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8話 火種

その場にいた全員が、声の方へと振り返った。


そこには、ひょろりとした長身の青年が、後頭部で両手を組むようにして立っていた。

 

ところどころ毛先の跳ねた明るい茶髪に、赤みを帯びた茶色の瞳。

胸元をだらしなく開けたシャツに、茶色のズボンという軽装は、どこにでもいる市民のような出で立ちだ。

だが、纏う空気だけがひどく場違いだった。


底抜けの笑顔。


この緊迫した空気の中で、青年はへらへらと笑っていたのだ。


「ソル」


グランが青年の名を呼ぶ。


「まぁ、その人強そうだもんねー」


満面の笑みのまま、ソルはエイガーへ視線を向ける。

その一言に、グランの眉間の皴がさらに深くなった。


「『陽気な旅団』に入るの?」


不機嫌な様子など気にも留めず、ソルは問いかける。


「ああ」


エイガーが短く頷いた。


「――いいなぁ。バッカスさんのとこ、ますます楽しそうじゃん」


ソルは拗ねたように唇を尖がらせる。


「……」


初対面とは思えない馴れ馴れしさ。

相手を測るように、エイガーは黙り込んだ。


「俺はね、今グランの同盟に入ってるんだ」


尋ねてもいないのに、ソルは続ける。


「えっと……『黒曜連盟』だっけ?」

 

ようやくグランへ顔を向けると、その表情は一層険しくなった。 


「……自分の所属だろう」


呆れたようにエイガーが言う。


「そうなんだけどさ。金積まれて入っただけだし、ちゃんと覚えてないんだよね」


あっけらかんと言い放つ。

 

その場にいた者たちは、ぽかんと口を開け、すぐにひそひそ声が広がった。


『…S級を金で勧誘してるって本当だったのか』


『うわ…。ありなのか、それ』


「うるせっ!」


「関係ない奴は消えろ!!」


黒曜連盟の一人が怒鳴ると、人々は波を引くように散っていった。





「ソル、余計なことは言うな!」


仲間に強く咎められても、ソルは首を傾げる。


「本当のことなのに、なんで?」


「うっ!」


無垢な子供のような声音に、言葉を詰まらせる。


「治癒士さんにも、金か脅しで仲間に入れようって話してたじゃん」


「おまっ……いい加減にしろ」


口を塞ごうと伸びた手を、ソルががしりと掴んだ。


小さく骨が軋む音がする。


「いっ!」


「顔、触らないでよ」


その瞬間、ソルから笑みが消えた。

 

指にさらに力がこもる。


「いででで! やめろっ! わかった、わかったから!!」


涙目で叫ぶと、ソルはぱっと手を離した。


「ほらね、こんな奴らなんだもん。バッカスさんのところにすればよかったよ」


悪びれもせず、エイガーへ笑みを向ける。


エイガーは無言で、わずかに眉間に皴を寄せた。


「可愛い治癒士さんもいるし」


今度はアマリエへ視線を向ける。


「え、えっと……」


アマリエは返す言葉を探すが、何も出てこない。


「で、なんだっけ。ああ、グランに提案しようと思ったんだ」


「……なんだ?」


グランが片眉を吊り上げる。


「せっかくだし、模擬試合でもしたらどうかなって」


その一言で、場の空気が一瞬にして張り詰めた。

 

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