第2話 「いきなりバトル!?」
「遼くん、お写真撮りましょう!!」
校門前の『入学式』と書かれた華やかな看板の前で、満面の笑みで手招きしている、黒髪巨乳の制服美少女は、そう俺の姉、柊 ゆりねである。
なんというか、まあ、嫌々ながらも、俺はついに東京国立魔術学院高校まで来てしまったのだ。学校嫌いかつ、こういう入学式みたいな人がたくさん集まる場に、姉の願いをかなえるために足を運んだ、
男 柊 遼河の精神的高潔さやメンタルの強靭さを褒めたたえたい。俺はそんな気分に浸りつつ、手招きをするゆりねの元に駆け寄る。
「はい、チーズ!」
ゆりねがスマホの画面の撮影ボタンを押すと、パシャ、とシャッター音が鳴る。
「やったー、撮れた。私と遼くんが映ってる!」
うーん、それ喜ぶことか?そら、(スマホで自撮りしたら)、そう(俺たちが映るに決まってる)よ。
やたらとハイテンションなゆりねを見守っていると、
「新入生、並びに保護者の方々は、9時30分より、入学式を始めますので、校内西の大講堂までお集まりください」
入学式の集合を知らせる校内放送が聞こえてきた。
「行こっ、遼くん」
うきうきした感じのゆりねに引っ張られるように俺は大講堂へと向かった。
* * *
「ここは、お姉ちゃんの庭なんだから。道案内はお姉ちゃんに任せなさい!」
ゆりねはそう言って、俺の手を引っ張りながら、速足で大講堂へと向かっていく。
俺こと、柊 遼河は柊家の養子で、ゆりねとは血のつながりはない。俺より半年だけ年上のゆりねは柊家の当主の実子であり、英才教育のために中学時代から魔術の名門東京国立魔術学院に通い続けている。この学院は高校と中学が同じ敷地内あるので、3年間ここに通い続けているゆりねにとっては庭のようなものなのだ。
ちなみに、俺は中学までは近所の公立中学に通っていた。これは実子と養子の教育格差とかそういうものじゃなくて、単に俺が希望した結果である。まあ、もし、中学から学院に行ってたとしてもどうせ不登校になったと思うし、自分の選択に後悔はない。
「ねえ、遼くん。見えてきたよ、大講堂!」
ゆりねが、恐らく今まで何度も見てきたであろう大講堂を、さも初めて見るかのような興奮した声で指をさす。
「どう、すごいでしょ。うちの大講堂!」
「へー、すごいすごい」
「むー、反応適当すぎ!」
ちょっとムッとした声で話すゆりね。たしかに、この学院の大講堂は、俺が通ってた中学の体育館とかと比較して、かなり大きい立派な建物である。恐らく、高校の建物としては日本有数の大きさであろう。
だが、もともと嫌々ここに来た俺にとっては建物の立派さなんてどうでもよかったのだ。早く家に帰りたい、それが今の俺が持つただ一つの感情である。
俺の無関心を察したのか、ゆりねはただ、
「入りましょっ!」
とだけ告げて俺を大講堂の中へと導いたのだった。
* * *
「令和12年度新入生の諸君、入学おめでとう。
保護者の皆様にもお祝い申し上げます。
また、来賓の皆様、お忙しい中、
新入生の門出を共に祝って頂きますことを心よりお礼申し上げます」
ありきたりな、テンプレ祝辞と共に入学式が始まった。
「諸君は本日より、晴れて本校、東京国立魔術学院高校の生徒となりました。本校は、昭和12年に設立され~」
東京国立魔術学院は、東京都渋谷区に位置する学校法人で、全国に7つある国立魔術学院の一つである。そもそも、国立魔術学院とは日本において高い技能を持つ魔術師を育成するために政府が中心となって設立された学校で、中学から大学まであり、魔術を教える教育機関としては最高レベルの教育水準を誇っている。そのため、魔術師の中では国立魔術学院出身であることがステータスであり、かつ魔術師として、防衛相や魔術省といった官公庁に就職する際にはほぼ必須といっていい資格となっているのである。
特に、ここ東京国立魔術学院は7つの学院のなかでも最難関かつ社会的にも最大の影響力をもつとされており、実際魔術省の歴代大臣はほとんど東京国立魔術学院出身者で占められている。
「続きまして、PTA会長から祝辞のお言葉です」
式が進行していく。
長い。しかも退屈だ。入学式の儀礼的なスピーチにそんな感想を抱いた俺は隣のゆりねに目をやる。
あれ、なんでこんなつまんないスピーチをそんなに嬉しそうに聞けるのだろうか。そう感じるくらい、ゆりねの表情は嬉しそうだ。
さらに式が進行していく。よし、眠いし寝るか。ついに退屈さから来る眠気に耐えられなくなった俺は、隣のゆりねがいまだに目を輝かせながら真剣に退屈なスピーチを聞いていることを確認し、式が終わったら起こしてくれることを期待し眠りに堕ちた。
* * *
トントンと肩を叩かれたことで俺は目を覚ました。
「これにて新入生入学式を閉会致します。それでは、まず、保護者様、来賓の方々からご退場ください」
なんか、偉い感じの恐らく校長であろう人物が閉会の言葉を述べている。どうやら、ゆりねは期待道理に起こしてくれたらしい。
「それでは、次に在校生、並びに新入生担当以外の教職員はご退場ください」
次々と、人がいなくなっていき、あれほど人で埋め尽くされていた大講堂は新入生と一部の教職員のみが残っているだけとなった。
次は俺たち新入生が退場する番かなと考え、なるべく早く帰りたい俺は、今か今かと校長の退場の合図を待つ。
しかし、マイクを握った校長が発した言葉は俺の予想を裏切るものだった。
コホンと軽く咳払いをして校長はマイクを握り、
「それでは、新入生諸君。もう知っているだろうと思うが、慣例に則りこれより模擬魔術戦を行う」
勝手に知ってるなんて思い込まないでくださいよ。俺知らないよー、そんなこと。
つい、そう叫びたくなってしまったがぐっとこらえる。
「こんなのあるなんて聞いてねえよ」
叫ぶ代わりに俺は隣のゆりねをつっつき質問する。
「知らなかったの遼くん?」
ゆりねはきょとんと首を傾げた。さらに、周囲を見渡したが、誰も俺のように知らなかったような顔をしている人間は見当たらない。あれ、これってここの生徒の一般常識みたいなものなのか?
「ルールは、Bランク以下の汎用魔法のみを使用した1対1の戦闘とする。対戦相手はすでに教員によって決められている。現在座っている椅子の番号で呼ぶので、番号をしっかり把握すること。対戦はグラウンドで行うのでこれより新入生は移動するように。以上」
校長があらかたの流れを説明する。
「遼くん、お互い頑張ろうね」
事態をいまいち呑み込めていない俺を置き去りにして、ゆりねがファイトと一方的に俺を励ましてくる。あーあ、すっかり俺も模擬戦やる雰囲気になっているじゃないか。さっさと帰りたいのに。
ここで、こっそり逃げる手もあるけど、なんかゆりねもすっかり俺が参加するって思いこんでるし、ここで帰ったら戦いから逃げたみたいでちょっとカッコ悪い。よし、世界最高天才魔術師の俺が、この学院の新米学生魔術師どもに胸を貸してやるか。まあ、でも相手を瞬殺して目立っちゃうのも嫌だし、ほどほどに手加減した上で、ギリギリ勝利する感じでいこう。
そんな心持ちで俺は模擬戦への参加を決意したのだった。
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