手帳用えんぴつで綴った、亡き孫娘へ捧ぐ軍歌
黒いリボンの結ばれた遺影。
その中から私を見据える孫娘の顔は、最後に会った時より随分と初々しかった。
何しろ私が知る孫娘の最後の姿は、大日本帝国陸軍女子特務戦隊の幹部将校である園里香上級大佐なのだから。
「陸軍士官学校卒業当時の写真です、御義祖父さん。」
血の繋がらない孫にあたる青年は、亡き妻の遺影を見ながら寂しげに笑った。
孫娘の伴侶となってくれた善光君には、本当に感謝している。
北中振の姓を捨て、我が園家に婿養子として入ってくれた。
そればかりか、結婚後も軍務を続ける孫娘の夢を応援し、里香が哈爾浜で戦死してからも後妻を迎えずに遺児を育てる決心をしてくれたのだから。
「士官学校での日々を語る時の里香さんは、実に楽しそうな笑顔でしたから…」
内地で事務仕事に携わる主計将校とはいえ、やはり彼も帝国海軍士官。
妻の戦死にも涙を見せぬのは天晴だ。
「里香の一番好きな写真を選んでくれて感謝するよ、善光君。あの子は立派な軍人であろうと心掛けてたからね。」
「日露戦争の英雄と謳われた大叔父様のようになりたい。それが口癖でした…」
帝国陸軍第四師団の英雄として名を馳せた園成太郎大尉は、私の弟にあたる男だ。
弟も孫娘も、帝国軍人の誇りを胸に死んでいった。
-軍人にさえ、ならなければ…
そんな風に悔やむ気は毛頭ない。
そんな考え方は、弟や孫娘の生き様を否定する事になるからだ。
だが、卑属に先立たれる悲しみに変わりはない…
物書きとして、そして家族として。
残された私が為すべきは、英霊となった彼等の想いを語り継ぐ事だ。
そのためには…
「実はな、善光君。軍の要請で、里香を題材にした軍歌を作詞する事になってね…」
「分かりました、御義祖父さん。大日本帝国海軍の軍人として…そして里香さんの夫として、協力は惜しみません。」
誠意ある返答に、胸が熱くなる。
彼を選んだ孫娘の判断は、正しかった。
「有難う、善光君。既に曲名は決めているのだよ。」
「成程、『我が妻は護国の乙女』ですか…」
手帳を覗き込んだ善光君が、感極まった声で曲名を読み上げている。
「君は里香を、伴侶として愛してくれた。君の知る里香が生きた証を、この世に残してやりたいんだ…」
それに応じる私の声も、知らず知らずのうちに震えていた…
そういえば、あの日もそうだった。
乃木大将に殉じるようにして自刃した弟の忠義心を称えるべく、軍歌の歌詞を記した日。
あの時の私も、こうして手帳用の鉛筆で記していた…