4話 ひと時
(…気まずいわ)
アマリエはネクタリウスと顔を合わせることができず、俯いたままパンを咀嚼する。
一方のネクタリウスは普段と変わらぬ様子でお茶を飲み、立てた片膝の上に乗ったフェイの首元を指先で撫でていた。
「あの…」
「どうした?」
沈黙に耐えきれず、思わず声をかけてしまったものの、何を話すつもりだったのか分からなかった。
――ふと彼が魔族であることを思い出す。
本来なら、人間の街にいるはずのない存在だ。
「…この辺りに、住んでいらっしゃるのですか?」
ネクタリウスは首を振った。
「いや、放浪の旅をしている」
「そう、ですか…」
(なら、もう会えないかもしれないのね…)
食事をして、少し一緒に過ごしただけ。
それなのに、もう会えなくなるかもしれないと思うと、胸の奥がきゅっとした。
「…いつまで、滞在する予定なんですか?」
「…10日程ぐらいか、もっと先になるやもしれん」
「そうですか」
「お前はタルーデで暮らすことにしたのか?」
「え?」
逆に問われて、アマリエは言葉に詰まった。
「…私も、長くは留まるつもりはないです」
「そうか」
そこで会話はピタリと止み、再び沈黙が流れた。
「ネクタリウス様!」
しばらく黙々と食べていると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえた。
声のする方を向くと、ラウルが駆け寄ってくるのが見える。
「貴女は…」
アマリエの姿に、半獣人の少年は戸惑った顔をした。
「ラウルさん、お久しぶりです」
「…ええ」
状況が呑み込めないラウルは、思わずネクタリウスを見た。
「偶然会った」
「そうですか」
納得したラウルは、肩に背負っていた荷物を下ろした。
「ちょうど、お待ちしていたんです」
「え?」
ラウルが訝しげに、アマリエを見る。
「パンはお好きですか?」
アマリエはバスケットから取り出した――紙に包んだパンを差し出す。
「……」
ラウルが再びネクタリウスを見ると、彼は頷く。
「せっかくの厚意だ。頂くといい」
ラウルは、アマリエとネクタリウスの間にぎこちなく座った。
「キュイ!キュイ!」
「わっ!」
いきなり膝の上に乗ってきたフェイに、ラウルは驚いて声を上げる。
「フェイ、ダメよ」
アマリエはすぐに、ラウルからフェイを引き剥がした。
「その子は…?」
「フェイです」
「飼っているんですか?」
「はい。…まぁ、成り行きですけど」
フェイとの出会いを、ラウルに説明する。
「なるほど…」
フェイはラウルが気に入ったようで、アマリエの手から逃れて、ぴょん、とラウルの肩に乗った。
「キュイ!キュイ!」
「……そうか、良い人に巡り会えたんだな」
フェイに絶妙なタイミングで話しかけるラウルに、アマリエは目を瞬いた。
「もしかして…フェイの言葉が分かるんですか?」
「まぁ…」
「すごい!!なんて言ったんですか?」
アマリエは興奮した様子で、ラウルへにじり寄る。
期待の眼差しに耐えきれず、ラウルは思わずそっぽを向く。
「…貴女が、とても優しい人だと…言ってます」
「そ、そうですか」
アマリエはなんだか気恥ずかしくなった。
「僕ではなく、この子が言ったんです! か、勘違いしないでください!」
頬を赤くしたラウルに、アマリエはなんだか微笑ましくなった。
◇ ◇ ◇
「もう、夕方ですね……」
アマリエは夕陽色に染まりつつある空を見て、静かに呟いた。
「そうですね」
ラウルも一緒になって西の空を見上げる。
「ここら辺は夜になると危険だ。そろそろ帰った方がいい」
「…そうですね」
ネクタリウスに促されて、アマリエはいそいそと片付けを始めた。
「…あの」
アマリエはネクタリスに向かって声を掛けた。
「なんだ?」
「また、ここに来たら会えますか?」
「……」
「あ、いえ、何でもありません」
アマリエはバスケットを持って立ち上がった。
「では、失礼します!」
アマリエは一礼すると、そそくさとその場を後にした。
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