8話 不穏
「――あれが、そうでしょうか…?」
ラウルは、先を歩くネクタリウスに声をかけた。
ネクタリウスにはまだ何も見えていないが、目の良い半獣人のラウルには、木々の合間に丸太小屋がわずかに見えていた。
今度は、ラウルがネクタリウスを先導する形で、開けた道から――険しい獣道に進路を変える。
青々と茂った枝葉のせいで差し込んでくる陽射しは弱く、視界が悪い。
朝露を含んだ落ち葉で、地面はひどく滑りやすかった。
そんな歩きにくい道を、ラウルはしなやかな身のこなしで難なく――ずんずんと進んでいく。
その一方、長身のネクタリウスは伸びた枝葉に顔面が当たったり、木の根に足を突っかかったり――苦戦を強いられていた。
――そうこうしているうちに、2人は開けた場所に出た。
ラウルが言った通り、そこには丸太小屋があった。
「…っ!」
ラウルが、急にピタリと動きを止めた。
ネクタリウスは、怪訝な顔をする。
「ラウル、どうした?」
「…血臭がします」
ラウルは苦々しい顔をしながら、自身の鼻を袖で覆った。
「…お前はそこにいろ」
小声でそう告げ、ネクタリウスは一人、丸太小屋に近づく。
窓辺近くの壁を背に取ると、身を寄せるようにして警戒しながら室内を覗き込む。
窓ガラス越しから見える室内は暗く、かろうじてテーブルと倒れた椅子が視界に映った。
――そして床に投げ出された足先が見える。
(探知)
――生物の気配はない。
それでも油断は禁物だ。
ネクタリウスは音を立てないように、慎重な足取りで扉の前に移動した。
そして一呼吸してから、扉を開けて室内へと入った。
◇ ◇ ◇
「ラウル」
ネクタリウスに名前を呼ばれ、膝を抱えて木の根に座り込んでいたラウルはのろのろと立ち上がった。
――ラウルの顔色は明らかに良くない。
嗅覚が優れた獣人の血を持っているラウルには、時間が経過した死体の腐敗臭はかなりのダメージを与えるものだった。
「大丈夫か?」
ネクタリスは少し膝を曲げて、ラウルに視線を合わせた。
「…はい。それで中の様子は…」
ラウルが言い終える前に、ネクタリウスは首を横に振った。
「…首を切られていた。おそらく背後から何者かに刃物で斬りつけられたのだろうな。…争った形跡もなかった」
ラウルは、息を呑んだ。
「どうして…殺されたのでしょうか?」
「…口封じかもしれないな」
「!」
「ここに現れたアンデッドの群勢には不審な点が多すぎる。我々の様に疑念を持った者が来ることをあらかじめ見越していた可能性がある。
……どちらにせよ、更に調べる必要があるな」
「そうですね。では、これから……」
ラウルはそこで言葉を切って、耳を澄ませる。
「足音が近づいて来ています」
ラウルは、潜めた声で告げた。
ネクタリウスが、ラウルに目配せする。
二人は頷き合うと、すぐ背後にある木の幹に身を隠した。
ほどなくして二人の村人がやってきて、丸太小屋の中に入っていく。
「一旦、タルーデへ戻るぞ」
「はい」
丸太小屋から背を向けると同時、村人達の悲鳴が森に響き渡った。
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