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[1]とある凶悪犯の証言の補足の証言

 私はフェリス。一応今はそういう事になっている。

 ガルザーの話にもあったと思うが、女のような男・・・・・・。というか、実は女だったりする。しかも、私に姉はいない。それどころか私が姉であったりする。

 つまり、普段から私は男のフリをしているが、それはその方が色々と都合が良かったからだね。男に色目で見られる事もないし、女みたいと思われれば多少舐められはするがそれで済む。

 ここの連中は自分より上の奴に対して、どうやって押し退けてやろうかって考えるやつが多いからね。場合によっては命を狙われるので、女のような男として過ごすのは楽だった。


 今から話す事は私がなぜこの島に来たか。

 それと、私の素性を交えてあの惨劇が起きたかの話をしたいと思う。


「どうして私の妹が行かなきゃならないのですか!!」

「聞いていないのか?君の妹は大きな罪を犯したんだ」

「話は聞いています!けど、それはそれを指示した医師のミスじゃないですか!結婚の日取りだって決まってたんですよ!!なのにあの子だけがあの島送りなんて・・・・・・」


 私は軍では珍しい女兵士だった。

 男勝りな性格で女の子らしい振る舞いがどうにも苦手だった私は、男の職場というような力仕事を望んだのだけど、どこも女というだけで働かせてもらえなかった。そんな私が行き着いたのが兵士だった。

 兵士として働く女こそいなかったが、軍には色んな仕事があり職場によっては女だって働いている。そういう事もあってなんとか兵士となる事ができた。


 だがあの日、私の耳に入った話は到底信じられない事だった。

 新たな島送りとなる極悪人が出たという話で、しかもそれが私の妹フェリスだと言う。


「フェリシアくん残念だが、何も証拠が無い。それどころか、その医師の話ではすべて君の妹であるフェリス看護婦が悪いのだという。薬品を取り違え、多くの患者を死に至らしめた罪は重く減刑も望めそうに無い」

「証拠は無いかもしれませんが、あの子が悪いわけではないんです!!」

「・・・・・・物事は良し悪しだけでは成り立たないんだよ」

「どういう事ですか・・・・・・?」

「被害にあった人達の怒りを納め秩序を生み出す為の裁きも必要なのだ。それにだ、医師の方に問題があったにしろ直接実行したのは君の妹だ。そこだけは揺るがない事実で、人々の怒りもそこに向かっている。もうどうしようもないのだよ」

「そ、そんな・・・・・・」


 私はどうにか妹を助けてやりたかった。

 でも、その方法が無い。妹にすべての責任を負わせた医師にも話をしたが、妹が悪いの一点張りで指示を誤った事を認めなかった。正直ここでぶん殴ってやろうかとも思ったが、時間が無く私が暴力沙汰で捕まればその間に妹が犯罪者の蔓延る島に送られてしまう。

