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3話 姉妹

 

 ――アマリエとイレーネの姉妹は、裕福な商家に生まれた。


 この国では、王と共に建国に携わった魔道士たちが、貴族の身分を与えられている。


 魔力を持つ者の多くは、貴族の血を引く。

 

 そのため、庶民の家に生まれながら魔法の才を持っていたイレーネは、極めて稀な存在だった。

 

 その価値を理解していた両親は、イレーネを『蝶よ、花よ』と甘やかせて育てた。


 生まれつきの性分か、あるいは偏った愛情の影響なのか。

 イレーネは、少しでも気に入らないことがあると、すぐ癇癪を起こす子供だった。

 

 両親はそれを咎めることはなく、むしろ避ける行動を取った。


 ――欲しいものは与え、望むことを叶える。


 そうしてイレーネ中心の家庭が、当たり前のように形作られていった。 


 やがて、同じく魔法の才覚を持つアマリエが生まれても、その関係は揺らがなかった。


 むしろ両親が妹を気にかけると、イレーネの癇癪(かんしゃく)は激しさを増した。

 その結果、両親は次第にアマリエを後回しにするようになった。


 ――幼いアマリエにも、やがてそれを理解できるようになった。

 

 姉を刺激しないように。

 家の中の空気を乱さないように。


 そうしてアマリエは、幼いながらに“気を遣う”ことを覚えていった。


 だが、アマリエが十二の時、すべてを変える“出来事”が起こる。

 

 ――彼女が、聖女の片鱗を示したのだ。 


 その力を目の当たりにした両親は、まるで手のひらを返したように、今度はアマリエに注目し始めた。

 

 それは十五歳になっていたイレーネにとって、到底受け入れるものではなかった。

 

 自分だけが特別であるはずだった。

 両親の愛も、他人の視線も、すべて自分のものだったはずなのに。

 

 イレーネは以前にも増して癇癪を起こし、「自分にも同じ力を寄こせ」と訴えるようになった。

 だがそれだけは、両親にもどうすることもできなかった。

 それでも、イレーネの望みを叶えようと、両親はやがて一つの強行策を選ぶ。

 

 それは――

 聖女候補として神殿に迎え入れられた“イレーネ”に、アマリエを“影として”仕えさせる選択だった。


 アマリエは両親の言いつけに従い、表に立つ姉を“影”として支える存在になった。


 そして――

 イレーネは聖女継承の儀を迎え、『聖女』として世に立つ。

 

 イレーネとアマリエ。

 

 二人の姉妹は、こうして世間を(あざむ)く道を歩み始めた。


 ――その真実が露見すれば、

 両親もろとも、姉妹は極刑に処させる。



「…わかっているわ、イレーネお姉様。――この秘密は墓まで持っていくから」


 苦渋の表情でそう告げたアマリエを見て、イレーネは満足げに――微笑んだ。



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