とある王国の悲劇(喜劇)
まさに喜劇。
神殿から聖女召喚成功の一報が届き、国王は内心ウキウキと、表情は厳しさを取り繕っていた。
聖女召喚は100年に一度、必ず行われてきた。最初は穢れや瘴気を払うためだったらしいが、今では国民へのアピールイベントとして、また魔力の多い子を残すための母体欲しさとしての理由の方が強かった。
慣例ならば息子である王太子の妻に迎えるはずの聖女だが、王太子には相思相愛の妃がおり、側妃すら拒否しているので、仕方なく、ほんとーに仕方なく国王が側妃として娶ることになっていた。
息子より年下の若い嫁に、国王はワクワクドキドキが止まらない。隣の王妃にジトっと睨まれてるのにすら気づかないほどに。
てかなんで聖女ってだけで王族に嫁がにゃならんのかと思うだろう。そこが政治で裏であれこれそれありの、大人の事情ってやつなんだろう。
それこそ聖女の意思とか希望とかガン無視なんて、有り得ないんだけど?
その驕りが、その後の出来事を引き起こしたのにも気づかない、愚かな為政者の末路は。
神殿で、神官から聖女への説明などをした後、王宮に送られるはずの聖女は、しかし到着することはなかった。
「っ、ふっっざけんな! 無理矢理女をどうこうしようだなんて人間のクズはいらん! 禿げろモゲロ肥えやがれ!!」
どこからか、しかしはっきりと聞こえたその声。
聞いた男性の反応はふたつ。
悲鳴か、無反応か。
前者は女性に無体を働いたことのある者、後者はないものである。
国王は前者であった。
「ぐっ!? ああああああああっ!!」
下半身血まみれで、泡を吹いて倒れた国王に、周りはパニックになった。けれど、国王に近い臣下も半数以上が同じ状態だったので、対応が間に合わず治療も遅れた。
駆けつけた王妃の視線のなんと冷たいことか。
神官を呼び寄せ、元通りに再生治療を受けようとした国王その他が、男性としての尊厳を再び手にすることはなかった。
聖女の心からの叫びは、一回きりのことではなく、常時発動の半永久的なものだったのだ。
王妃の汚物を見るような視線に耐えきれず、国王は王太子に譲位して離宮に籠り、頭部が寂しくなってからはさらに人前に姿を見せることを厭い、ベッドから動かない身体は醜く膨れたらしい。
新国王になった王太子は、女性に優しい国造りを宣言。その通りに国のために邁進したという。
誰の命令だったのか、被害に合っていた女性達が、各地で救い出され保護されると、皆一様に女神へと祈りを捧げた。
神殿など必要ない、あそこはお布施だけむしり取って助けてはくれなかった。祈るならどこでもできる、と。
神殿の在り方が問われ、求心力が一気に低下することになった。ちなみに聖女に無体を働いた神官長は、禿げて肥えて内股になったらしい。もう誰も敬ってはくれない。
聖女の行方はようとして知れない。
続きます。