表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/55

11話 大食い選手権 後編


「――じゅ、15番の選手、速い!もう五皿目に突入だー!!」


「食べ方はとても上品なのに、あのスピード…驚異的ですね…」


 ――予選開始から、三十分が経過していた。


 大盛りのポッシュドフライを前に、多くの選手が苦しげな表情を浮かべている。

 脂にやられた者、胃を押さえて動きが止まる者、なんとか水で流し込もうとする者――

 ステージのあちこちで限界が見え始めていた。

 

 ――そんな中、アマリエだけは違った。


 頬を緩め、料理を味わうように食べ続けている。

 その姿に、観客も、実況席の評論家も、言葉を失っていた。


「お、お味はいかがですか?」


 司会者が思わず、競技と関係ない質問を投げかける。


「――揚げ加減が絶妙ですね。表面はカリッと仕上がっているのに、ポッシュド本来のホクホクした食感は損なわれていません。しかも、油が重すぎないのでどんどん食べられる。素朴(そぼく)さが売りの屋台料理ですが――これは一級料理店に出しても恥ずかしくない。まさに一級品です」


 アマリエは、美しい所作でフォークを運びながら、淀みなく語った。

 まるで名のある美食家のような評価に、会場がざわめく。

 ポッシュドフライを提供した店主は、腕を組んだまま静かに頷いた。

 捲り上げた袖から覗く火傷の跡は、四十五年ものあいだ油の前に立ち続けた男の証だ。

 ――それは努力の証であり、勲章だ。


「…彼は、よくわかってる」


 短く呟いたその声は、確かな満足が滲んでいた。



 『その評価が、今後の店の評判に影響を与える。

――かもしれない』



 こうして予選は、だれも予想していなかった結果で幕を閉じた。

 

 15番――アマリエの圧倒的な勝利である。




   ◇ ◇ ◇




「ミハエル、すごいじゃないか!」


 燃えるような赤い短髪の青年が、ミハエルに声をかけた。

 青い左目に走る大きな縦傷が目を引くが、浮かべる笑顔は――実に人懐こい。


「あ、バッカス」


「予選二位で通過だろ?」


「う、うん」


 褒められて、ミハエルは照れたように俯いた。


「で、カイエンは惜しかったな!」


「………」


 声をかけられた大斧の男は、答えずにそっぽを向くと、そのまま人混みの中へ消えていった。




  ◇ ◇ ◇




「それでは決勝戦を行います!――注目選手は、予選一位だった15番の選手!! その細い見た目に騙されることなかれ!その胃袋は、まさに――ブラックホール!!」


 『わぁー!』と会場が、一斉に沸き立つ。


「……あはは…」


 思いかけず注目を浴び、アマリエは苦笑いを浮かべた。


 目の前にドン、と音を立てて置かれたのは――カバルの串焼きだった。


「それでは――始め!!」


 合図とともに銅鑼(どら)が鳴り響く。


 選手は、一斉に串にかぶりついた。

 筋の多い獣肉を豪快に噛み千切り、次々と皿を空にしていく。

 

 一方、アマリエは肉塊を一本ずつ串から外し、皿に移してからフォークで口に運んでいた。

 嚙む回数は多いが、ペースは落とさない。


 ――序盤から、会場の熱気は最高潮に達していた。

 だが、中盤に差し掛かった――その時だった。


「……う……」


 一人の選手が(うめ)くような声を漏らし、喉を抑えて椅子から崩れ落ちた。

 

 悲鳴が上がり、会場が一気にざわめく。

 選手たちは手を止め、倒れた男に視線を向けた。


「だ、大丈夫ですか?」


 司会者が、青い顔で駆け寄る。


「どうしたんだろうな…」


「喉に詰まらせたんじゃないか?」


 そう囁く声があがる中、アマリエは席を立った。


「!!」


 倒れていたのは、先ほど会ったばかりの小太りの青年―ミハエルだった。

 

 口元には泡が浮かび、唇は紫色に変色している。

 口をわずかに開かせるが、うまく呼吸できていない。


 ――そして、身体は小刻みに痙攣(けいれん)していた。


 アマリエは膝を突き、彼の胸元に手を伸ばす。

 瞬時に、脈と呼吸を確かめ、表情を引き締めた。


「これは…神経毒かもしれないわ」


 ――即効性の毒なら猶予はない。


「医療班を呼べ!!」


 司会者が舞台袖で呆然と立ち尽く係員に向かって、厳しい口調で叫んだ。

 アマリエは迷わず、ミハエルの胸に掌をかざした。



緩毒(ヴェノム・ディレイ)


 淡い光が溢れ、ミハエルの身体を包み込む。

 

 ――すると、痙攣(けいれん)は徐々に収まり、呼吸が落ち着いてきた。

 

 その様子に、駆けつけた医療班が目を丸くした。


「――応急処置です。毒は消せていません。濃度を薄め、毒が回る速度を遅めただけ。すぐに分析して、解毒を!」


「わ、分かりました!」


 アマリエの指示で、医療班は慌ててミハエルを担架に乗せて、神殿へと運び出していった。





「……ちっ、余計なことを」


 観客席の一角、男は苛立ちを隠そうともせず舌打ちをする。

 次の瞬間には、乱暴に身を翻し――人波を割るようにして会場を後にした。


応援よろしくお願いします!!


気に入って頂けたらブックマーク、☆で作品を評価してくださると執筆の励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