 私にできることは無かった・・・・・・。


「・・・・・・姉さんごめんなさい」

「私の方こそごめんね。何か手は無いかって探したんだけど、力になれなかった・・・・・・」


 私は妹が島送りになる前日に、面会する許可を得て話をしていた。

 狭い部屋で妹と私の二人きり、扉は一つで窓も無い。その外では同僚の兵士が見張っていた。


「・・・・・・それでも、あ、ありがとう」

「・・・・・・」


 私は何を言えばいいかも分からず涙を流していた。

 私なんかよりも頭も良く、私なんかよりも女らしくてその幸せを掴む筈だった妹。

 それが、あの医師一人のせいでどん底に落ちようとしているのに、何もできない私・・・・・・。

 出来るなら私が代わってあげたかった。


「ごめんね。ごめんねお姉ちゃん!私の代わりにしっかり幸せになってっ!!」


 妹は私に抱きつき泣いてしまっていた。そして、私はそんな妹を抱きしめた。

 だが、この時私の脳裏ではある事を閃いてしまっていた。


 そうだ私が代わればいいんだ、と・・・・・・。


 私は妹に成り代わる事を決めて、上司の上司である軍の上層部の人に再度話しをしに行った。


「な、なんだと!?妹の代わりにあの島へ行くだと!気は確かか!!」

「はい。私は本気です」

「しかし・・・・・・。罪人の代わりなど認めるわけには・・・・・・」

「お願いします!私は妹を助けたいのです!!」

「・・・・・・まったく。妹を助ける為に、あの島の内部がどうなってるかも分からない所に行きたいとはな。その勇気ある決断力と優しさには敬意を表する」

「ありがとうございます!」

「・・・・・・二つ確認させてもらう。君の妹がわざと今回の事件を起こした可能性はないのだな?」

「はい!」

「後悔は無いのだな?」

「はい!」

「・・・・・・分かった。ただ、君のそのお願いを聞く代わりにと言ってはなんだが・・・・・・。少しこちらからもお願いしていいかな?」

「勿論です!」


 私のお願いは聞き入れられ、妹の代わりに私があの島に流されることが決まった。


 そして次の日。


「昨日も聞いたが後悔はないな?」

「はい!」

「・・・・・・そうか。それで、島に行く方法は理解しているな?」

「はい!」

「よろしい」


 知っての通り罪人を押し込めている島である以上、あの島は行き来の出来ない島だ。

 後に逃げ出されても困るから当然だけど。

 その行き来が出来ない理由があの島周辺を縄張りにしている海龍のせいだ。

 大型の船ですら襲い掛かりあっと言う間に沈め、逃げ出した人間を食らってしまう恐ろしい怪物だ。

 島と大陸の距離もあり見つからずに泳ぎきる事などほぼ不可能。私も監視の為の灯台で周囲を監視していた事があるが、泳いで島を脱出しようとした罪人が海龍に飲み込まれるのを見た事があるくらいだ。

 しかし、穴はある。その方法は寝る事だ。

 夜の海は視野が利きにくいのか海龍は目ではなく生き物が動く振動を感知して襲うらしい。

 なので夜に強引に睡眠薬で眠らせて浮き輪付きで、海流を利用して島まで流すのが恒例となっていた。

 元を辿ると、罪人を海龍に食わせるという処刑法から発見されて島流しの刑になったらしい。


「・・・・・・私の分まで幸せに生きて。・・・・・・フェリシア」


 私は妹に会うことも無く、フェリスとして島に流された。

 会えばまた決心が揺らぎそうになるかもしれないし、あの優しい妹の事だから絶対に止めさせようとする事が予想できた。


 これが、私が島に流されてきた経緯で今からおよそ3年前になる。


 その後当時から底辺で教育係をしていたガルザーに島中を案内されたりして、このグループに入った。

 今のグループに入ったのは単純にそこいたやつらが可哀想に見えたからだ。他のとこから常に下に見られ怯えた顔をしながらコキ使われていた。

 私には他の連中とは違い正義感が働いてしまった。だからかな?そこに迷いは無かった。


「それで、ここのグループのリーダーは誰?」


 驚きだったのはこのグループにはリーダーが居なかった事だ。

 私がリーダーを訪ねた時、メンバー全員が首を傾げた。全員とは言ったけど、メンバーは私を入れても4人しかいなかったけどね。

 なので、私がリーダーになる事にした。

 まず、私がしたのは他のとこからの無茶な要望の却下からだった。あれを作れ、これを用意しろ、そんな要望の中には当然のように無理な物も多く、それが出来ないと殴られたり蹴られたりしてたようでみんなビクビクしていた。


 私が無茶な要望を却下する事でみんなが安心でき、より仕事にも集中できるようになっていった。


 私がリーダーになって数日が経った頃だった。

 ベリーという新しい仲間が一人増える事になったのだが、彼女はこの島に着たばかりの新人ではない。

 むしろ、私よりも島での生活時間は私よりも上の先輩といえた。普通に考えればこんな弱小で、気弱な連中の集まりに来るなんて考えられない。・・・・・・私のような変わり者を除いてだけど。

