8話 協力者探し
「つまり堕神の協力者を探せと言うことですか…?」
アマリエの問いかけに、銀獅子は仰々しく頷いた。
『聖女なら心得ているであろう――
神は、下界…あぁ、地上界に干渉することを禁じられておる』
神界に、住まう神々は地上界のことを『下界』と蔑んだ呼び方をする。
そして地上界に住む者を『下界人』と表現するのだ。
今神獣はアマリエが分かるように言葉を選んで話してくれているが、言い慣れていない感があった。
「はい。神々の戦いの影響で、この地上界の【地盤】はとても脆くなってしまった。
だから、神々が降臨するだけでも地盤に大きな負荷をかけてしまう。ですから主神が禁じているのですよね」
アマリエが反芻すると、
銀獅子は満足気に『その通りだ』と応えた。
この世界は大きく分けて、
【神界】、【地上界】、【冥界】――3つ界層で成り立っている。
そして今、地上界は“穢れ”と呼ばれる存在がある。
それは地上界の地盤が脆くなっているという、顕れであった。
穢れの浄化とは、脆くなった地盤を修復する作業のこと。
その作業を怠れば地盤の崩壊は進み、やがて地上界そのものがなくなってしまう。
それはまるで“だるま落とし”のようで、仮に地上界が弾き飛ばされたら、その瞬間――上下に残った神界と冥界が直接隣接することになる。
しかしそれは、神界の世界に“亡者”が溢れかえるという最悪の事態を招くことを意味する。
地上界の存在とは、両界の均衡を保つための“歯止め”でもあるのだ。
ゆえに、神の降臨は地盤に致命的な負担を与える。
神とは、ただ“在る”だけで世界の均等を揺るがす、歩く災厄のような存在なのだ。
だからこそ主神は、神々が地上界に干渉することを禁じた。
それが、世界の崩壊を防ぐために必要な――
唯一の“理”なのである。
『神が干渉できないゆえ、界層を行き来しても影響を与えぬ存在として――“我”は作られたのだ!!
神の遣いとして、主神の目としての役目を果たすことこそ……そう!我の存在意義なのだ!』
「…はぁ、そうですか」
いきなりドヤ顔を決めて語り始めた神獣に、アマリエはどこか冷めた視線を送った。
(…なんか、すごく誇らしげに言っているけど、要するに“使い走り”ってことよね)
『む?今、妙に失礼なことを考えなかったか?』
「べ、別に考えていません…」
露骨に訝しげな顔をしている神獣から、アマリエは慌てて視線を逸らした。
ふと、そんな神獣がわざわざやって来たという――
“事実”にアマリエは改めて背筋が冷えるのを感じた。
――世界の崩壊。
その言葉が、脳裏をかすめる。
(恐ろしい…考えたくもない)
アマリエは、浮かんだ最悪の結末を頭から追い払うように、ブンブンと首を横に振った。
『コホンッ…話を戻すぞ』
「はい」
アマリエは小さく息を整え、居ずまいを正した。
「うむ、そこでだ。地上界での協力者探しはお前に一任することにする』
「わ、わかりました。…で、協力者を探し出せたら、その者はどうなるのですか?」
『さてな。その者への処遇については主神様が決めることだ…我にはわからん』
「そうですか…」
『事情は呑み込めたか?そろそろ我は神界に戻らねばならん』
「ちょ、ちょっと!待ってください!!こんな谷底に置いてけぼりって無いでしょう!?」
身を翻した神獣のたてがみを、アマリエは必死でしがみつき、引き留めた。
『ああ…すまん。では近くの…下界人の住まう場所にでも送ってやる』
アマリエの必死さに、やや引き気味になりながら銀獅子は提案した。
「ありがとうございます!!」
『では乗れ』
「はい!!」
アマリエは、伏せの姿勢を取った銀獅子の背中に跨った。
思っていたより柔らかい毛並みに、思わず顔を埋めたくなる。
『よし、行くぞ』
銀獅子は、アマリエを乗せて立ち上がると、
一気に、夜空へと駆け上がった。
◇ ◇ ◇
辺りは、すっかりと夜の帳に包まれ、空には大きな満月が浮かんでいた。
近くで見えるその光に、アマリエは思わず手を伸ばす。
そして、はっとして手袋を嵌めた自身の手のひらを見た。
布の裂け目から覗く、薄い傷跡を目にした瞬間、
姉の裏切りが――夢ではなかったことを痛感する。
(…胸のあたりが……痛い)
『…降りるぞ』
「は、はい!」
銀獅子の声に、アマリエは我に返り、
ふかふかの身体にしっかり掴まり直した。
『…ひとつ忠告だ。浄化は今からお前の器に“残っている神力のみ”で賄うしかない。よく見定めて力を使うことだ』
「…わかりました」
アマリエは途端に不安になって、ギュッと自分の拳を握りしめた。
そんな彼女を見て、銀獅子は何が言いたげに口をぱくぱくと開閉させる。
『あ…その、なんだ…「またな」』
歯切れ悪くそう言い残すと、銀獅子は前足に力を込め、一気に空へと駆け上がっていった。
(…気を使わせてしまったかしら)
――不安が顔に出ていたのかもしれない。
銀獅子の姿が夜空から完全に消えると、アマリエは少しだけ心細くなった。
ふと、彼が去り際に告げた『またな』という言葉を思い出す。
ふてぶてしいほど偉そうなのに、最後に不器用な優しさを見せた神獣。
そのギャップがなんだかおかしくって、つい笑みが出た。
「なんだか、元気が出た」
アマリエは、無数の明かりが見える方角へと歩き出した。
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