希望と絶望
話数移動してたら前のものが消えてしまいましたので、書き直しました
神官が無邪気な笑顔でケンドーに詰め寄る。
「あなたの特技とか得意なことは何? きっとそれが、神様からの啓示のものだよ!」
ケンドーに思い当たる節はなく首を捻る。
「こんな何の能力も無い男に、神から認められるようなスキルなんてあるわけ無いでしょ」
マリーがケンドーに毒づく。ムっとしながらもケンドーは何も言い返せなかった。
「あなた、此処に来る前は何をしていたの?」
神官が再びケンドーに尋ねるも、記憶のないケンドーはまたも返答に困っていた。何か答えないとと焦る。死刑になるのはごめんだとケンドーは思った。ケンドー目を瞑り、何かないかと考える。
「マッサージとか……どうかな……?」
ケンドーは頭に思い浮かんだものをそのまま話した。今から死刑になるかならないかの瀬戸際の男からまるで緊張感のない言葉が出たことにマリーは呆れた。ケンドー自身も自分の口からでた突拍子の無い言葉に苦笑いするしかなかった。
「マッサージ!? やってほしいな!」
ケンドーの焦りとは裏腹に、神官が食いついてきた。ケンドーは何故自分がこんなことを言い出したのかわかっていなかった。だが今この状況を打破するには、この流れに乗るしかないと確信した。
「こんな得体のしれない男のマッサージなんて気持ちが悪いわよ。やめておきなさい」
マリーが神官に注意する。ぐうの音もでないケンドーだったが、神官は食い下がる。小さな体でピョンピョンと跳ねマリーに抗議した。
「最近ずーっと王女様が、変なおじさんを死刑にばっかりするんだから、私もう肩が痛くなっちゃったよ! マッサージ受けたいよー!」
駄々をこねる神官にマリーは溜息をついた。
「しょうがないわね。あんた、変なとこ触ったり、怪しかったら速攻で殺すから」
マリーにきつく釘を刺される。
「大丈夫だ。仕事中にそんなことはしない」
ケンドーは答えた。ケンドーの雰囲気が変わりマリーは少し驚いた。
「うわーい! 楽しみ! 楽しみ!」
ケンドーの変化には何も気付かない神官は、マッサージを純粋に楽しみにしている様子だった。はしゃぐ神官は、足を捻り転けていた。
この時既にケンドーは、何故だか一切の不安が無くなっていた。この子犬のような幼い神官に今からマッサージをする。気に入られなければ死刑、無能と思われても死刑、変なとこ触っても死刑。そんな絶望的な状況であったが、ケンドーは落ち着いていた。ゆっくりと準備運動をはじめ、手を温める。
「それでは、施術を始める」
ケンドーの異世界での生死を賭けたマッサージが始まる。