 どこにも受け入れられずに来たなら話も分かるが、他の所にいたのならばおかしい。


「あんたはどうしてうちに来たんだ?他の所にいたのなら、そこにいた方がいいだろうに」

「いやぁ!!もうあんなとこぉいたくなぁいぃ!!」


 見た目こそ普通・・・・・・。というか、美人とも言える容姿だったがその言葉を聞いて何かがおかしかいと思った。いきなり頭を抱えしゃがみ込み、鼻水を垂らしながら涙声で『いたくないぃ!!』と叫んだのだ。


「悪かった。大丈夫だから落ち着いて――」

「あ、あぁぁぁあ!!お、とこっおとこぉーー!!」


 私がしゃがんで彼女を宥めようとしたんだけど、私の顔を見るなりさらに慌ててそしてさらに怯えたように叫び、四つん這いで距離をとろうと手足を必死に動かしていた。


「大丈夫。私は女だよ」

「・・・・・・お、おとこじゃない?」


 私は咄嗟に自分が女である事をバラしていた。言ってから思わず自分の口を手で覆ったが言ってしまったものはもはや変わらない。仕方ないので、ベリーの前だけは女という事にした。

 そして、ベリーを落ち着かせゆっくりと何があったか話を聞いた。


 ベリーのながーーーいたどたどしい話を纏めるとこうだ。


 ベリーがこの島に来たのは、ある貴族の愛人と子供を怒りのあまり殺してしまったようで、愛人にしていた貴族から怒りを買ってしまったからとの事だ。

 なぜそんな事をしたのかと言えば、ベリーにも子供がいたらしいのだがその子供が別の子供からいじめにあっていて、そのいじめで死んでしまったのが理由らしい。

 わずか4歳のベリーの子供は湖に突き落とされ、泳ぐことが出来なかった子供は、そのまま死んだと言う。そして、相手の子供もその母親もあれは事故で自分達は悪くないんだと主張したらしく、全身が燃えるような怒りが込み上げて止める事も考える事も出来なかったらしい。


 そして、島に流され女豹と呼ばれる奴がリーダーの女ばかりのグループに入っていたようだ。女豹のとこのグループの役割は、簡単に言って男の相手をする娼婦のような仕事だ。

 ベリー自身その仕事にはある程度納得はしてたらしく、男を嫌悪する事も無かったようだ。少なくとも、私の所に来るまでは・・・・・・。

 話を聞く限りベリーはそこそこ人気だったらしいのだが、それが悲劇の引き金だったようだ。女豹が目を付けていた男にまで気に入られ、女豹を怒らせてしまった。

 女豹はリーダー命令で、一晩で普通では考えられない数の男の相手をさせたらしい。それも連日・・・・・・。


 それで、身も心もボロボロに疲弊したベリーは男を怖がり女豹の所から逃げるように私の所に来た。そういう流れのようだった。


 ベリーは私の所で落ち着きを取り戻したが、男性恐怖症で精神的に病んでしまっていた・・・・・・。

 ちなみにだが、ベリーは裁縫が得意だったらしくそれを専門的にしてもらっている。人の顔を見ないようになのか、前髪を長くしたままで下を向き手元だけに集中しチクチクしている。


 で、そっから何事も無く時間は過ぎて行き3年後、あの子供が私がリーダーをしているグループにやってきた。


「あのなぁ・・・・・・。お前は入れないってそう言ったよな?」

「そうなんだけど、入れてもらわないと困るんだよね。もう行く当てもないし」


 そう言いながら殴られでもしたのか、赤くなっていた頬をその子供はさすっていた。

 

「その怪我は喧嘩でもしてきたのか?」

「まぁ、そんなとこだね」


 行く当てが無いってのは、喧嘩して追い出されたって事か・・・・・・。


「・・・・・・ちっ。仕方ないから、うちで引き取ってやる」

「ありがとう。これからよろしくねフェリスさん」

「そういやお前の名は?」

「レオルだよ」


 それから他のメンバーをあの子供に紹介したわけだが、少々おかしな事が起きてしまった。


「ふむふむ。木材関連専門のオーグさんに金属関連専門のアドさんとレーイさん。それから裁縫関連専門のベリーさん、と」

「・・・・・・」


 オーグは体こそでかくて力もあるが、無口なやつで滅多に喋らない。だけど、言葉はちゃんと理解出来てて仕事もしてくれるし、根はいい奴なんだ。


「・・・・・・めんどー。もう寝るー」

「まだ寝るな!」


 アドの奴はとにかく面倒臭いと言ってサボろうとする奴だ。すぐ怠ける奴だが、やる仕事は丁寧で出来がいい。悪い奴ではないんだが、サボった皺寄せがレーイに行くからその辺どうにかして欲しい。


