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9話 衝突

「――なるほどな。それで模擬試合か」


「はい……」


アマリエからギルドでの出来事を聞き終え、バッカスは腕を組んで頷いた。


ソルの提案により、グランが率いる『黒曜連盟』から正式に模擬試合の申し出があったのだ。


「で、試合形式は?」


「一騎打ちだ」


明かりの届かない壁に背を預けたまま、エイガーが短く答える。


ギルド公認で行われる模擬試合は、チーム戦か一騎打ちのいずれかを選ぶ。

基本的に申し出た側が主導権を持つため、今回は黒曜連盟がすべて取り決めていた。


「……指名を受けたのか?」


カウンター席で脚を組みながら、リゼッタが問いかける。


「ああ」


対戦する相手もまた、申し出た側が指定する。


場の視線が、自然とエイガーへと集まった。


「――俺だ」


落ち着き払った声で告げる。


「やはりな」


「――だと思ったぜ」


「グランは自尊心が高いからね」


リゼッタ、バッカスに続き、ミハエルの順に言葉が重なる。


「お前に馬鹿にされた腹いせだろうな」


バッカスが結論づけた。


「だろうな」


「……くだらん」


エイガーは淡々と頷き、リゼッタは呆れたように息を吐く。


「そういや、エイガー。お前のランクはどうだった?」


本来の目的を思い出したように、バッカスが尋ねた。


「A級だ」


「ふーん」


やけに淡白な相槌を打つ。


「なら、相手もA級だろうね」


ミハエルが補足する。


「それで……」


それまで黙っていたアマリエが口を開いた。


「模擬試合で勝った同盟が、『S級依頼を受けられる』という条件を付けられました」


「なるほど。面白ぇ」


バッカスの紺碧の瞳が、ぎらりと光る。


S級依頼を受けるには、同等ランクの冒険者が揃っている必要がある。

この街でその条件を満たすのは、『陽気な旅団』と『黒曜連盟』のみ。


本来、依頼は先着順――早い者勝ちだ。

だがS級依頼となると、条件を満たしていても即座に受理されるとは限らない。

最終的な判断はギルドに委ねられる。


おそらく、S級が二人いるこちらに分があると踏んでのことだろう。

だからこそ黒曜連盟は、模擬試合の勝敗で依頼を受ける権利を決める条件を持ち出したのだ。


それほどまでに、この依頼は貴重だということだ。

バッカスが乗り気になるのも無理はない。


「それと……」


アマリエは言い淀み、視線を落とす。

三人が互いの顔を見合わせた。


「――黒曜が勝った場合、“A級の治癒士を差し出せ”と言ってきた」


見かねたエイガーが、アマリエの代わりに告げる。


その言葉に、リゼッタとミハエルは息を吞んだ。


『陽気な旅団』に所属するA級治癒士は、アマリエただ一人。


「なるほどな。あいつら、回復役が足りてねぇからな」


バッカスは納得したように呟いた。


最初から勝つ前提で、その条件を積んできたのだろう。


「私は反対だ」


最初に声をあげたのは、リゼッタだった。


「勝てば問題ねぇだろ」


バッカスはあっさりと言い放つ。


「貴様は…!」


椅子を蹴るように立ち上がり、リゼッタはバッカスの胸倉を掴んだ。


「いつもそうやって仲間を軽んじる! いい加減にしろ!!」


その怒りの裏には、ミハエルの一件があった。


「姉さん!やめなよ」


ミハエルが慌てて間に入る。


事情を知らないエイガーは、黙って成り行きを見ている。


「リゼッタさん、落ち着いてください!」


アマリエも思わず立ち上がり、必死に彼女を宥めた。


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