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1話 夜の街

 アマリエが辿り着いたのは、タルーデという街だった。


 夜の帳がすっかり下りているというのに、どの店もまだ明かりを灯し、

 大きな通りは、所狭しと露店が立ち並び、祭りさながらの賑わいが広がっていた。


「揚げたてのポシュトフライはいかがですかぁー!」


「お客さん、カバルの串焼きはどうだい!」


 隣の店に負けじと、店員たちが声を張り上げて、通行人の気を引こうとしている。

 酔い潰れた通行人が、路肩に寝転んでいる姿もちらほらと見られた。


 アマリエが知る聖都と王都の街では、店の営業時間も酒の規制も厳格に定められていた。

 だから夜更けになってもなお、まだ灯りが消えぬこの街の光景は、新鮮だった。


 最初こそ驚いたものの、次第に胸の奥に妙な高揚感が湧いてくる。

 それはまるで、親に内緒で初めて夜の街に繰り出した子供のような気分だった。

 

 だが別の通りに一歩足を踏み入れた途端、その浮き立つ気持ちは一気に、冷めた。

 通り過ぎると自分に向けられる、まるで品定めするかのような視線。


 深夜ともなれば、アマリエのような若い女性の姿はほとんど見当たらない。

 見かけるのは、派手で露出の高い衣装を纏った客引きの女ばかりだ。

 そんな彼女たちとは対照的に、アマリエの装いは神殿で支給された飾りっ気のない白いローブ。

 それでも人々の目を引くのは、若い女性の神官であるだけではない。

 

 ――アマリエは、この大陸で珍しい銀色の髪をしている。

 

 おまけにイレーネに劣らず容姿も整っており、故郷では“美人姉妹”と知られるほどだ。

 春の湖面のように澄んだ青い瞳に、わずかに下がった目尻。

 薄紅の小さめな薄い唇は、控えめながらも上品な印象を与える。

 だが自分の容姿を武器にしていた姉と違い、アマリエ自身はその美貌に無頓着だった。

 だからこそ、通りすがりの男たちの不躾な視線がただただ不快でならなかった。


(まぁ、聖職者がこんな時間に出歩いているんだもの。…物珍しく見えても仕方がないわよね)


 そう思うことにし、アマリエは深く考えることをやめた。

 

 それよりも、これからどうするかを考えることにした。


(とにかく、宿屋を見つけて……)


「よう、聖職者の姉ちゃん!」


 宿屋を探し始めたアマリエに、馴れ馴れしい野太い声が飛んできた。

 

 振り向くと、黄ばんだ半袖のシャツに、オーバーオール姿の大男が立っていた。

 まだ初春で肌寒いというのに、薄いシャツ越しでもわかるほどの厚い胸板。

 さらに丸太のように盛り上がった二の腕を見せつけるように、腕まくりをしていた。


 一言で表すなら筋肉隆々――“筋肉の壁”。


 しかも、すでに酔いが回っているのか、その顔は真っ赤に染まっていた。


「…なんでしようか?」


 アマリエは警戒を隠さずに、酔っ払いの男を見上げた。


「あんたはいくらだ?」


「…は?」


 突然の不躾(ぶしつけ)な問いかけに、アマリエの思考は一瞬止まった。


「聖職者の格好とか、そそられるよな、そういう嗜好(しこう)の店なんだろう?」


 酔っ払いの男はいやらしい笑みを浮かべ、舐め回すような視線で――アマリエを上から下まで眺めた。


「…いいえ。私は本当の聖職者です。

そういうお相手をお探しであれば、他所をあたってください」


 アマリエはきっぱりと断り、男の脇をすり抜けようとした。

 だが酔っ払い男は、素早い動きで彼女の前に回り込み、さらに卑猥(ひわい)な笑みを深めた。


「そういうつれない態度も、いいねぇ~」


「ですから、違いますって…!」


 顔をぐいぐいと近づけてくる男から逃れようと、アマリエは後退(あとずさ)った。

 素っ気ない態度に、男はさらに鼻息を荒くさせる。

 鼻を突くような酒の臭いに、アマリエは思わず眉をひそめた。


「まぁ、ホントの聖職者でも構わねぇぜ。こういう所に来るってことは…その気があんだろう?」


 男はそう言いながら、アマリエの手首を乱暴に掴んだ。


「っ!やめてください!」


 痛みを感じ、アマリエは声を上げた。

 だが男は、力を緩めない。

 周囲の通行人はちらりと一瞥するものの、この手の揉め事は日常茶飯時なのだろう。

 誰一人として、止めに入ろうとしなかった。


「いーから、来いって!」


 男は苛立ったように声を荒げて、アマリエの腕を引きずる。

 自分の力で、相手をねじ伏せることしか知らない――

その横暴な仕草が、ふいに姉と重なった。


「……」


 アマリエは無言で、右手の魔道具(ブレスレット)に意識を集中する。


電撃(ライトニング・ヒット)……)


 魔力を注ぎ込むと、魔道具からバチバチと、火花が弾け、小さな紫電が手全体に包み込んだ。

 それは雷電より、静電のように空気を震わせる光だった。


「やめろ」


 その瞬間ーー

アマリエを制する低い声が、静かに割り込んできた。


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