【2024夏ホラー】遺書【キーワード『うわさ』】
※所要時間……約1時間
※ふりがなをつけるのが面倒臭かった(小学生並みの感想)
私は噂といふものが厭ひで或る。
無論、其れを語らふ者達も。
何故そのように感じるのかと言へば、単に男らしくなひからであらふ。
此れは私の勝手な推察であるのだが、立派な人間といふものは、噂などに耳を貸さず、また語る口唇も持併せぬものであらふ。
もつと具体的に言えば。私は噂といふ現象ないし行動が持つ特性――即ち、弱き者や婦女子が好みそふな或る種の女女しさが心底厭ひなのである。侮蔑軽蔑冷笑嗤笑せざるを得なひのである。他人の不幸を嘲笑し、溜飲を下げるやうな在り方など私は断じて赦さない。他人様の噂をして喜ぶ者がゐたならば、その横面を叩きたくなるものである。問掛けたくなるものである。「貴様の生涯は他人を気にしていられるほど余裕あるものなのかひ?」と。
故に私は噂が厭ひである。其れを語らふ者達も。そういふ者が縁者にいたならば私は容赦なく斬捨ててきた。人間関係を切つて切つて、斬捨ててきたのである。
小学校中学校。
噂好きの年頃といふものであり論外。
高校時代、部活動の朋友達。
剣道という狭ひ世界で噂が飛交う。これも論外。
大学時代の盟友達。
我が人生におひて唯一と呼べる友であり、彼等の為ならば命を捨てても惜しくなひと思へるだけの付合ひとなつた。しかし連絡先を喪つてしまつた。
社会人となつてからは友を持たずに生きてきた。
初めて就職した会社は北東北の片田舎に在り、田舎根性丸出しの連中ばかりで嫌気が差す。次は仙台にて就職したが同様。東京にまで稼ぎに出たが、これが最も酷ひ処であつた。一人が去れば、その途端にその者の罵詈雑言を並立てる始末。結局馴染むことができたのは人員の出入りが激しい自動車製造工場であったが、年齢を鑑みて、捨てた筈の故郷へ舞戻ることに相成つた。
こうして半生を振返れば虚しさが先立つが、男とは得てして孤独であるべきであらふ。孤独が男を強くするのだ。ただひとつ惜しいと思ふのは、愛した女に先立たれてしまったことである。
もう表題は書ひてしまつたが、私が遺書を認めるならば冒頭は、噂というものが厭ひで或る――と書こふと思ふ次第である。
却説、ウィスキーの酔いが醒めぬ前に事を進めなくてはならぬ。
追伸
忘れていた此れが純文学ではなくホラーであるという事実を。
ならば簡潔にだが記さねばならぬ。
貴公、忘れること勿れ。
貴公が嬉嬉として語る噂には毒が含まれてゐるのだ。
その猛毒を喰らひ、蝕まれ、どうにもならずに首を括ろうとしている哀れな者達がいる事を。
噂をする者を私は赦したりはしない。
首長の膝付き屍体が貴公を呪うであろう。