「あ、アドくんは、もう少し頑張って欲しいかも・・・・・・」

「えっと、今なんて言ったの?」


 レーイはいい子なんだがとにかく声が小さい。ボソボソと何かを言ってるのだが相手に通じない。それどころか、話す時に相手の顔を見れない気の弱さもあって下を向いてるために、相手を不快にさせて怒鳴られ体をビクッとさせている姿を良く見る。

 この島の連中はガラの悪い連中が多い事もあって、いい子なのに可哀想な子だ。


「きひっ、きひひ・・・・・・。わた、私のぉ。きひひひ」

「な、何?何で抱きついてくるの!?」

「わ、私の子供ぉ・・・・・・帰ってきたぁ。スリスリ、スリスリ・・・・・・」

「それは違うって言ったろう!」


 ベリーの話はしたと思うが、どうもあの子供を自分の死んだ子供だと思い込んでしまっているらしい。色々つらい目にあってきた事からくる現実逃避でもあるんだろう。いくら違うと言っても、聞き入れずに自分の子供だと言ってべったりしていた。


「フェリスさんこれは・・・・・・?」

「・・・・・・言いたい事はわかる。が、見ての通りだ。ベリーはお前を自分の子供だと思い込んでしまってるんだよ」

「えーと、僕はどうしたらいいのかな・・・・・・?」

「自分で考えなって言いたいが、できればベリーの相手とそのサポートをしてやってくれ」

「ま、まじですか・・・・・・」


 私は困り顔の子供を見て思わず苦笑してしまった。苦笑とはいえ久しぶりに笑った気がする。


「きひっきひひ。お、お腹空いてないぃ?おっぱい飲むぅ?」

「飲まないよ!赤ちゃんじゃないし!!というか出るの!?」

「出るらしいよ一応」

「きひひっ。恥ずかしがらなくてもぉいいのにぃ。きひっ、きひひひ」

「ちょ、ちょっと!胸を押し付けないで!嫌いじゃないけど!!」

「なんかおかしな事になってるが、新人の紹介も終わったし解散にする!」

「えー!!助けてよ!!」

「まー、とって食われるんじゃないんだ。ベリーの事は任せるよ」

「えーーー!!」


 変な子供と思っていたが、その時の慌てようは普通の子供のようだった。あくまでその時はだけどね。

 そして、真夜中あの子供が私の所にやってきた。まぁ、理由は私も大体察していたけどね。恐らく私の姉の件がらみだろう。


「子供はもう寝る時間だろうに、何しに来たんだ?」

「それが、伝書梟ってやつ?」

「そうだが、その口ぶりだとこっちの仕事の事も聞いていたわけか」

「まぁね。だからこのタイミングを狙って来たんだけどね」


 姉から話を聞いてるなら知っていても不思議は無い、か?

 子供に教えるような話でもないはずなんだけどね・・・・・・。


「ああ、そうだよ。この梟で定期的にこの島の情報を外に伝えているのさ。それより、ベリーはどうしてる?ずっとべったりだったろう?」

「今は寝てるよ。寝る直前まで放してくれなくて、ちょっと焦ったけどね。それに、子供扱いは慣れてるけど、流石に赤ちゃん扱いは対応に困ったね。ベリーさんは僕をどっちだと思っているんだろうね?」

「両方だろうさ。母親からしたらどっちも同じ子供だ。対応がごっちゃになっているのは、精神的に病んでしまった影響だろうね。まともではないだろうけど、それでも悪い子ではないんだ許してやってくれ」

「まぁ、べったり過ぎだけど嫌いじゃないからいいけどね。僕好みの大きさだし」


 そう言ってその子供は胸の前で手で胸の大きさをジャスチャーしてた。子供とはいえ男だなぁーと思ったね・・・・・・。あと、そんなに大きいのがいいのか!と、言いたくなったがなんとか堪えた。


