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第13話 「終礼」

「それでは、終礼を始めます」


 教壇に立つ若い女性教師、ゆりねによると嶋崎 奈子という名前だそうだが、が話し始める。


 5限の授業で突然、古賀和が倒れた後、古賀和はうちのクラスの生徒に担がれて保健室まで運ばれた。それから、今日は6限目がなかったことから、5限の授業は早めに終わって、担任が終礼をする流れとなったのだ。


「まず、初めに5限の授業中に倒れられた古賀和先生ですが、つい先ほど意識が回復されました」


 案外早く回復したな。


「ただ、はっきりとした原因はわからないのですが、保健室で診察した校医の方によると古賀和先生はかなり強い心的外傷後ストレス障害、いわゆるPTSDのようなものを発症されているらしく、おそらく、かなり長期の間、休職せざるを得ないそうです。なので、おそらく、来週からは倫理の授業は別の教員が担当することになりますので、一応頭に入れておいてください」


 ははん、そうかわかったぞ。嶋崎は、「原因はわからないですが....」とぼかしているが、おそらく、古賀和がPTSDを発症したのは俺が原因だ。たぶん、古賀和は俺の顔を見たことで、昨日の試合で俺が古賀和に見せた幻惑魔術による恐ろしい幻覚をフラッシュバックしたのだろう。

 

 まあ、俺の幻惑系魔術≪ワースト・ナイトメア≫は強力だったし仕方がないだろう。それに、同時に使った精神干渉系魔術≪ロスト・センサビリティ≫のおかげで威力マシマシだしな。しかも不意打ち。

 

 一般的にこういう精神に干渉する魔術は、相手に身構えられた状態だと、高度な魔術でもあまり威力を発揮しない。だが、不意打ちの際はモロに威力を発揮する。古賀和もまさか審判の自分が攻撃されるなんて思いもしなかっただろう。

 

 従って、古賀和が、俺の顔を見ただけで気絶するほど精神に深いダメージを負ったのはある意味当然と言える。

 

 まあ、さすがに長期間休職させるほどのダメージを負わすのは少しやり過ぎたか、という考えが少しだけ頭をよぎったが、まあ、ゆりねをはめて怪我を負わせたんだ、これくらいの罰をくらっても当然かと俺は改めて思いなおした。


「それでは、次の連絡にまいります。明日は健康診断と魔術の試験があります。それと、6限終了後にクラスで集合写真を撮りますので、制服の上着を着用してきてください」


 へー、明日に健康診断と集合写真の撮影をやるのか、珍しいな。大体こういうのって、入学式の翌日、すなわち今日にやるもんじゃないか。今日は今日でがっつり授業やってるし。しかも、明日いきなり試験があるみたいだし。さすが、エリート校。常人では息が詰まるようなハードなカリキュラムだ。


「連絡は以上ですが、私から少しだけ。本日、遅刻された方。本校は基本的に学習は生徒の自主性に任せています。そのため、遅刻や欠席は、試験などの重要な日を除いてカウントしていません。なので、遅刻したことについてとやかく怒るつもりはありません。ですが、本校のカリキュラムは非常に高度で、かつ学習量も膨大になっています。なので、遅刻して授業を聞き逃すことは、他の生徒から大きく遅れをとることになります。そのことをよく理解しておいてください」


 俺とゆりねに対して言ったのだろうか。遅刻したことについて少し釘を刺された。遅刻ても怒られないからといって、ガンガン遅刻していいわけじゃないらしい。これから、毎日午後出勤してやろうかと考えていた俺の出鼻がくじかれた。


 それにしても、ゆりねには今日ちょっと悪いことをしちゃったな、と俺は思った。俺が待たせたせいでゆりねは遅刻してしまった。まあ、テロで地下鉄が止まってたせいで、午後出勤になったってのもあるし、仮にゆりねが俺を待たずに地下鉄に乗っていたらテロに巻き込まれたかもしれないしで、厳密には俺のせいとは言い難いが。

 

 それでもだ、ゆりねが午前の授業に出れなかったという事実に変わりはない。黒板の時間割を見るに、この高校の授業は、基本的に、午前が魔術に関する授業、午後が普通の科目の授業となっている。

 

 魔術の天才たる俺にとっては、別にこの学校の魔術の授業なんて聞く意味はないと思うが、魔術が大の苦手であるゆりねにとっては、午前の魔術の授業4時間分をまるまるサボってしまった代償は大きい。最初の授業は結構重要な基礎的なこと教えるし、それを身に着けていないと後々苦労することが多い。大丈夫だろうか、高校入学初っ端から落ちこぼれたりしないだろうかと、ゆりねのことが心配になってきた。


 授業の内容とかは、ゆりねには雪乃みたいな友達がいることだし、そいつらから聞けば問題はない。だが、問題はそれをちゃんと身につけれるかだ。雪乃は結構親切で面倒見の良さそうな性格だし、ゆりねが頼めば、わからないことは教えてくれるだろう。


 ただ、雪乃はゆりねの友達とはいえ他人だ。四六時中付きっ切りで魔術を教えるなんてことはできない。


 それに、雪乃に魔術の苦手なゆりねにちゃんと教えれるほどの実力があるかといえば、正直疑問だ。雪乃の正確な魔術の実力は知らないが、仮に高校生の魔術師の中では優秀程度の実力ならば、ゆりねに教えるには不足だ。


「それでは、連絡事項もすべて話しましたし、少し早いですけどこれで終礼を終わります。それでは、級長、号令をお願いします」


 そんな、俺の考え事を遮るように、嶋崎が級長に号令を促す。


すると、雪乃がよく通る声で、


「起立、礼」


と言った。へー、おまえ級長だったのか。まあ、しっかり者みたいだし似合ってるな。うん。


 雪乃の合図の後、クラスのみんなが立ち上がり、ありがとうございました、と終わりの挨拶をした。その後、クラスは解散の流れになり、ぞろぞろとクラスメイトが教室から出て、帰宅の途につく。


「それじゃあ、遼くん、私たちも帰りましょうか」


「ああ、そうだな」


 早々と荷物を片付けていたゆりねが鞄を持って、帰宅を促す。俺も、すぐに荷物を片付けて立ち上がり、ゆりねと一緒に教室を出た。


 こうして、短かったけど、高校生活の第二日目が終わった。






 





 

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