見定め
前回は白宮神殿への出勤初日と言うこともあったため、一週間の白宮神殿への立ち入り禁止で処分が終わり、今日からまた、このシンスの方々と話せる場に戻って来れる事になった。
シンス達が採掘してくる魔石の量は今日も上場で一日の必要採掘量には余裕で届く勢いだ。
「ソラナ、こっちの窓口の処理を頼む」
「わかりました」と上司の男性【ドルフ・ドレイド】に言われ、その窓口に腰を下ろし、置かれていたある特殊なメガネを付けると本来見えないはずの壁の向こう。冒険者達の持ちものや素顔まではっきり見えた。
今、私の窓口の前にある冒険者は小包に入った魔石を台に置いている。
そして、バシッと力強く押された台は私の元へ魔石を運び入れてくれた。
「合計で十個……」
ルールに基づいたらこれでは銅貨二枚。
買える食糧品はパン一欠片か水一日分。
リュックに何かを入れているのは見えている。形からして何かの脚。
生きていく分には問題ないかもしれないが顔色を見れば体調が悪い事は明白。
紙に書かれた名前からこれまでの魔石採掘量をパソコンで照合するとやはり、平均は十個前後。
私がプラスで賃金を出すかどうかの思考に行き当たったところで肩を叩かれる。
はっとし振り返ると目の前にドレイド上官がいた。
「どうした?何か問題があったか?」
「い、いえ、何も問題ありません」
「そうか。手が止まってたからついな。
困ったことがあれば聞いてくれよ」
「はい、ありがとうございます」
見られてる。
前回やらかしてしまった事で目をつけられてしまっているのが現状か。
浅はかだった自分の行動にため息が出る。
更に目をつけられる訳にもいかない。
目の前の冒険者には我慢してもらうしかない。
黙って引き出しに決められた金額を起き、台をシンス側へと戻した。
「へぇ、ここが白宮神殿の窓口か……」
「それとここに魔石を置いて台を押して、魔石を向こう側に上げればいい」
私と同年代くらいに見える二人の男性が台にジャラジャラと底が見えないほどの量の魔石を置いていく。
そのほとんどが小粒の魔石であるがかなりの量。
台がこちらにやってくると個数計に流し込むと合計個数は七十個。
熟練者かと思ったが装備は潤沢ではないのは明らかだ。
古びた服に刃こぼれしたナイフ。
魔石の量と装備のギャップに違和感を覚え、二人の名前から照合すると目を見開いた。
驚く事に二人はまだまだ新米。
シン・レコンドは先週からダンジョンに入ったばかりでドッグ・アコンに関して今日が初日だ。
シン・レコンドの平均採掘量は二十個前後と普通の倍の値を叩き出している。
そこにドッグ・アコンがパーティとして加入して、その三倍以上。
更に一週間で五階層に到達。
同期の到達階層はほとんどが二か三。
それと比べたら突出していると言わざるを得ない。
「どうした、また手が止まってるぞ」
「ドレイド上官、これを……」
「ん?」
ドレイド上官に二人の戦果を見せるとやはり驚いたように目を見開いた。
「こりゃ、すごい。たったの一週間で五階層到達とは化け物だ
レベルアップ申請候補リストに追加しといてもいいかもな」
「それって確かシンスを解放する……」
「そうそう。貢献度に応じてレベルを上げていって高い人を優先的に年に一回、数名を監視の下という条件付きで自由を与える制度。
全員申請してやりたいが本当に頑張ってる奴が報われないのは忍びないからな」
「では、この二人申請後方リストに追加しておきます!」
「ああ、そうしておいてくれ」
この国にも一応存在するシンス達の救済制度。
しかし、彼らはここに言われもない理由で生まれた時からある特徴だけでここにメイデンに閉じ込められている。
シン・レコンド、ドッグ・アコンが私が求めているほどの力量を持ち合わせているなら協力者候補としても……
「お、今日は大金だな」
「水代を二週間分稼げたのは大きい」
なら、彼らが協力者となってくれた時に私は彼らに何を提供できるのだろうか。
食料の供給のみで簡単に採掘量を上げられるのなら苦労はない。
士気は上がるだろうがあくまで一時的なものになっていくだろう。
それに、この協力関係を結んでシンス達全員に将来的に利益があるかもしれないが彼ら個人は利益が発生するまでの間、無報酬で成績を上げ続けるなんて引き受けてくれるわけがない。
それ以前に彼らと交渉の場を設けなくてはならないし、周りの人間にシンス達の援助を悟られれば最悪、私もお父さんと同じように独房行きになる。
でも、時間はない。
彼らが冒険者として成り立てと呼べる期間を脱して仕舞えば報酬を上げ続けたとしても、物資ではなく技量が伸びたからだとか言って、物資を上げなくても採掘量は伸びると上の人間達は余計に調子に乗るだろう。
ただ、最後にはシンス達に物資を個人的に供給していたのがバラす事は確定している。
犯罪者扱いになり、彼らの功績を消されるリスクがかなり高い。
頭を抱える情報が多い。
何もかも上の人間が保身に走ってばかりいるせいだ。
だからこそ、変える意味があるとも言えるが。
「はぁ〜……」
でも、弱音なんて吐いてられない。
変えなくてはならない。
救わなければならない人が目の前にいるのだから。