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第3話 探してる店がある



 倒れた彼女を介抱したあと、その場の流れで、俺は荷物運びの手伝いをすることになった。


 両手に抱えるほどの大荷物は、大人の俺が持ってもかなりの重さがあった。


 瓶がたくさん入った手提げのカバンが2つに、ずっしりとした重みのある木箱が3つ。どう考えても小柄の女の子が持ち運べる荷物じゃない。


 これを今も隣を歩いている小柄な彼女が持ち歩くのは、明らかに無理があった。



「あの~本当に大丈夫ですよ? ご迷惑をおかけした上に、私の荷物まで運ぶの手伝ってもらうのは流石に……」


「気にしなくていい。別に急ぎの用があるわけでもなかったし、それに君みたいな小さい子がこんな大荷物を持って帰る姿を想像したら……流石に放っておくわけにもいかないだろ」



 思い出してもゾッとする。俺が介抱したあと、彼女がこの大荷物を平然と担ごうとした危なっかしい姿は、とても見るに耐えなかった。


 おそらく、彼女は魔法が使えないのだろう。魔法が使えるなら、はじめから魔法を使ってるはずだ。


 だから荷物を運ぶ時も、俺のような魔法使いじゃない人間と当然のように手作業になってしまう。


 そんな姿を見かねて、気づいたら俺は彼女から半ば強引に荷物を奪い取って、こうして荷物運びを手伝う羽目になっていた。



「あぅぅ〜、本当にすみません。手伝ってもらってありがとうございます。このお礼は必ずしますので〜」



 何度も頭を下げて感謝を伝えてくる彼女だったが、俺は丁重に断ることにした。



「それはダメですよ。私、あなたに色々と迷惑をかけましたし……」


「そういうのは要らない。その気持ちだけで十分だ」



 別に謝礼が欲しいから助けたわけじゃない。ある意味で言えば、これもただの気まぐれだ。



「でも、それは流石に――」


「だから気にするな。それで、行く道はこっちで良いのか?」


「えっ? は、はい! そちらで大丈夫です〜!」



 俺がわざと話を逸らすと、彼女は少し慌てた様子で行く道を指差した。


 どうやら大通りを抜けて、街外れに向かうようだ。


 その指示通りに歩き出すと、俺が困らないようにするためなのか、小走りで彼女が「こっちです!」と先導していく。


 その姿は、まるで小動物みたいだった。随分と整った可愛い顔をしているが、まだかなりの幼さがある。見るからに子供だろう。俺の胸くらいしかない背丈からして、多分15歳くらいか。