「見た目のわりにマセてるね」

「僕は見た目以上に経験豊富だからね」

「はぁ?」

「こっちの事だから気にしないで」


 コイツは何を言ってるんだろうと思ったが、ペンを持った手を動かして報告書を書き上げた。

 そして、それを梟の足に取り付けて飛ばした。


「あー、飛ばすのやってみたかったのに残念」

「諦めな。どの道あの梟は覚えさせた相手の言う事しか聞かないから。それよりだ、そろそろそっちの訳とか聞かせてくれないか?そっちの事情とか分からない事が多くてね」

「確かに、まだ何も言ってなかったね」


 そして、この子供から聞いた話はホントかウソか疑ってしまうような事ばかりだった。

 勇者の剣を折ってしまったから一人で勇者を探す旅に出たとか、魔族や魔獣すら勇者探しの対象にしてるとか・・・・・・。


 そしてなにより・・・・・・。


「はぁ!!自分からこの島にわざと来ただって!?」

「そうだよ」

「・・・・・・馬鹿としか言いようが無いね。ここは犯罪者の島だ。こんなとこに勇者なんているわけ無いだろう」

「それ確かめたの?」

「それはどういう意味だ?」

「そのままだよ。いないって言うけど、確かめないと分からないじゃないか。聞いたよ?ここに来た人の中には冤罪で送られた人もいるらしいって。ならやっぱり確かめないとじゃないか。あはっ、あははははっ」


 その笑い方にはゾクっとするものがあり、一瞬ではあったがその目からは生気というか光というかそういうのが失せていた気がした。星の光を頼りに書いていたくらいだし、辺りが暗かったからかもしれないけども。


「どうにもあんたは普通の子供じゃないね。どこか狂気じみた物を感じたよ」

「なかなか鋭いね。でも、これのおかげで僕は強くなれたんだよ」


 狂気で強くなった?意味が分からない。


「・・・・・・まぁいいか。それで、私のとこに来たがったのはなんでだ?」

「それは話の分かる協力者が欲しくてね。この島の犯罪者全員を確かめないとだし、いる場所や人数なんかも知りたいからさ。この島で調べて報告してたんでしょ?」

「まぁ、そうだね」

「あと、この島から出る時にも協力してほしくてね」

「それは無理。海龍をどうにかしないと無理だ」


 この島を無事に出る算段があって来た訳じゃない?

