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5話 思わぬ来訪者


「店主さん!お弁当ありがとうございました!」 


 宿屋に戻ったアマリエは、鶏の腹を裂いてる店主に笑顔で声をかけた。

 血のついた包丁を手にした丸坊主の男は、強面の顔でギロリと睨み返してくる。

 その迫力に、近くでポッシュドの皮剥きをしていた下働きの男が、顔を青ざめさせて固まった。 


 店主の顔に慣れているアマリエは、気にした様子もなく明るく笑いかける。


「とても美味しかったです!」


「そうかい!そりゃー良かった!」


 アマリエの誉め言葉に、店主はまんざらでもない顔でガハハッ、と豪快に笑った。


「しっかし、5人前はあったはずなのに…あんた、本当によく食べる子だね」


 バスケットを受け取った女将は、中身が空なのを確認して、感心したように呟いた。


「えっと…し、知り合いと会いまして…その…一緒に食べました」


 アマリエは少し気恥ずかしくなり、ぼそぼそと答える。


「ふーん」


 女将はニヤニヤと含み笑いをした。


「な、なんですか?」


 にやける女将に、アマリエは何故か居たたまれない気持ちになった。


「こんにちはー!」


 その時、食堂の方から声が聞こえてきた。




「ちょいと、あんた。ギルドの人があんたに用だってさ」

 

 客の対応から戻るなり、女将がアマリエに声をかける。


「…え?わ、わかりました」


 一瞬、胸が跳ねたが、アマリエは平静を装って頷いた。



   ◇ ◇ ◇



「――マリエさん、お久しぶりですね」


 そこにいたのは、冒険者ギルドで世話になった鑑定士だった。


「…こ、こんにちは。……お久しぶりですね」


 声が、わずかに上ずる。


(やっぱり、鑑定の件かしら…? それとも何か別の理由が――)


「――ということなんです」


「………え?」 


 アマリエは、すぐに返事が出来なかった。


 鑑定士はその沈黙を、戸惑いだと受け取ったようだった。


「突然このような話をして、驚かせてしまいましたね。…すみません」


「いえ。…突然のお話で、頭が真っ白になってしまって…」


 まったく聞いていなかったとは今更言えず、鑑定士の言葉を貸りてそう返した。


「そうですよね。…無理もありません。突然、この国の王太子殿下の名前が挙がれば、驚かれて当然です」


「…王太子…」


 アマリエは、思わずその言葉を反芻した。


「ええ。その王太子殿下が、今回の鑑定結果について、ぜひ一度お話をしたいと仰っていまして」


「……私が、ですか」


 ようやく、理解が追いついた。


「ええ。それでお手数ですが、後日またギルドに来ていただけないかと」


「………」


「ちょいと、あんた」


 アマリエが黙り込むと、すかさず女将が間に入った。

 

 アマリエは女将に事情を説明する。

 ただし、王太子ではなく“王都の研究者”だと曖昧に濁して。

 

 鑑定士は口を挟まなかった。

 殿下が来られるの『お忍び』だ。

 彼女にとって、その説明は実に都合が良かった。


「――…と言うわけなんです」


「なるほどね」


 女将はアマリエの様子を見て、渋い顔をさせながら鑑定士に向き変える。


「あんた、悪いけど、この子は最近まで体調を崩していてね」


 カイエンの件で、アマリエは最近まで療養していた。

 病み上がりであること。

 そして何よりも本人が気乗りしてない様子を見て、女将が待ったをかけたのだ。


「そこをなんとかお願いします」


 鑑定士は深く頭を下げたまま、しばらく動かなかった。

 その沈黙が、アマリエの胸に重くのしかかった。


 ――これは、無理強いではない。


 逃げ道も、断る余地も残している。


 それでも無言で頭を下げ続ける――彼女の真摯な姿勢を無下にできるわけもなく…。


「……わかりました」




   ◇ ◇ ◇




 鑑定士が店から出るのを見届けた後、女将は呆れたようにため息をついた。



「まったく、あんたは人が良すぎるよ」


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