 そんな彼女がメイド服を着てるってことは、どこかの貴族に仕えるのだろう。つまりこの荷物も、その買い出しかもしれない。



「君も大変だな。こんな買い物をいつもしてるなんて」


「へっ? い、いえ! 全然ですよ! いつものことなので!」



 そう返事をして笑う表情には微塵も不満がなかった。素直そうな見た目通り、やはり彼女は働き者らしい。


 その献身さは、大人の俺も感心したくなった。



「あっ! あの!」


「ん?」



 そんなことを考えていると、おもむろに彼女から声をかけられた。



「どうした? もしかして道を間違えたか?」


「い、いえ! そうじゃなくて、あの、えっと!」


「……ん?」



 なにを言いたいのか見当がつかない俺が困惑していると、恐る恐ると彼女が小さい口を開いた。



「お、お名前……あなたのお名前、教えてください。あ、こういう時は自分から名乗らないとダメでした。私、セリナ・グノーシスって言います。セリナって呼んでください」



 本当に礼儀正しい子だな。やはり侍女となれば、そういう作法をしっかりと叩き込まれてるのかもしれない。


 そんな彼女ことセリナに感心しながら、俺は自身の名を伝えることにした。



「俺の名前はノックスだ。よろしく」


「ノックスさんですね! 覚えました!」


「ノックスでいい。わざわざ敬称なんて付けるほど、俺は大した人間じゃない」


「ダメです! 私、ちゃんと大人の方には敬意を払いなさいって教わりましたので!」



 こればかりは、下手に否定しても無駄だな。



「……なら好きにしてくれ」


「はい! ちゃんとお礼だってしますから!」



 上手く話を逸らせていたと思ったが、思いのほかセリナは忘れていなかったらしい。


 これは、少し困った。


 このまま彼女からお礼を受け取るわけにもいかない。そもそも受け取るつもりもないが、これだと俺が謝礼目的で助けたみたいになる。


 セリナは侍女だ。もし彼女が見ず知らずの他人に助けてもらったと知られたら、彼女の雇い主や上司に怒られることだってあり得る。


 ここは上手い言い訳でも考えて誤魔化すべきだろう。


 それか、彼女がお礼だと納得できるようなことでもあれば良いんだが……


 そんなことを考えていると、俺は妙案を思いついた。


 ちょうど良い。折角なら色々と歩いて探そうと思っていたが、彼女に聞いてみるのも悪くない。


 そう思うと、俺は早速とセリナに話しかけていた。



「そこまで言うなら、今回のお礼として教えて欲しいことがある。この街で探してる店があるんだが――」


「そういうことならおまかせください! 自慢ではありませんが、この街のことならなんでも知ってますよ!」



 かなりの自信があるみたいだが、正直なところ、俺は話を聞けるだけでよかった。


 彼女からお礼として質問に答えてもらう。それだけで彼女が満足できるなら、それで十分だった。


 あまり期待してないが、とりあえず聞いてみよう。



「魔法に関する物を買い取ってくれる店を探してるんだ。買取の査定だけでも構わない。そんな店を知らないか?」


「買取、ですか? ちなみにそれって魔導具とかですか?」


「いや、本だな」



 俺がそう答えると、セリナが何度も頷いた。



「なるほど、魔導書ですね。探してる店は、どこでも良いんですか?」


「できるなら、ちゃんとした査定をしてくれる店がいい。高く買い取ってくれる店じゃなく、正しい査定をしてくれる店を探してる。もし知ってるなら教えてくれ」



 我ながら変な質問をしてると思ったが、はたして俺の望む答えが返ってくるだろうか?


 そう思っていると、たった今話した俺の要望を聞くなり、セリナの表情が変わった。


 唐突に彼女が満面の笑みを浮かべると、意気揚々と口を開いた。



「それなら是非とも私の家に来てください! そういう買取ならお姉ちゃんにおまかせです!」


「……は?」



 急に意味のわからないことを言い出したセリナに、思わず俺は困惑していた。


 一体、この子はなにを言ってるんだ?



「私の家? お姉ちゃん?」


「はい! 私の家、魔導具店をしてるんです!」


「セリナは侍女だろ? もしかして君の雇い主の店か?」


「……侍女? 私が? 違いますよ?」



 なにを言ってるのかわからない、みたいな反応をされてしまった。


 それは俺の台詞だ。



「いや、だってメイド服着てるし」


「この服ですか? これ、お姉ちゃんの趣味で着てるだけですよ?」


「……ちょっと待ってくれ、頭が痛くなってきた」



 あまりにも理解できない話に、堪らず俺は困惑した。


 ただの趣味で自分の妹にメイド服を着せる姉が、一体どこにいるんだ?


 だが、そんな俺のことも知る由もなく、セリナは意気揚々と目を輝かせていた。



「そんなことよりも、そういうことなら早く私の家に行きましょう! 私のお姉ちゃんならノックスさんの期待に応えられると思うので!」



 これまた随分と自信がある反応だった。


 今更ながら、ちょっとだけ後悔したくなった。


 はたして、本当に期待通りの店があるのだろうか?


 そう思いながら、俺はセリナに促されるまま、彼女の家に向かうことにした。

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