 だとしたら残念だが、私自身この島を出る方法を知らない以上この子供はこの島で一生を過ごす事になるね。


「海龍はこっちでなんとかするからいいんだ。お願いしたいのは島を出る為の小船と、次の報告で僕が帰る日と海龍を追い払った後の僕を回収する船の要請をして欲しい」

「海龍をなんとかって・・・・・・」


 正直信じられなかった。

 大型の船ですら一瞬で沈めてしまえる程の巨体、水中での動きも早い。おおよそ人間が太刀打ちなど不可能に近い。


「だからお願いできないかな?」

「・・・・・・分かった。小船の用意と回収の要請でいいんだね?」

「お願いするね」


 となると、明日にでも伝書梟をこっちに飛ばすように合図を送っておく必要があるね。それと小船の方は、オーグにでも頼んでおくとしよう。


 あとは・・・・・・、正直聞くのが怖い。今まで伝書梟の報告書の中でも書いた事は無かった程だ。


 感謝してくれてるかもしれない。

 私に対して怒っているのかもしれない。

 私を島流しにした事で自分を責め続けてるかもしれない。

 それとも、勝手な事をした私の事を無かった事にして、忘れて生活してるかもしれない。


 可能性をいくつも考えて頭に思い浮かべた。けど、悪い可能性の方が多くて怖くなってしまっていた。

 しかも怖い上に気になって頭から離れてもくれなかった。


 もし、私が聞く可能性のあるチャンスは恐らくここだけな気がしていた。だから私は思い切ってそれを目の前の子供に尋ねることにした。


「さ、最後に、一つ聞いていい?」

「なに?」

「・・・・・・私の姉は・・・・・・、その。し、幸せそうだった?」


 ほんとは勝手な事をした私をどう思っているのか、聞きたかった。だが、やっぱり怖くて違うことを聞いてしまっていた。

 だが、それでいいのかもしれない。あの子が幸せなら私が島流しになった意味も理由も満たされるのだから。


「幸せそうでしたよ。結婚もしてて2人目の子供の出産も近いみたいでしたから。あとこれは伝言ですね。『身代わりにさせてしまってごめんなさい。お姉ちゃんのおかげで、私はこんなにも幸せな生活を送れています。出来ればこの幸せを共有したかったです・・・・・・。お姉ちゃんありがとう!大好きです!!』だってさ。でも変だよね。姉なのに妹みたいな事言うしね」

「そ、そうか・・・・・・。幸せになれたんだね」

「手が震えてるけど大丈夫?」

「少し冷えただけさ。悪いけど、ひ、一人にしてくれるか?」

「そういう事なら、先にお休みさせて貰うね」


 子供が自分の寝床に戻っていくのを、震える両手同士を握らせて押さえつけながら耐えた。

 私の耳に、子供の足音が遠ざかり聞こえなくなると、ポタ、ポタ、と水滴が落ちた。当然だけど、空には満点の星空が輝いているから雨じゃない。

 私はもう堪えきれなくなって、耐えていた感情が爆発したかのように泣いてしまっていた。それも一晩中・・・・・・。

 出る涙すら無くなった頃には、不安も怖さも一緒に無くなってて少し強くなったようなそんな感じがしていた。


 一睡もしてなかった私は夜が明けた頃に眠気に襲われ、次に目が覚めたのは昼頃だった。こんな事を兵士時代にしていたら丸一日食事を抜かれた上で、一日中トレーニングのオンパレードで、全身筋肉痛の刑に処されるがこの島ではこの手の事はむしろ普通。

 なんのお咎めもないのは気楽でいい事だった。


「それで、これは何をやっているんだ?」


 私が作業場に行くとあの子供とベリーが追いかけっこでもするかのごとく走り回っていた。


「きひっきひひっ。えっとねぇ、お着替えだよぉ」

「だから、そんなのしないでいいって言ってるじゃないか!ねぇ、止めてよ。ベリーさんがそう言って僕の服を脱がそうとして来るんだよ!」


 あーなるほど。ベリーは赤子と子供両方ごちゃまぜの対応をするんだったね。

 普通に考えれば、この歳の子供なら自分で着替えて普通だが・・・・・・。


「面倒だし、着替えさせられてやればいいじゃないか。減るもんじゃないし」

「えーーー!!」

「きひひひっ!すきありぃーーー!」

「ぎゃーーー!!」


 私に抗議の声を上げようとした子供にベリーが後ろから抱きつき、勢いよくズボンを下着ごと下ろした。

 というかそっちから脱がすのか!!


「まさに子供って感じで可愛いもんだね」


 まぁ、見えてしまったのだから仕方ないがそれは小ぶりだった。


「ぎゃーーー!!男の尊厳がぁぁぁ!!」

「かわいぃかわいぃねぇ。きひひっ」

「可愛い言うな!!」


 私はそのままその場を後にして、あの小ぶりの子供に頼まれた件を済ませる事にした。


「えーーー!助けてくれないの!!」

「頑張れポークビッツ」

「誰がポークビッツだよ!!」

「きひひっ。さぁお着替えしよぉねぇー」

「うがーーー!!」


 後ろから聞こえてくる会話はこの島ではありえないくらい明るくて楽しそうだった。


 その日の夜の事だ。

 また私の所に伝書梟が飛んできた。私の所にとは言っても、梟が私を見つけて飛んで来るわけではなくて、私が寝床にしている所の近くの木に赤い目印をつけていて、そこに飛んでくるだけなんだけどね。


