第13話 幸福値、暴走する
「——幸福値が、止まらない……?」
それはある日突然だった。
いつものようにパンを焼き、村の子どもたちとあいさつを交わしながら私は店の前に“幸福掲示板”を設置していた。
掲示板には、住民たちが日々のささやかな“幸せ”を書き込む紙が貼られている。
だが、そこに異変が起きた。
「……なにこれ、昨日の記録に“+45”なんて数字……?」
村の仕立て屋・ロイナの幸福値が、前日比で急上昇していたのだ。
普段は1日で1〜2、せいぜい3ポイントの変動があるくらいの幸福値。
それが一晩で**+45**……? 私は耳を疑った。
だが、それだけではなかった。
「エルフィナさん! 昨日から子どもたちの様子がちょっと変で……」
声をかけてきたのは、薬師のマリア。
彼女の言う通り、村の広場で遊んでいる子どもたちは皆、まるで“何かに酔った”ように目がうつろだった。
「しあわせ……しあわせ……パン、もっとたべたい……」
「キラキラしてる、キラキラしてるね、エルフィナちゃん……」
違和感。
幸福であるというよりは、何かに取り憑かれているような目。
私は咄嗟に子どもたちの幸福値を視た。
——72、89、105……!?
ありえない。人間の自然な幸福値は、10〜40程度に収まるのが一般的。
100を超える数値など、私の知識の中にはなかった。
しかも、幸福値が“高すぎる”せいか、逆に身体のバランスを崩し、ふらつく子も出始めている。
「幸福値の……“暴走”?」
私は急いで診療所へ子どもを連れていき、同時に遺跡の水晶片を取り出した。
(……応答がある)
微弱な反応。だが確かに、第三層から“呼びかけ”がある。
「幸福値の異常と、遺跡……つながってる?」
私はまだ確信を持てずにいたが、この異変の背後に“人為的な力”が働いている予感がしてならなかった。
そんなときだった。
「はじめまして、未来の聖女さま」
笑顔で私に手を差し伸べてきたのは、深緑の外套を纏った、青年だった。
「……あなたは?」
「私は、ジャレッド・アルヴァ。幸福を研究する“錬金術師”です」
その笑顔の奥に、私は見てしまった。
——幸福値:268(異常)
この男が、何かを仕掛けている。
私は無意識に身構えた。




