4話 歓迎会
「バッカスさんの手書きの地図で、自力でたどり着けるわけねぇだろ!俺は千ミラルド賭けるぜ!」
「いやいや、万が一ってこともある。俺は千五百ミラルドだ!」
「万が一もねぇよ!お前らの中で、あの地図で自力にたどり着けた猛者がいるか?」
「…た、確かに」
中庭には、むさ苦しい男たちの声が響き渡っていた。
丸テーブルごとに分かれているものの、腰を浮かせ、硬貨の入った皮袋を掲げて叫び合う姿は、もはや一つの塊だ。
一方で賭けに興味のない者たちは、長テーブルに並んだ料理を取り分け、立食形式の宴を楽しんでいる。
アマリエは思わず、バッカスとリゼッタの方を見た。
バッカスが握った拳をプルプルと震わせている。
そして――
「俺を賭けの対象にするな!」
拳を振り上げながら、むさ苦しい連中に向かって突進していった。
一方、リゼッタ。
彼女は無言で、近くにあったY字型の投擲装置を手に取ると、淀みない動きで小石を弾いた。
パチン。
小石は、一人が掲げていた皮袋を正確に貫いた。
チャリン、チャリン、と軽い音を立てて、床に散らばる硬貨。
「ああっ!?」
情けない悲鳴が上がり、次いで静寂が落ちる。
飛んできた方向を辿った男たちは、リゼッタの姿を認めると、何も言わずに椅子に腰を下ろした。
悲鳴をあげた男も、遅れて同じように従う。
「貴様ら…」
今度は、リゼッタの拳が震えた。
「あっ、マリエさん! いらっしゃい」
場の空気にそぐわない、のほほんとした声が割って入る。
エプロン姿のミハエルが、チキンの丸焼きの大皿を抱えて立っていた。
「ミハエルさん」
その姿に、アマリエはほっとして笑顔を浮かべた。
「姉さん。今日はマリエさんの歓迎会なんだから、そんなに殺気立たないでよ」
軽く窘められ、リゼッタは鼻を鳴らした。
「貴様ら…あとで覚えてろよ」
そう吐き捨てて、空いた席に腰を下ろす。
その間に、ミハエルは料理を置き、アマリエの前に来た。
「騒がしくてごめんね。最初は、君がちゃんとたどり着けるか、心配してたんだ」
苦笑するミハエルに、アマリエは首を振る。
「いえ、皆さんを待たせてなくって、よかったです」
「おーい! お前ら、注目しろ!」
いつの間にか戻ってきたバッカスが、パンッ!と手を叩くと、場の視線が一斉に集まる。そしてアマリエの肩に手をかけた。
「こいつが新メンバーのマリエだ。ミハエルを救ってくれた、俺たちの恩人でもある」
無数の視線が、アマリエに突き刺さる。
「あの…は、はじめまして。マリエです。よろしくお願いします」
緊張で強張りながら、深々と頭を下げる。
一瞬、男たちは言葉を失った。
しかし次の瞬間――
「うおおっ! 女の子だ!!」
歓喜が上がり、アマリエは思わずバッカスの背に隠れた。
「悪いな。うちは女がリゼッタしかいなくてな……」
バッカスは続ける。
「性格があれだろう…だから」
「それ以上言うと、姉さん本気でキレるよ」
ミハエルの忠告に、バッカスは口を噤む。
「マリエちゃん!こっちで一緒に飲もうぜ!」
「お前、初対面で馴れ馴れすぎるぞ!!」
「そうだ!そんなんだから女の子の加入者がいなくなるんだぞ!!」
やんややんや言い争いを始める男たち。
「マリエ」
リゼッタが静かに声をかける。
「私の横が空いてる」
アマリエは弾かれたように、その隣の席に腰を下ろした。
「女に浮かれて騒ぐどうしょうもない連中だが…害はない」
「そ、そうですか」
「群れないと調子に乗れないだけだ」
淡々とした一言が、何人かの胸に刺さったらしく、場は急に静かになる。
アマリエはどう言葉を返せばわからず、乾いた笑いをした。
この場にいるのは、『陽気な旅団』でも古参のメンバーばかりだ。
同盟の名に惹かれて集まる者は多いが、信頼で繋がっている者は少ない。
最近では仲間を毒殺しようとしたメンバーが出たことで、同盟、ひいては団長であるバッカスに不信感を持ち、脱退する者が多く出た。
それでもここに残ったのは、バッカスを信じ続ける者たちだった。
だからこそ、この歓迎会は、アマリエのためであり、彼ら自身のための宴でもあった。
◇ ◇ ◇
気づけば日が沈み、酒に潰れた者たちがそこかしこで眠りこけている。
「うるさくてごめんね」
ミハエルの言葉に、アマリエに笑顔で応えた。
「いえ。こういった集まりに参加したことがなかったので、今日はとても楽しかったです」
「それなら、よかった」
「マリエ。困ったことがあれば、迷わず私に言え」
「ありがとうございます、リゼッタさん」
「俺がいるんだから、安心しろ!」
バッカスの言葉に、リゼッタが鋭い視線を向けた。
「よし、そろそろ叩き起こすか」
「ギルマス」
中から顔を出したヤスが、腰を上げたバッカスに声をかける。
「――加入者が来てます」
一同は、顔を見合わせた。
応援よろしくお願いします!
気に入って頂けたらブックマーク、評価してくださると執筆の励みになります。




