7話 因縁
その翌日。
アマリエはエイガーとともにギルドを訪れていた。
「なんだか……混み合っていますね」
入り口付近で足を止める。
掲示板の前に、黒山の人だかりができていた。
「普段は違うのか?」
エイガーが静かに問う。
「この時間帯にこの数は珍しいです。依頼は早朝に更新されますから」
それを避け、わざわざ正午に訪れてきたというのに――。
「……あれのせいか」
人垣の向こうを見据え、エイガーが呟く。
周囲より頭一つ分背の高い彼には、依頼書の一部が見えていた。
「金色の…Sの頭文字が押されている」
「それ、S級の――」
言い終えるより早く、エイガーは頷いた。
「形式は昔と変わらないようだな」
冒険者ランクと同様に、依頼書にもランクが記されている。
通い始めてまだ日は浅いが、最高ランクの依頼書が貼られたことなど一度もなかった。
「……だから、こんなに人が集まっているんですね」
「そういうことだ」
納得し、二人は人波を抜けて奥へ進む。
「――あちらで待っていますね」
アマリエは休憩スペースを示す。
「ああ」
短く応じ、エイガーは窓口の最後尾に並ぶ。
◇ ◇ ◇
「――S級の依頼なんて何年振りだ?」
「そもそも、ここに回ってきたことがあったか?」
「主要都市ならともかく、ここは辺境だぞ」
雑談に耳を傾けながら、アマリエは空いている席に腰を下ろした。
「なら、なんで今さらS級が舞い込むんだ」
「ここ数年、S級冒険者が増えたからじゃないか?」
「ああ、なるほど。確か……『陽気な旅団』には二人。あとは『黒曜連盟』に――」
名を口にした瞬間、その冒険者の肩に腕が回された。
「――我々の話か?」
「ひっ…!」
低く囁かれ、顔色がさっと変わる。
「黒曜連盟には、“S級は一人しかいない”とでも言いたいのか?」
さらに低い声に、冒険者は青褪めた。
「い、いや……そんなことは」
ぎこちなく首を横に振る。
「総合的には、俺たちの方が“断然”上ですよ、グランさん」
取り巻きが口を挟んだ。
「こんな連中、相手にする価値もないです」
「……それもそうだな」
鼻を鳴らし、グランは腕を離した。
冒険者が安堵の息をつく。
不意に、その視線が様子を見ていたアマリエへ向けられた。
「――お前、陽気な旅団の者だな」
高圧的な声音に、アマリエはわずかに眉を寄せる。
「……そうですが、何か?」
「我々のギルドに来ないか」
その一言に、周囲がざわめく。
『勧誘』――だが、選択肢を与える響きではない。
先ほどのやり取りを見ても、関わらない方がいい相手だと分かる。
それに――。
「私は『陽気な旅団』の一員です。辞めるつもりはありません」
はっきりした声で、きっぱりと告げた。
――曖昧な返答は、もうしない。
かつてヴォルグの誘いをうまく断れなかった時に、そう決めたのだ。
途端に、グランの片眉が吊り上がる。
「生意気な……」
犬歯を覗かせる様は、威嚇する狂犬のようだ。
空気が一気に張り詰める。
「失礼します」
それ以上応じる必要はない。
アマリエは立ち上がり、一礼して背を向けた。
「待て」
すぐに背後から制止が飛ぶ。
「……まだ何か?」
「犯罪者を出した同盟によく居られるな」
その一言に、アマリエは押し黙る。
――それが誰を指すか、すぐに分かった。
「どうせ、ろくでなしの集まりだろう?」
「っ…お言葉ですが――」
反射的に言い返そうとする。
「断られたのだから、引き下がるべきだ」
その時、静かな声が割って入った。
エイガーが、いつの間にかアマリエの前に立っている。
――誰も、その接近に気づかなかった。
(いつ…)
グランが思わず一歩退く。
「未練がましい。みっともないな」
「っ! 貴様!」
怒気が爆ぜる。
「グランさん!」
胸倉に掴みかかりそうな勢いを、仲間が慌てて押さえた。
「やめてください! 私闘は禁止ですよ!」
冒険者同士の私闘は禁止されている。
破れば十日間の依頼停止。しかも同盟全体への罰則となる。
――まして今は、S級依頼が提示されている。
「あの依頼を奴らに譲る気ですか!」
その言葉に、グランの動きが止まる。
「……ちっ!」
忌々しげに、エイガーを睨みつけた。
「――あれあれ、やめちゃうんだ?」
そのとき、場違いなほど気の抜けた声が割り込んだ。
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