「それで、あんたはいつ帰るんだ?」

「小船が出来次第かな?そっちはいつ頃になりそう?」

「あと2日もあれば出来るだろうね。あいつは無口だが仕事は速いからね」

「じゃぁ、それで。でも凄いね小船とはいえそれで出来ちゃうなんてね。この島じゃ釘とかもだいぶ貴重なんじゃない?」

「あいつは釘とかは使わないよ。ギチギチに木を組んで嵌め込んで作るんだよ。あと、この島で使われる金属は鉄じゃないんだ。私もよく分かってないが、溶ける温度が低くて加工しやすい金属がこの島では取れるみたいなんだよ」

「なるほどね」


 私はその子供の帰る日に合わせた船の手配を要請する旨を書き、伝書梟を飛ばした。


 そして次の日事だ。

 私が作業場に行くと恐れていた事態が起きていた。


「ねぇ、バルガのとこを抜けたと聞いたけど。どうして、私の所に来なかったの?こんな弱小グループよりよほどいいと思うわよ」

「やっぱり女性ばかりの所に行くのは場違いな気がしたからね。同姓の人がいないと落ちつかないから」

「そう・・・・・・」

「ひぃっ!!」


 ベリーは子供を守りたいのか、怖がりながらも子供の体に手を回しガッチリと抱き寄せていた。だけど、その密着が気に入らないのか、女豹は服に付いた毛虫を見るような目でベリーを睨んでた。

 私は来たばかりで状況が把握出来てなかったが、早めに止めに入ることにした。


「何があったか知らないけど、もうその辺にしておいてもらえるかな?」

「チッ・・・・・・、心外ね。ただ私はその子を勧誘しに来ただけよ?無理強いもしてないわ」


 私が割って入った事に隠す様子も無く舌打ちする女豹に、イラっとくる物があったけど今後の事を考えると冷静に対処するしかなかった。残念だけどうちが弱小グループである以上は仕方なかった。


「それで、女豹のとこに行くのか?」

「僕はここで満足してるからね。移る気はないかな」

「だそうだが、まだ続けるのか?一応こっちも仕事があるんだけどね」

「仕方ないけど、ここは引かせてもらうわ。またね」


 はぁ・・・・・・。心臓に悪い。

 睨まれ続けるのも面倒だし、ある意味良かったかもしれない。この子供の予定では明日には島を出るつもりらしいからね。

 海龍の件はどうするのかという不安があるけども・・・・・・。


 そして、あの惨劇の起きた日になった。

 私が朝起きて作業場に行くと、ベリーが落ち着きなく右往左往していて何事!と思ったよ。


「ベリーどうしたんだ?」

「わ、わたぁ、私の子供がいないのぉ!」

「落ち着け。トイレにでも行ってるだけだろう?そのうち戻ってくるよ」

「ひ、一人でぇトイレなんて心配ぃ・・・・・・。さ、探さなきゃぁ!!」

「探さなくていいの!!」


 たとえトイレでも子供を一人にしたくないようだった。正直心配しすぎだけど、子供を亡くした時のトラウマでもあるんだろうね。その場に私がいれば助けられたはずなのにってさ。

