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殿下、我が国に『絶海の孤島』はございません。わたくしを『島流しの刑』に処すのは無理でございます。

サクッと読める婚約破棄ものです。

「アマーリエ・ファルセット! キサマとの婚約は破棄だっ! 更に我が愛するミミリアを苛めた咎により、キサマを島流しの刑に処す! 絶海の孤島で一人苦しむがいい!」


 指まで突きつけて、偉そうに宣言しているのが我が国の王太子殿下。

 金髪青目の、見た目は絵本に出てくるような王子様然としているが、その中身は幼児に等しい。いや……幼い子どものほうが親の言うことを聞く分、まだマシかもしれない。


「婚約破棄、承りました。追放でしたら了承いたします。ですが……」


 わたくしはわざとらしく顔をしかめ、首まで横に傾ける。わたくしのさらりとした銀の髪が揺れた。


「なんだ、さすがのキサマも島流しと言われれば恐ろしいか」


 わーはっはと大口を開けて笑う王太子殿下の間抜け面。せっかくの美貌が台無しね。それしか取り柄はないというのに。まあ……確かにある意味恐ろしいけれどね。自国の地理すら知らない王太子がいるなんて。

 わたくしは夜会の会場内に響き渡るよう、背筋を伸ばし、腹から声を出す。


「我が国で海に面しているのはシシリー伯爵領とガイナックス公爵領のみですが、そのどちらの海にも『孤島』と呼ばれるものはございません」

 

 海はあるけれど、穏やかな遠浅の海。波打ち際から離れ、かなり沖のほうへ行っても水深は腰の下程度。深くても大人の肩ぐらいなので、海中を歩くことも可能。こんな海しかないわが国で、絶海? 島? 笑わせてくれる。


「漁師が潮干狩りをして貝を採取するような、波の穏やかな砂浜が延々と続いているだけですわ。半日も歩けば確かに水深は深くなりますが、その海域は我が国のものではございません。すでに隣国の漁業海域でございます」

「は……?」

「絶海のとはどこを指すのでしょう? わたくしは隣国へと追放になるのでしょうか? 隣国に通達はなされているので? 冤罪をかけられるのは構いませんし、国外追放も婚約破棄も喜んで、と申し上げますが、具体的な場所をお示しくださいませね?」

「へ……?」

 

 ああ……、わかりやすく説明したつもりなのに、説明が長すぎたのか、王太子殿下にはわたくしの話がご理解いただけないようだ。

 仕方がない。簡単に言いなおそう。


「ですから、我が国に『絶海』も『島』もございません」

「ない……?」


 王太子殿下はきょとんとして、隣にいるミミリア嬢と思しき女性に問いかける。

 が、ミミリア嬢も「知らないわよ!」と口から唾を飛ばしている。


「だって、読んだ本には悪役令嬢を絶海の孤島に追放して、それで、ヒロインと王子様が結ばれるって書いてあったのに……。だから、殿下にそうしてって言っただけなのに……」


 あ、ああ……。なにかの恋愛小説でも読んで、それで小説の真似をして、わたくしを島流しにしようと思ったのですね。なんて短絡的な……。というよりそれで、阿呆……、失礼、語彙力が足りない王太子殿下が『絶海』や『孤島』などという単語を覚えていたのですね。ああ、よかったですね殿下、二つも新しい単語を覚えられて。


「で、では……、アマーリエを島流しにするにはどうすれば……」


 思わず「知るか! 愚か者っ!」と叫びそうになった。が、ぐっとこらえて淑女的な微笑みを浮かべる。


「それはわたくしが王太子殿下にお尋ねしているのです。王太子殿下はわたくしを『絶海の孤島に島流し』とおっしゃいました。で、それ、どこにあるのです? どの領地のどこに? それとも王家は土地を改造して新たに『絶海の孤島』をお作りになるのかしら?」


 答えることもできない王太子殿下に背を向けて、わたくしは会場内を一瞥する。


「さて、皆様。わたくしはこれまでこのように自国の地理すら把握していない王太子殿下の婚約者として、長年殿下をお支えしてまいりました。が、この度やっとその役目から解放されることとなり、非常に嬉しくまた清々しい気持ちです」


 満面の笑みで言葉を続ける。


「王太子殿下自らわたくしを『島流しの刑』に処するとおっしゃいましたが、ここにいる皆様の領地に『絶海の孤島』とやらがおありでしたら、その所在を王太子殿下に教えてさしあげてくださいませ。さすればわたくしは即座にその島へと流されることも可能でしょう」


 くすくすと笑いながらわたくしは言った。

 さて、この場をどう収めるつもりかしらね王太子殿下は。

 他の刑に変更?

 まあ、それもいいでしょう。

 王太子ともあろうものが、自分の発言を、無知が故に取り消すと、嘲笑してさしあげますけどね!




お読みいただきましてありがとうございます。

長編候補の冒頭ですが、ここまでで短編としていけるかなと。

いつか時間ができたら続きを書いてみたいものです。

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