1話 職探し
狭い室内に“チャリン、チャリン、チャリン”と硬貨の音が虚しく響いた。
テーブルの上に転がった硬貨は、たったの三枚。
(…数えるたびに…硬貨が一枚ずつ増えてくれたら、いいのに…)
そんな現実逃避をしてみても、三百ミラルドしかないことは明白だった。
この額では、小盛のポシュトフライがやっと一個買える程度だ。
(…これからどうしよう…!)
アマリエは、頭を抱え込む。
堕神に手を貸した“協力者”が【エンド・ラグリオン】に深く関係しているかもしれない――その情報を得たのは前進だ。
とはいえ、その『人間入国禁止の国』にどう潜入するのか、という大きな問題があるが、今はひとまず横に置いとくしかない。
目下の最優先事項――
それは、旅費。
(明日には、この宿を出なきゃいけないのに…)
宿屋には、三日分しか払っていない。
延泊しようにも、今の残金ではどうにもならない。
(売れる物なんて、もう手元にないし…明日から野宿…?いやいや…ほんと…どうしよう!)
あーだこーだ考えていると、タイミングよくお腹が盛大に鳴った。
(…とりあえず、何か食べないと頭が回らないわよね)
腹が減っては、よい知恵が出ない。
アマリエはのろのろと立ち上がり、とぼとぼと食堂に向かった。
◇ ◇ ◇
「そりゃ、働くしかないだろうよ。何を悩むことがあるんだい」
女将のあまりにも正論すぎる言葉に、アマリエは反論の余地もなく固まった。
アマリエは十二歳の頃から、聖都セルフィナールの大神殿で暮らしてきた。
閉鎖的な環境で育ったせいで、一般常識には少しばかり疎い。
「仕事をする」とひと言で言われても、世間の当たり前がいまいち分かっていない。
――とはいえ、そうは言っていらない。
誰かに、相談するのは気後れしたものの、
アマリエは思い切って、女将に助けを求めたのだった。
「でも“短期間”で稼ぐんだろう?
ここで働くのはいいけど、あんたのいう額はそう簡単に稼げるもんじゃないよ」
「姉ちゃん美人なんだから、“夜の嬢”でもやりゃ、すぐに稼げるんじゃねぇのか?」
聞き耳を立てていた常連客が、ろくでもないことを提案してきた。
「ちょいと、変なことを教えるんじゃないよ!」
「そうだぜ、おっさん。あれは身売りされた娘がやるもんだ」
女将と店主が、ピシャリと窘める。
アマリエはタルーデに来た初日に、
酔っ払いに娼婦と間違えられたことを思い出し、露骨に顔を顰める。
「じょ、冗談だって!」
常連客は三人の反応に、慌てて両手を振る。
「で、お客さんは特技とかないのかい?」
「特技…ですか?」
アマリエは、きょとんとした顔で店主に聞き返す。
「どうせなら、特技を活かせる仕事のほうがいいだろ」
「それなら…治癒魔法が使えますけど」
アマリエは即答した。
「なら、冒険者ギルドが一番だねぇ。ね? お前さん」
女将が言うと、店主も大きく頷いた。
「治癒魔法を使える冒険者は貴重だからな。
パーティーもすぐ見つかるだろうし、高ランクの依頼をこなせば金なんかすぐ貯まる」
「なるほど! なら、さっそく行ってみます!」
アマリエは、女将から冒険者ギルドの場所を教えてもらい、胸を弾ませながら宿を飛び出した。
応援よろしくお願いします!!
気に入って頂けたらブックマーク、☆で作品を評価してくださると執筆の励みになります。




