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第5話 「無敵の人VS優等生」

「やっと、戦う覚悟を決めたのか?おっそいなー」


 俺が試合場に入るなり、煽りを入れてくる東條とうじょう 龍斗りゅうと。双子なだけあってか、さっきゆりねに重傷を負わせた怜斗に非常に顔も体格も似ている。唯一違うとすれば兄の龍斗が金髪で怜斗が黒髪というとこだけだ。


「なあ、あんたら、古賀和とグルなんだろ?」


俺の質問に龍斗は、


「だったらどうしたっていうんだぁ?」


と開き直ったような態度で返した。見た目だけじゃなくて、しゃべり方まで怜斗に似ているところが非常に腹立たしい。


「いやー、情けないなあって思って。東條家の人間ともあろう御方が弱い者いじめか?」


 とりあえずさっき煽られた分のお返しをしておく。それに、さっきゆりねにあんなことをしたんだ。これくらい悪態をついたところで何も問題ないだろう。


「おっ、効いてる、効いてる。そうそう、お前もこれからいじめてやるから覚悟しとけよ」


いまいち効果的に煽れなかったようだ。逆に煽り返されてしまった。


「そうそう、お前、中学校の頃は不登校で引きこもりだったらしいな。なのに、なんでこの学院に入れたんだ?やっぱり、お前も姉同様、裏口入学か?そうだよなあ、あの姉の弟だし、どうせろくに魔術を使えるはずもないよなあ。無能の引きこもりか。相手にならんな。だって、俺、東條 龍斗様はこの学院の中学を首席で卒業した優等生なんだからよぉ。あんたみたいな、今までの人生でなにも実績を積んでこなかった人間とは格が違うんだよ」


 痛いところを突かれた。確かに、龍斗の言っていることは、俺が実は魔術に長けていることを除けばほとんど事実だ。

 

 俺は引きこもりで今まで何も成し遂げてこなかった。ただ、魔術の天才であるということを除けば、ただのニート、いや失うもののない無敵の人だったといっていいだろう。今はこの学院の生徒だが、どうせ明日には辞める。そうなれば、無敵の人に逆戻りだ。


 だが、俺には魔術以外にも龍斗に対して優位に立っている事がある。そう、これは龍斗が言ったことの裏返しになるが、俺は失うものが何もないのだ。


「なあ、東條。確かに、俺はあんたと違って、今までなにも成し遂げてこなかった人間だ。だけどよ、それは裏を返せば失うものが何もない人間、つまりは、無敵なんだ。順風満帆のエリート人生を歩んできたお前には決してわからない、失うもののない人の強さを今からたっぷり教えてやるよ」


「ハッッ、所詮負け犬の遠吠えよ!10秒で片づけてやる。おい、審判、さっさと試合を始めろ」


 もはや古賀和との関係を隠すことすらやめた龍斗は、命令口調で古賀和そう告げた。


「これより、154番東條 龍斗君と178番の試合を始める。スタート!」


 古賀和の少し甲高い声により戦いの火蓋が切って落とされた。


*   *   *


 試合が始まるや否や、俺はすかさず、無詠唱で手元にこっそりと二つの術式を組み立てる。

 一方の、龍斗の方も、俺に少し遅れながら、無詠唱で術式を組み立てた。龍斗の腕の周りに光り輝く、魔術式の文様から察するに、恐らく龍斗がくみ上げた術式はさっき怜斗がゆりねに放ったのと同じ≪クリムゾン・ドライブ≫だ。


 術式を組み立て終わった龍斗は俺の方に手を向けいよいよ、≪クリムゾン・ドライブ≫を放とうとする。


「キエェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 だが、龍斗が≪クリムゾン・ドライブ≫を放とうとした瞬間、突如グラウンドに男性の絶叫する声が響き渡った。


 突然の出来事に思わず、≪クリムゾン・ドライブ≫の発動をキャンセルしてしまう。


 辺りをキョロキョロと見まわす龍斗。ふと止めた視線の先には、異様な光景が存在した。


 なんと、さっきまで立って審判役をしていた古賀和が、白目を剥き、嘔吐しながら地面に倒れこんでいるのだ。


「だ、誰だ、審判、古賀和先生になにかしたのは!」


 協力者の古賀和が倒れたことに動揺したのか、少し震えた声で龍斗は叫んだ。


「俺だ」


 まあ、なにかしたのは事実なので、俺は正直に名乗り出る。


「お前か、いったい何をしたんだ!」


「古賀和に魔術をかけた。正確には、精神干渉系魔術≪ロスト・センサビリティ≫で全身の感覚を奪い、幻惑系魔術≪ワースト・ナイトメア≫で精神に苦痛を与え、古賀和を精神崩壊させただけだ」


 Sランク精神干渉系魔術≪ロスト・センサビリティ≫は対象の人間のすべての感覚を奪う魔術で、同じくSランク幻惑系魔術≪ワースト・ナイトメア≫は対象の人間の脳裏に恐ろしい幻覚を見せる魔術だ。具体的に今回の古賀和の場合は、感覚を奪った後、キ〇タマがひねり潰される幻覚を見せ、このような惨状になったのだ。この二つの魔術は同時に使えば相乗効果で効果は倍増以上になる。こんな高度な魔術を、同時に無詠唱で成功させれるなんて、なんてすごいのだ。パチパチパチ。試合中にも関わらず、自分をほめてやりたい気分に陥る俺。


