現実は通常運行、もしくは
一応これで完結です。
高校の正門に見覚えのある後ろ姿を見つけて、思わずため息が出た。
他校の制服で堂々としてないで欲しいんだけど。あんた一応イケメン枠らしいのよ? 私を針のむしろに晒したいの? 鬼かよ。
「毎日毎日ご苦労さま。飽きないの?」
「……帰んぞ」
今日は弟。昨日は兄。私は毎日送迎なのか監視なのか護衛なのか、よくわからんものをお供に登下校している。
あの日、私は教室で倒れてる所を幼なじみに発見された。
時間にしたらほんの数十分。消えた場所と同じ所に倒れてた。さすが魔王サマ、すげぇな。
しかし、私が消えた瞬間をその幼なじみが目撃していた。間中晴実と言う、朱桜の従姉妹が。
まぁ、話はすぐ私の家と真桜ママのとこに飛んだよね。なんせ朱桜の時も私たちが目撃者だったし。
私の母はとりあえず武器を持って立ち上がり、父は背後に暗黒の闇を背負ってたらしい。怖いよ、うちの親。
で、真桜ママの指示で晴実は教室に待機。真桜ママがうちの親をどうどう、と宥めてる間に発見報告。
間中家に運ばれた私は、みんなからの尋問に全て正直に話した。なのに! 信じてくれたのが真桜ママとママと晴実だけってどうよ!?
うちの男共ときたら! 夢見てたんだろうとか疲れてるのかとかストレスあるのかとか! しばらく話したくないんだけど!!
証拠も見せたよ。みんなで撮った写メ。
朱桜と茶髪のひなちゃんと銀髪の魔王サマこと理都ちゃんと撮ったやつ。でも仮装って言われた。
真桜ママが、朱桜は元気でひなちゃんといるんだね、って笑ってくれなかったら、私は弟をぶっ飛ばしてたわ。
蒼人も律人兄も、私の話を信じなかったくせに、あの日以来送り迎えを欠かさない。いらないんだけど、そんなの。
どうせメンタル病んでるとでも思ってるんでしょ。私はリアルにあったことしか話してないよ、信じないなら心配もいらないよ。
ピコン、とスマホが鳴った。トーク画面には理都ちゃん。写真が添付されてる。
「あ、産まれたんだ」
ひなちゃんと朱桜の子供。小さな赤ちゃんを抱いて微笑む姿は、もうすでに立派な母親の顔だった。
そこに不安はないのだろう。朱桜がいて、ひなちゃんに苦労はさせないだろうし。
あの時、帰ることを選ばなかったら、あそこに私の居場所はあったのかな。ないと思ったから帰るって決めたけど、いざここにいるとないものねだりがでてきちゃう。
タラレバなんだよね、結局。
眩しい夕陽に立ち止まる。
夢なんかじゃなかった。確かにあの世界は存在して、彼女たちはそこにいた。
私は忘れないし、信じてくれる人たちもいる。蒼人も律人兄ももういいや。
おめでとう! と入力して保存する。写メは真桜ママに転送した。おばあちゃんだね、真桜ママ。抱っこすることもできないけど。それでも、真桜ママはありのままに受け入れるんだろう。
私もああなりたいな。
とりあえず、蒼人をぶっ飛ばす。
読んでいただいて、ありがとうございました。