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5話 アンデッドの群勢


 ――ロバルンレット王国の最北端に位置する、

イオロスの村にアンデットの群れが進攻していた。


 真っ黒な眼窩(がんか)には、赤い光が禍々しく宿っている。

 血肉を失った体に古びた(よろい)(まと)い、不自然に曲がった関節を気にも止めずに、こちらに向かって歩いてくる。

 緩慢な動きにあわせて、ガシャ、ガシャと鎧の金属音が響き、裂けた口から覗く欠けた歯がカタカタと乾いた音を鳴らしていた。


 じりじりと迫ってくるアンデッドの大群を目の前に、若い魔道士が思わず喉を鳴らした。

 ガクガクと震えだす膝を奮い立たせるように、手に持つ杖を更に強く握り直す。


(早くしてくれよ!)


 苛立ちと不安に駆られながら、前方に立つ指揮官が動くのを――ひたすら待つ。

 

 アンデットの群勢を迎え撃つため、魔道士部隊が周辺をよく見渡せる台地に整列していた。

 そして先頭を歩く一体のアンデッドがやっと(・・・)ある一線を超えた瞬間、指揮官が前方に腕を突き出し、鋭い声を放った。


「第一魔道部隊――“術式発動”!」



炎球(ファイヤーボール)!」

旋風(ウインド)!」


 指揮官の号令で、魔道士たちが一斉に攻撃魔法を放つ。


 繰り出される火と風の攻撃魔法に、最前列のアンデッドが次々と吹き飛んでいく。 

 攻撃を終えた第一魔道部隊はすぐ後方に回り込み、前に出た第ニ魔道部隊が指揮官の号令で魔法を放つ。


 ――しばらく魔法の連撃が続いた。


 群勢の動きが崩れ、列を乱したところで、武器を構えた騎士ちが、一斉に丘を駆け下りる。


 魔物には、心臓部に【(コア)】が存在する。

 それを壊すには、物理的に“砕く”しか術はなく、その役目は騎士に(ゆだ)ねられていた。


 魔道士の攻撃で魔物の体勢を崩し、または動きを止め、その隙を突き騎士が(コア)を破壊する。

 

 魔物との戦いは、これが主流だ。

 

 だが付与魔法で身体能力を上げ、武器や防具を強化しても――

 この戦い方は騎士の負担が大きいものだった。



   ◇ ◇ ◇



 一方、イオロスの村の外れ――

 野営地では、神官たちが運ばれてくる負傷兵の治療にあたっていた。


「重症度の高い方たちは、こちらに運んでください」


 アマリエの指揮で、重症の騎士たちが、一ヶ所に集められる。


「では、治癒を始めます」


 集めた負傷兵たちの前に立ち、イレーネは静かに両手を組んだ。


癒やしの泉(ヒール・スプリング)


 詠唱の言葉とともに、横たわる負傷兵たちの下の地面が、淡い光を帯び始めた。

 やがてぽこぽこと泡立つように、そこから光の水が湧き出してくる。

 それは小さな光の泉となり、やがて噴水のように高く舞い上がった。

 しばし後、きらめく光の雫が――彼らの上へと優しく降り注ぐ。

 すると、光に触れた瞬間――みるみるうちに傷口が塞がった。


「おお…」


 周囲から、感動の声が漏れた。


「聖女様、ありがとうございます…!」


 傷が癒えた騎士たちは感謝を述べ、イレーネに深々と頭を下げた。


「た、大変です!」


 その時、

 一人の騎士が慌てた様子で、テントの中に駆け込んできた。


「別方向からアンデッドが出現したとの情報が!

数は…十数体ほどのことですが、正確な数は不明です!」


「なんと!」


 伝令の言葉に、初老の神官が思わず声を上げた。


 主力の騎士と魔道士は前線に出ているため、ここにいるのは神官と負傷者ばかりだ。


「前線にも伝令を向かわせているのですが、間に合うかどうか…」


「わたくしが向かいますわ」


 イレーネが、迷いのない声で言った。


「聖女様が…ですか?」


 初老の神官は驚き、目を見開いた。


「ええ。前線と別方向から魔物が出現したのなら、別の【門扉(ゲート)】が開いた可能性がありますわ。それなら、わたくしが行って確認したほうがよろしいでしょう」


「確かに…。しかし聖女様、大丈夫ですか? 先ほどの治療でかなり力を消耗しているのでは…?」


 初老の神官の気遣わしげな言葉に、イレーネはすぐに首を振った。


「大丈夫ですわ。前線に立って戦っておられる方々に比べたら、これぐらいどうということはありませんもの」


 イレーネは疲れを押し隠すように、額を拭い――気丈に振る舞う素振りを見せる。


 だが、力を使っているのは彼女ではない。

 実際に負傷者を癒やしているのは、アマリエだ。


 多くの人の傷を一度に治す高度な治癒魔法は、聖女の力とアマリエが生まれつき備わった光属性の魔法によるものだ。

 広範囲の魔法を使うと、それだけ魔力は大きく消費されることになる。

 

 それでもイレーネはアマリエを心配するどころか、さらに力の酷使をさせる気でいた。


「アマリエ。行きますよ」


「…はい」


 まったく、気遣う素振りを見せないイレーネの後を、アマリエはふらついた足取りで静かに追った。


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