「おい、ふざけるな!審判に、古賀和先生にそんなことしていいと思ってるのか!」


「いいと思っている」


 俺の思わぬ不意打ちに怒り狂う龍斗に、俺はピシャリとそう言い放った。


「ルール違反だぞ、ルール違反!この試合はお前の負けだ!」


 子供のように喚き散らす龍斗。成績優秀でも、精神面はまだまだだな。


「おいおい、嘘をつくのはやめてくれよ。そこでくたばっている古賀和が最初のルール説明の時に、審判を攻撃してはいけないなんて一言でも言ったのかよ?」


「それは....」


 俺の論理だった反論に言葉を詰まらせる龍斗。まあ、試合中はBランク以下の汎用魔術しか使えないってルールがあるから、Sランク魔術で古賀和を精神崩壊させた俺は厳密にはルール違反ってことになるけどね。だが、審判を攻撃するという予想外の行動と、はったりの利いた俺の言い訳が功を奏してか、混乱状態の龍斗にはそんな細かいことに気付ける余裕はない。


「だ、だけど、先生だぞ。社会の常識で考えて、普通そんなことやらねえだろ!」


 必死に感情論で反論を試みる龍斗。だが、お仲間の古賀和が倒されたことへの動揺が隠せず、その声は震えていた。


「はあ、呆れた。学年主席とはいえ、所詮、ただの頭の固いだけのがり勉か。常識を疑えって言葉を知らないのか?」


 最初に煽られた分と、煽り返しそこなった分のお返しだ。精神的に優位な状況に立った俺は、龍斗を煽りたおす。


「だいたい、社会の常識だと?それがどうした!これは勝負ごとだぞ。勝負の世界に社会常識なんてもんは存在しないんだよ」


 龍斗にさらなる追い打ちをかける俺。だが、しかし思いの外この不意打ちが効いていたのか、最初はあんなに威勢が良かった龍斗は何も言い返してこない。


 よし、いけるぞ。どうせ、俺は今日でこの学院を辞めるんだし、ここにいる奴らとはこれから関わることもないだろう。ゆりねの弔い合戦だ。派手にこいつを馬鹿にしてやろう。


 しかし、人生山あり谷あり。調子に乗っているときに限って、思わぬ不幸が舞い込んでくるものだ。


 突如、俺の真後ろから火球が飛んできたのだ。


「うぉっっ!!!」


 とっさになんとか火球を回避する俺。これたぶん、≪クリムゾン・ドライブ≫だな。それが、目の前の龍斗からではなく、真後ろ、観客席の方から飛んできたということは犯人は....


「おい、柊、ふざけるな!!卑怯な真似をしやがって!」


 真後ろを振り向いて犯人の顔を確かめようとしたその瞬間、待機席の後列から、前列に座っている生徒と試合場の範囲を示す白線を飛び越えて、試合場に一人の男、東條とうじょう 怜斗れいとが入ってきて、そう怒鳴った。


「卑怯といえば、審判の古賀和とグルになって、ゆりねをいじめたそっちの方が卑怯だろ。それに、俺はあくまでもルールに反することは何もしていない。卑怯呼ばわりされるのはお門違いだね」


「グルになってる証拠なんてあるのかよ!それに、試合のルールには反しないことかも知らねえが、教師に危害を加える行為は立派な校則違反だぞ!」


どうせ、今日で辞めるのに校則違反だぁ?知ったこっちゃない。


「知らんわそんなこと。それより、そんな不公平な審判が試合を仕切るようじゃあ、こっちも安心して戦えない。だから、これは正当防衛なんだ!」


若干、無茶苦茶なことを言っている気もするが、こんなの勢い、言ったもん勝ちだ。


「ええい、お前と話していても埒が明かんわ!こうなったら、姉の時みたいに、力づくでわからせるしかないみたいだな。おい、あれを貸せ」


怜斗はそう叫ぶと、待機席の方から怜斗の方に向かって、刀のようなものが投げられた。それを怜斗はキャッチし、俺に見せつける。


「これは、東條家に伝わる強力な魔術武装の一つ、≪雷斬らいきり≫だ。安心しろ、命まで奪わない。だが、腕や足の一本二本はなくなると思え。東條家と敵対したことの恐ろしさを後悔させてやる。おい、兄貴合わせるぞ!」


 そう言って、≪雷斬≫を鞘から抜く怜斗。刀の周りには火花のようなものが飛びかっている。魔術式を武器にきざんだ魔術武装は、武装本体が魔力の塊のようなものであり、強力な魔術を秘めている。恐らく、今の火花はその魔術の影響によるものだろう。


「おう!柊、俺の試合で舐めたマネしやがったこと後悔させてやる!」


 さっきまで、俺に言い負かされ、たじたじになっていた龍斗も、援軍が来たことで最初の威勢を取り戻したようだ。声に張りが戻っている。


「はっ、両方まとめてかかって来いよ!」


 もう無茶苦茶だ。なぜか、1対1の試合のはずが、2対1で戦う羽目になってしまったのだった。



















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