14話 思いやり
「…マリエさん!」
「…っ!?」
肩を揺すられて、アマリエははっと目を覚ました。
いつの間にか、椅子に座ったまま―うたた寝をしていたらしい。
「ど、どうしましたか?」
ヴォルグの表情を見た瞬間、眠気は一気に吹き飛んだ。
そこには、これまで一度も見たことのない緊迫した色があった。
「……どうやら、追手が火を放ったようです」
「…!?」
思わず息を飲む。
反射的にヴォルグ越しに窓の外を見たが、炎は見えない。
「え…でも…」
言いかけたアマリエの言葉を、ヴォルグが遮る。
「精霊がそう告げています。……ここから、さらに北――旧市街の外れで火の気配が強まっていると」
アマリエは、戸惑った。
「…僕は、そちらに向かいます」
「………え?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「追手は…今も、まだ留まっているはずです」
「でも…火は、こちらに迫って来てるんですよね?だったら反対側に逃げた方が――」
口にしながら アマリエ自身も違和感を覚えていた。
――旧市街に追い込んでおきながら、今度は外れに火を放つ?
火から逃れるには、市街地に戻るしかない。
――なのに…。
「追手は…僕のことを、よく知っている人物のようです。そして――」
ヴォルグは、低く続けた。
「僕も、もう一度……彼に会わなければならない」
アマリエは、反射的に口を開きかけた。
……。
――どうして?
――そんな必要があるの?
けれど、その言葉は声にならなかった。
ヴォルグの目が、あまりにも真剣だったから…。
「彼は、僕と会うために……彼なりに再会の舞台を用意したつもりなのでしょう。誰にも邪魔されたくない――そういうやり方は、彼らしい」
その口調には、確信があった。
旧市街地は木造家屋が多い。
雨がまったく降っていない今、火が回れば早い。
――それなら、一緒に市街へ逃げればいい。
そう思うのに。
(……殺されるかもしれないのに。それでも、行くの?)
「マリエさんは、住民に声を掛けてください。旧市街から、できるだけ人を遠ざけるんです」
「…!」
「逃げる、という選択肢は僕にはありません」
「それなら、せめて私も――」
ヴォルグは、静かに首を横に振った。
「…正直に言います。マリエさんは、足手まといになります」
その言葉は、鋭く胸を突いた。
回復魔法しか使えない自分は、確かに彼の足枷にしかならない。
そして――
その真剣なその眼差しは、これ以上どんな言葉をかけても揺らがないだろう。
「……わかりました」
アマリエは強く拳を握りしめ、俯く。
「………」
ヴォルグは咄嗟に、アマリエに手を伸ばした。
だが、すぐにその手を下ろす。
「…火が広がれば、警邏隊が来ます。――ですから、僕のことは心配しないでください」
それだけ言って、ヴォルグは身を翻した。
「…待ってください!」
反射的に、その腕を掴む。
振り返ったヴォルグの胸元に、アマリエはそっと手を添えた。
(――我が身に宿る、大いなる神の祝福を。汝に、分け与えん)
無詠唱の祝詞。
目に見える変化は、何もない。
不思議そうに見つめるヴォルグに、アマリエは静かに手を離しながら、穏やかに見送った。
「……いってらっしゃい」
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