは“強制的な幸福”になりかねない。


「それって、結局……神の支配と変わらないじゃない」


「そうだ。だから君に訊く。“幸福でいてくれ”と言うのは簡単だ。でもその先で何が起こるかを、君自身が選ばなければいけない」


——選ばなければいけない。 私は天を仰いだ。


幸福とは何か。 誰のためのものなのか。


「私は、自分の幸福が誰かを縛るような仕組みなんて、いらない」


そう口にしたとき、自分の中の何かが静かに“決意”に変わっていくのを感じた。


「ジャレッド。神機を……もう一度、私が止める」


「……君にしかできない」


頷き合ったその瞬間、地面が軽く震えた。 空に淡い光の柱が立つ。


「演算コアが再活性した……!」


ジャレッドが駆け出す。 私もその後を追う。


——向かう先は、《記録遺跡》


石室の中央に浮かび上がる、青白い光球。 それはまるで、心臓のように“鼓動”していた。


《記録者の幸福、起点演算に登録》


機械音声が響く。


《幸福の定義——再構成フェーズへ移行》


そのとき、私の中にひとつの言葉が浮かんだ。


——数値じゃない。 ——共鳴でもない。 ——私が信じる“幸せ”を、この世界に示す。


私は目を閉じ、静かに祈るように呟いた。


「誰かの笑顔が、自分の幸せだと思えること。  自分の痛みを、他人と分かち合えること。  そして——その選択が“自由”であること」


静寂。 やがて、光球はふわりと揺れ、空気が“優しく”震えた。


《幸福定義、確定。記録終了》


《最終演算……完了》


その瞬間、幸福値の数字が——世界から、消えた。


私の視界からも、他の誰の頭上からも。


代わりにそこにあったのは——


オルステンが、ラティが、マリアが……皆が、笑っている顔だった。

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