11話 追跡者の末路
数拍置いて――二人に続き、複数の影が路地裏に足を踏み入れてきた。
その瞬間、足元に白い魔法陣が展開する。
「!?」
スルリと――音もなく。
白い蔦が伸び、追跡者の足に絡みついた。
「チッ」
舌打ちと同時に、最後尾にいた追跡者が地面を蹴った。
白い蔦が足に絡みつくより早く、壁へと三角跳びし、その場を抜ける。
「あれほど言っただろうが…馬鹿ども」
追跡者の一人が、足に絡む白い蔦に短剣を振るった。
だが、刃が手応えなく、すり抜ける。
「切れ…ねぇ」
もう一度力を込めようとして、腕が言うことを聞かなくなった。
『何だ……これは…』
そう言おうとして、声が出せない。
呂律が回らないのだ。
――おかしい
聞いていた話と、違う。
――捕獲用の魔法だと、聞いていたのに。
【無垢な茨】
それは獲物を傷つけず、動きを止めるための魔法だ。
狩猟や害獣駆除で用いられる、ごく一般的な生活魔法の一つ。
白い蔦が絡みつき、獲物の逃げる術を奪うだけ。
痛みも、致命傷にもならない――本来なら。
「ああ、言い忘れていたが―その茨の棘には、『侵蝕系の付与魔法』が仕込んである」
「なっ……」
追跡者は、愕然とした。
「貴様らは知らんだろうが、殿下は魔法をアレンジできる。…それも」
顔を青くする追跡者に、男は淡々と続けてこう言った。
「――殺傷性を高めたやつを、な」
男は追跡者から興味をなくしたように、身を翻した。
「おい、アレ、ン!」
地面を這いながら追跡者たちが、必死に呼び止めようとした。
男―アレンは背を向けたまま、フンと鼻を鳴らす。
「貴様らは完全に足手まといだ。それに――」
アレンは顔だけを向けて、こう吐き捨てた。
「護衛の始末の時点で、貴様らはもう“用済み”だ」
アレンはそのまま、二人の後を追う。
「…流石は、ヴォルグ様」
アレンの口角が自然と吊り上がった。
◇ ◇ ◇
(…一人、逃したか)
『無垢な茨』が絡め取った数と、『探索』をかけて尚も残る気配。
差分が、確かに一つ。
(想定内……しかし)
逃げ方が、あまりにも的確だった。
罠の性質を理解し、掛かった仲間を躊躇なく切り捨てる判断。
――胸の奥に、嫌な感触が広がる。
(……この動き)
護衛を排除した直後。
市民が側にいる、この瞬間を狙って仕掛けてきた。
ヴォルグは走りながら、ちらりとアマリエを見る。
(……やはり、巻き込みを前提にしているな)
相手は自分が市民を優先することを、知っている。
いや、知っている者でなければ――この手は打てない。
(最大の隙を、正確に突いてきた)
標的は自分だ。
しかし同時に、アマリエも標的になった。
「この先、旧市街、です!」
アマリエは息を切らしながら伝える。
(旧市街…つまり街長の管轄外…か)
誘い込まれた。
しかも、市民を巻き込む形で。
その事実に気づいた瞬間、ヴォルグの足がわずかに鈍った。
(もう…引き返せないか…)
分かっている。
ここまで来て、退路など残されていないのだ。
(……なら、せめて)
――彼女が逃げ切るまでの足止めくらいには。
そう思い、ヴォルグが足を止めようとする。
そんな彼の手を、アマリエは取った。
「走って!!」
ヴォルグを叱咤し、アマリエはそのまま引っ張る形で、軋む木の橋を渡った。
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