9話 魅惑的な提案
「――首輪って、色んな種類があるのね」
アマリエは、小さな店の棚に並べられた、色とりどりの首輪を眺めながら呟いた。
冒険者ギルドで、ひょんなことから魔獣を引き取ることになったアマリエは、飼うのに必要な【服従の枷】を買いに来ていた。
手続きも必要とのことだったが、親切なギルドの受付嬢がすべてやってくれた。
後日改めて礼をしに行こうと思いつつ、アマリエは目の前に並ぶ首輪選びに専念した。
(なかなか決められないわ…とはいえ、三百ミラルドしかないけど)
アマリエは、一桁多い値段の棚から離れて、「安売り」と書かれたワゴンを物色する。
「フェイ、何色がいい?」
アマリエは、自分の肩に乗ったイタチとよく似た魔獣に話しかけた。
すると名前をつけられた魔獣――フェイが「キュイ?」と不思議そうに首を傾げる。
獣に言葉が通じるわけがないが、アマリエは構わず話しかける。
「私のワンピースとお揃いの色にしようか」
「キュイ!」
色の違いも分かるか疑問であったが、フェイはご機嫌そうに一声鳴いた。
「うん、これにしようね」
アマリエは、青に染色された革製の首輪を選ぶとカウンターに持っていった。
「追加料金で名前を入れることも可能ですよ」
「うっ…ま、またの機会に」
アマリエは、その提案を泣く泣く断り、所持金すべてを叩いて首輪を買った。
「ん?」
宿屋に戻る道すがら、大きな広場前を通りかかると木材を運ぶ職人の姿を見かけた。
広場の入り口には、『入場禁止』と言う看板が立てられ、中に入ることができない。
「何かしらね?」
「キュイ?」
アマリエはフェイと顔を見合わせて、後ろ髪を引かれながら通り過ぎた。
◇ ◇ ◇
「お帰り!」
アマリエが宿屋に戻ると、一階の食堂で女将が待っていた。
「さ、さ、ここに座りな!」
女将に言われるまま、アマリエは引かれた椅子に座った。
ドン!ドン!ドン!
まるで太鼓のような重い音を響かせながら、アマリエの目の前に大盛りの料理が――次々と置かれる。
「女将さん、こ、これは…?」
宝石のように煌めく料理に戸惑いを見せつつ、アマリエは思わず女将を見上げる。
「就職祝いさ!! あたしの奢りだから気兼ねなくお食べ!」
「わー、ありがとうございます!!」
アマリエは、椅子から飛び上がるほど喜んだ。
両手を合わせて「頂きます」をすると、ひとまず大きな唐揚げを小皿に取り分ける。
そして、一口噛んだ瞬間――
薄い衣から濃厚な肉汁が、ジュワ~と溢れ出てきた。
「美味しい!」
幸せな顔をさせながら、アマリエが今にも落っこちそうな頬を抑える。
「そりゃ、よかった。――あんた、ホント美味しそうに食べるね」
「はい!本当に美味しいですから」
その後も、アマリエはテーブルに置かれた熱々のグラタンや衣がサクサクの白身魚のフライ――と、次々に料理を平らげていった。
「姉ちゃん、いい食いっぷりだな!」
「ありがとうございます」
周りの常連客に声をかけられて、アマリエは笑顔で答えた。
「それだけ食えたら、明日開催される大食い選手権でいい結果出せるんじゃないか?」
「ひょっとすると優勝しちまうかもな!」
「…大食い選手権?」
客の言葉に、アマリエは首を傾げる。
「ああ、これだよ」
客はそう言い、アマリエに一枚のチラシを手渡してきた。
――目を通していると、女将が釣られたように覗き込む。
「タルーデ街長主催の大食い選手権…報酬は『羽根兎の肉塊』…1年分!?」
女将が、ご丁寧に内容を読み上げ――驚きの声を上げた。
【羽根兎】は、王族貴族には当たり前に食べられる食材だが、庶民には手が届かない高級食材だ。
とても臆病で警戒心の強い獣であり、空を飛べることから捕獲するのが困難。
部位によって鳥のささみのようだったり、魚の淡白さがあったり、牛肉の肉厚な噛みごたえを味わえたり――あらゆる肉の食感と味が堪能できる『万能肉』といわれていた。
「あんた!」
「はひ!?」
女将が興奮気味に話しかけてきて、アマリエはびっくりして間抜けな声を出した。
「これに出な!」
持っていたチラシを奪い取られ、鼻先近くに突きつけられる。
「えっ…」
女将の気迫に、アマリエは思わず後退った。
「宿に泊まるお金がないって、いつも嘆いているだろう? 優勝して、この報酬をくれたら宿代一年間タダにするよ!」
「ほ、本当ですか!?」
宿代一年間無料。
何という魅力的な響きだろうか。
いざ冒険者となったものの――
戦闘に不向きなアマリエは、ちまちまと薬草を採って、その日の報酬を得ていた。
だが採取依頼の報酬額は、微々たるもの。
――女将の提案は、まさに渡りに船だった。
急に闘志が漲ってきた。
膝の上で、握った拳が震え始める。
――これが『武者震い』というものかもしれない。
「で、出ます!!」
アマリエは勢いよく椅子から立ち上がり、高々に宣言する。
「私、明日の大食い選手権に出場します!!」
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