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8話 本の妖精

(手がかりといっても、ね…)


 アマリエは分厚い本を閉じ、積み上げた“本の塔”の上にそっと載せた。

 小さくため息をつき、新たな本のページをぱらぱらと(めく)る。


 タルーデの街に着いて、三日。

 

 アマリエは毎日のように図書館へ通い、【堕神】に関連する資料を読み漁っていた。


――冥界にいた堕神を、地上界に手引きした『協力者』について、何か手掛かりがあるのではないかと思ったのだ。


(…でも結局、ほとんど知ってる話ばかりね…)


 そう心の中で呟くと、アマリエは重ねた本を抱え上げ、一冊ずつ本棚に戻していく。


「ほぅ。…災厄の神について調べておられるのですかな?」


 最後の一冊を戻そうとした時、(しゃが)れた声が背後からした。

 

 振り返ると、小柄な老人が静かに立っていた。

 

 長い白髪を後ろで束ね、ハの字を書く白い眉は目を

覆うほど長い。

 

 ――まるで物語に出てくる仙人のようだ。


「はい…気になることがあって」


「ほう…」


 老人は、長い顎髭を梳きながら頷いた。


「でも…知りたいことは、どの本にも書かれてませんでした」


 アマリエが、ため息をつく。


「知りたいこととは?」


「……災厄の神に、深く関わりがあった人物がいたのかどうか、です」


 協力者についてとは言えず、アマリエは言葉を濁す。

 老人は、「ほうほう」と興味深げに相槌を打った。


「貴女は学者さんか何かですかな? 神話学の研究者がここへ来られることは、ときどきありますが」


「え?…あ、ええ…まぁ、そのようなものです」


 老人の話に合わせる。


「この図書館は、数こそ少ないですが…歴史は長いのですよ。“本の妖精が棲む”とも言われていましてね」


「本の妖精…?」


「ええ。『生き字引(じびき)』とも呼ばれ、気まぐれに姿を現しては、求める答えを授けてくれる…と」


 老人の語りは、その風貌も相まって、妙に現実味があった。


「それは! ぜひ、お会いしてみたいです!」


 アマリエは、期待に目をきらきらさせる。


「まぁ、神出鬼没ですからな…」


「そう、ですか…」 


 その一言に、がっかりと肩を落とす。


「あ、館長!」


 そこへ、若い司書官が駆け寄ってきた。


「館長さん?」


 アマリエは、思わず老人を見る。


「おや…ニナさん、何か?」


「この資料を探している方がいるんですが…館長、また勝手に持ち出しました?」


「……たぶん…」


 リストを見せながらニナが問い詰めると、老人は曖昧に頷く。


「もう!借りるなら、ちゃんと用紙に記入してくれないと困りますよ!」


「…す、すみません。すぐ探してみます…」


「まったく! そもそも館長は…―」


 よぼよぼの老人が怒られて、しょんぼりと背を丸めていく姿を見ていると、なんだか不憫に思えてきた。


「…あの。館内では、お静かに」


 見かねてアマリエが声を掛けると、ニナははっとして周囲を見る。


 迷惑そうな視線に気づき、


「と、とにかく気をつけてください!」 


 そう言い残し、去っていった。



「いやはや、助かりました」

 

 老人―館長は、しみじみと頭を下げた。


「いえ…そんな…」


 アマリエは、首を横に振った。


「…助けてくださったお礼に、一つだけ」


「?」


 アマリエは小首を傾げる。


「災厄の神は、“魔女”と深い関わりがあったと、私は聞いたことがあります」


「魔女…?」


「はい。しかし残念ながら、資料はないのです。私も人伝に聞いたことでしてね」


 【魔女】は、魔族の女性に向けて使われる呼称でもある。


(…魔族)


 アマリエは、すぐ一つの場所に行き当たる。


 ロバルンレッド王国から南端に存在する国――


【エンド・ラグリオン】


 “高い魔力を持つ種族”が住み、人間が失った喪失魔法(ロストマジック)が今も息づき、魔法文明の最先端といわれる地だ。

 しかし長きに渡り人間と対立し、現在は実質的な国境を閉ざされている。


「手掛かりになるかも!ありがとうございます!…って、あれ?」


 お礼を言おうとしたアマリエは、老人の姿がないことに気づいた。


「館長さん?」


「……なにか?」


 背後から声がして振り返ると、館長が不思議そうに立っていた。


「え?」


 アマリエは面食らった。


「…い、今…私と話してましたよね?」


 思わず、老人がさっきまでいた場所を何度も見返す。


「…はて。貴女とは、今しがたお会いしたばかりのはずですが…」


「へ?」


 思わず、間抜けた声が出た。



 ――沈黙。


 ふと、アマリエの脳裏にある言葉が閃く。


「…あっ! もしかして…」







『ふふ…楽しく(・・・)なりそうね』


 本棚の上。

 脚をぷらりと揺らしながら座る“本の妖精”は、まるで新しい遊び場を見つけた子どものように――愉快そうに笑った。


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