 ま、分からない訳でもないけど、多分あの子供は今頃は勇者探しってのをしてるはず。ベリーがいたら邪魔にしかならないだろうし私が止めておかないとだね。


「そんなに心配なら、私が探しに行くから。ベリーはここで仕事をしててくれ」

「わ、わたしぃも探しにぃ・・・・・・」

「ダメだ。ベリーは男嫌いで女豹も怖いんだろ?この島で捜し歩くのは無理だ」


 ベリーはしぶしぶ納得してくれたようで、トボトボと歩きいつもよりも遅い手つきでチクチク服を縫い始めた。サイズからみてあの子供に着せるつもりなのだろうと思われた。

 あの子供は探すとすぐに見つかった。


「やっと見つけたよ」

「僕を探してたの?」

「ああ、ベリーが探しに行こうとしてたからね。止めるように言って変わりに私が探す事になったんだよ」

「ベリーさんがいたら勇者探しが出来ないからね。助かったよ」

「で、その勇者探しとやらは順調なのか?」

「順調だね。もう島の半分くらいの人は調べ終わったよ」


 しかし、この時は思いもしなかった。勇者探しがあんな惨劇を生むものだとはね・・・・・・。

 私と子供が戻ると、なぜだかベリーの姿がなくなっていた。それも、縫いかけの服を放ったまま。


「・・・・・・ねぇ、これって・・・・・・」


 子供が一枚の薄い木の板を拾い上げていた。

 私はその板に嫌な予感を覚えつつ目を通した。すると、その板にはこう書かれていた。


 『子供は俺達が捕まえた。返して欲しければボンポの所まで来い』


「この字・・・・・・。ボンポの奴が書いたとは思えない。女豹のとこの部下の字だと思う」

「それって・・・・・・」

「ああ。間違いなく女豹のやつが何かするつもりだ・・・・・・」


 私が恐れていた事態だった。この島では強い奴が弱い奴を痛めつけたり殺したりなんて事が起こりやすい。元々ベリーの精神的な状態もその被害によるものだ。


「急がなきゃ!」

「・・・・・・行ってどうする?」

「それは・・・・・・、どう言うこと?」

「私達は弱小のグループだ。女豹のグループにも、ましてやこの島のボスのボンポもなんてもうどうしようもない・・・・・・。下手をしたら他の子まで何かされるかもしれない」

「大丈夫だよ。女豹も島のボスも僕が倒すから」

「で、できるのか!?」

「できると思う。それにベリーさんは変な人だったけど、嫌いじゃなかったからね。お世話になった恩くらい返して帰りたいしさ」


 これが、あの惨劇の始まる手前までの話だ。ベリーが無残に殺された現場を見たあの子供は人が変わったかのように笑い、ボンポや女豹それとその手下達を次々とあの銀色の指輪の餌食にしていった。

 あのおかしな技も凄かった。向かってくる相手の指に素早く指輪を嵌めその指輪を握り、指ごと放り投げていた。放り投げられる過程で指輪から指が抜けるが、その指はあらぬ方向へ曲がり相手を悶絶させていた。負うダメージに差があるようだったけど、それは指輪の効果らしい。


 そして、敵討ちを終えるとそのまま島中の罪人にあの指輪を嵌めていった。私もあの指輪を嵌めたが痛くもかゆくも無かった。もっとも、笑いながら指輪を向けられた時は恐怖で腰を抜かしそうになったけどね。


「ほんとにあの海龍をどうにかできるのか?」

「出来ると思うよ?それにドラゴンが人の姿になって世界を救う話もあるしね確かめないと」

「あの海龍にまでそれやるつもりなのか!?」

「そうだけど?」


 私の常識の範疇を超えすぎていて、何を言っていいか分からない状態だ。

 そんな私を尻目にバルガが子供に声をかけた。なぜバルガいるかと言えば、バルガも私と同じように指輪をつけても何とも無かったらしく、島を出るという話を聞きそれを見に来たらしい。


「ボスを倒したなら現状お前が島のボスの筈だ、島を出て行くつもりなら次のボスを指名してくれるか?」

「えー?面倒だなぁ。じゃ、ガルザーさんで」

「なんでガルザーなんだよ!」

「フェリスさんがやりたいの?」

「いや、やりたくはないね」

「なら決定だな」

「バルガはそれでいいのか?」

「興味ないな」

「そ、そうか・・・・・・」


 バルガがボスなら暮らしやすくなりそうな気もしたが本人は興味なしか。

 私が残念に思っているとあの子供は小船に乗って海へと漕ぎ出していった。


「ベリーさんの事、丁重に埋葬してあげてねー!」

「わかってるよ!そっちこそ!海龍にやられないようにな!」


 途中で例のごとく海龍が現れたが、海龍が子供と共に一瞬消えた。そう思ったら再度現れたんだが、あっという間にあの海龍が逃げ出していった。何をしたのかはまったく分からなかった。

 そして私が要請したと思われる船に子供は回収されて行った。


 これが、この島で起きた惨劇と私の個人的な事情の話だ。


 あの子供は一体何者なのか、気になって伝書梟を経由で聞いてみたら指輪の悪魔とか勇者を探す亡霊とか呼ばれてるらしく、余計に私の頭を悩ませた。

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