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13話 勧誘


 「お、起きたか」


 目を覚ましたアマリエの顔を覗き込み、バッカスが声をかけた。


「ここ…は?」


「タルーデ神殿だ」


 首だけ左右に振って部屋を見回すアマリエに、バッカスは短く答えた。


「私…どうして…」


「魔力の使い過ぎだってよ、お前を診た神官がそう言ってた」


 ――その言葉で、気を失う前の記憶が蘇る。


 アマリエは跳ね起きた。


「フェイ!」


 周りを見回しても、白い毛玉の姿はない。


(治癒が…間に合わなかったの…?)


 一気に血の気が引く。


「ああ、あのイタチなら専門家に診てもらってるぞ」


「本当ですか! 生きてるんですね!」


「お、おう」


「よかった…!」


 安堵した途端、頭がくらりと揺れた。

 思わずこめかみを抑える。


「まだ横になってろよ」


 バッカスはアマリエの身体を支え、そっとベッドに戻した。


「俺の“元”仲間が悪かったな」


 バッカスが、深々と頭を下げる。


「そ、そんな……貴方のせいでは…!」


 アマリエは、反射的に上体を起こす。


「いや、監督不行届ってやつだ。本当にすまない」


「わ、分かりましたから…頭を上げてください」


 ようやく顔を上げたバッカスは、淡々と続けた。


「あいつは牢行きだ。余罪も結構あるらしくてな。…一生、塀の中だろうって話だ」


「そうですか…」


 しばらく沈黙が落ちた。


 “コン、コン”


 ドアを叩く音がして、二人は互いの顔を見やる。


「どうぞ」


 アマリエが答えると、ドアがわずかに開き――白い毛玉が勢いよく飛び込んできた。


「キュイ!」


「フェイ!?」


 アマリエは胸に飛び込んできた小さな体を抱きとめ、思わず目を潤ませた。


 「よかった……!」


 フェイを抱き上げるアマリエに、入ってきた小太りの青年がほっとした顔で笑った。


「よかった。君の目が覚めて…」


「ミハエル」


 バッカスが、その名を呼ぶ。


「もう明日には帰っても大丈夫だって」


「そうか」


「うん。…君のおかげだよ」


 ミハエルはアマリエへ向き直り、深々と頭を下げた。


「応急処置がなかったら…たぶん僕は――本当にありがとう」


「元気になって、よかったです!」


 アマリエは、笑顔で答えた。




   ◇ ◇ ◇   




「――ところでさ。あんた、冒険者なんだよな?」


 バッカスは、アマリエが首に下げている金属のタグを見て言った。


「? そうですけど」


「無所属なら、俺らの同盟に入らないか?」


「同盟?」


 バッカスの話では、大抵の冒険者は同盟に所属し、集団で活動するらしい。


「俺らの同盟『陽気な旅団』は、在籍―ざっと150人。能力や階級も関係なし、誰でも歓迎だ」


「お誘いありがとうございます…でも」


 アマリエは、自分が旅費を稼ぐために冒険者になったこと。

 資金が貯まればこの街を出るつもりであることを、簡単に伝えた。


「そうか。まぁ、それでも構わねぇよ」


 バッカスは、あっけらかんと言い、「な?」と同意を求めるようにミハエルを見る。


「うん。うちは『誓約書』とかないから。来るもの拒まず去るもの追わず、って感じだよ」


「そ、そうなんですか…」


 アマリエは、拍子抜けした。

ギルドでもそうだったが、身構えていた自分が馬鹿みたいだ。


「そうそう。――ただし!」


 バッカスの顔から笑みが消えた。


「仲間を大切にしない奴は、俺は大嫌いだ。裏切るような奴には容赦しない」


 ぞわり、と背筋が粟立(あわだ)つような低い声。 

 アマリエはごくりと喉を鳴らした。


「まぁ、あんたは信用できる。仲間を助けてくれたし――俺の目に狂いはない!」


 バッカスが自信満々に言ってのけた、その時。


「――そうは言うが、貴様があんな、ろくでもない奴を他の同盟から引き抜きさえしなければ。…こんな事態は未然に防げたのだがな」


 吐き捨てるような低い女性の声。


 アマリエがドアを見ると、枠に身体を預けて腕を組む女性が立っていた。

 

 ――息を呑むほどの、美貌。


 歳は20代前半ぐらい。

 艶やかな漆黒の髪を背中に流し、スラリとした長身の女。

 切れ長の翡翠の瞳は冷たく、近寄りがたい。

 首襟の高い黒衣は、胸元までボタンが大きく外れている。

 腰から横に切り込みが入り、艶めかしい生脚が覗いていた。

 非の打ち所がない、絶世の美女だった。


「リエッタ」


 バッカスが、声をかける。


 リエッタは靴音を高く鳴らしながら近づき、アマリエを見下ろした。


「君が、マリエか?」


「そ、そうです」


 突き放したような声に、アマリエは居住まいを正す。


「そうか」


 ジトリ、と冷えた視線が刺さる。


(私…何かやらかしたかしら…?)


 冷や汗が浮かび始めた頃。


「弟を助けてくれて、感謝する」


 リエッタはそう言って、深々と頭を下げた。


「へ…?」


 アマリエが、間抜けな声を出す。


「弟…?」


 アマリエがミハエルを見ると、彼はばつが悪そうにこめかみを掻いた。


「うん。僕の姉なんだ…」


「びっくりするほど似てねぇだろ?」


 バッカスがミハエルの肩に手を回し、茶々を入れた。


「えっ、そ、そんなことは!」


「はは…慣れてるから気を使わないでいいよ」


 ミハエルは苦笑した。


 その瞬間――


「貴様は!」


 リエッタが、バッカスの胸倉を掴み上げた。


「貴様のせいで弟は死にかけたんだぞ!その自覚はあるのか!?」


「姉さん!やめなよ!」


 ミハエルが慌てて後ろから羽交い締めにし、リエッタを引き離す。


「お前もお前だ!バッカスに甘すぎる!!」


「バッカスはちゃんと謝ってくれたよ」


「それは当然だろう!」


「僕はもう許したんだよ、姉さん」


 温厚なミハエルの目が、わずかに見開かれる。

 物言わせぬ迫力に、リエッタは言葉を飲み込んだ。


「…ミハエルが許しても、私は一生許さん」


 リエッタは、静かな怒りをバッカスへ向ける。


「ああ。当然だ」


 バッカスも真摯な目で返した。

 リエッタはフン、と鼻を鳴らしたが、それ以上は何も言わなかった。


「そ、そうだ!姉さん、マリエさんを同盟に入れてもいいよね?」


 ミハエルは、重たく流れる空気を払拭するように明るく言った。


「…ああ、異論はない」


「よかった!」


 胸を撫で下ろす。


「えっと…よろしくお願いします」


 アマリエは、慌てて頭を下げた。


「ああ。こちらこそ、よろしく頼む」


 リエッタが差し出した手を取り、アマリエは握手を交わした。


応援よろしくお願いします!!


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