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18話 加護


 二人の間で、燃え盛る家屋の柱が軋みながら崩れ落ちた。


 アレンは後方へ飛び退きざま、懐から針ような飛び道具を抜き、連続して投げ放つ。


「っ!」


 ヴォルグの反応は、わずかに遅れた。

だが――次の瞬間、地面から噴き上がった青い炎が壁となって彼の前に立ち塞がる。


 “ジュッ、ジュッ”


 短い音を立て、飛び道具は触れた瞬間に溶け、跡形もなく消え失せた。


 ヴォルグを囲うように揺らめく青炎に、アレンは思わず目を見張く。


「…精霊の加護、か」

 

 遠距離攻撃が防がれることは、想定していた。

 だが、防壁を張る動作すらなかった。


 ――ヴォルグへ届く前に、焼き消える。


 手持ちの武器は無限ではない。


 無駄撃ちは、愚策だ。


 それでもアレンの黒い瞳は、劣勢にも関わらず、歓喜で輝いた。


「………素晴らしい力だ」


 呟くように言った瞬間、青い炎が引き波のように地面へと収束する。


「…だが」


 アレンは距離を取り、観察するようにヴォルグを見据えた。


「貴方が“獲物を捉えた瞬間”にあの炎が発動した。

 ――そう見えましたが?」


 ヴォルグは答えない。

 代わりに、前方へ手をかざした。


 燃え盛る家屋の炎が意思を持ったかのように、引き寄せられ、蛇のようにアレンへ襲いかかった。


 アレンは即座に、さらに後方に跳躍。

 距離が開いた瞬間、炎は勢いを失い、鼻先で止まった。


 ――届かない。

 

 ただ苛立ったように揺らめくだけだ。


(なるほど……この距離感か)


 制限がある。

それを維持すれば、攻撃は届かない。


「なら……試すしかないですね」


 アレンは再び、同じ飛び道具を投げた。

 一直線にヴォルグへ――


 そして、最後の一投。


 それはヴォルグではなく、彼の横――半壊した家屋へ向かった。

 炭化した柱に埋まるように、深く突き刺さる。


 小さな衝撃。

 だが、十分すぎる力だった。


「!?」

 

 家屋が崩れ落ちる。

 雪崩込むように迫る瓦礫に、ヴォルグの視線が反射的に逸れた。


 ――その瞬間。


 青炎の力が、明確に弱まる。


 アレンは駆け出した。

 正面から、一気に間合いを詰める。


 気づいたヴォルグが視線を戻した時、

アレンは留めピンを外し、マントを前方へと翻した。

 

 ――燃え上がる黒布が盾となり、ヴォルグの視界を遮る。


 炎の壁を突き抜け、アレンは背後の短剣に手をかけた。

 ヴォルグも剣を抜こうとする――だが、間に合わない。

 アレンは、燃えるマントを投げ捨て、短剣を逆手に構えた。


 ――視線が交わる。


(勝った)


 そう確信した、刹那。


「なに……!?」


 ――刃が、柄元から二つに折れた。


 弾けた刃が頬を裂き、焼けるような痛みが走る。


「馬鹿な……!」


 アレンの視界に映ったのは――黄金色の魔法陣。

 

 ヴォルグも見知らぬ、色。


『…いいところを、すべて持っていかれたな』


 声が、興ざめしたように響く。


 動揺したアレンは、反射的に後退した。

 

 ――踏み込んだ先。


「!」

 

 そこにあったのは、先ほど仕掛けていた【無垢な茨(イノセント・ソーン)】。

不完全なまま残っていた白い蔦が、足首に絡みつく。


「ちっ」


 侵蝕付与魔法の効果による魔力の毒が、瞬時に巡り、力が抜ける。

 アレンは膝をつき、首を垂れた。


「ヴォ……ルグ…さ…ま」


 そう言い残し、地面に崩れ落ちる。 


「…やはり、剣は苦手だ」


 ヴォルグは息を吐き、剣を鞘に戻した。




『ヴォルグ。――今すぐ“あの女”のもとへ戻れ』


「…?」


『目的が、お前だけとは限らない』


「…っ!」


 理解するよりも早く、ヴォルグは踵を返し、来た道を全力で駆け出した。


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