[1e]ある国の姫の証言
勢いと悪乗りで書いた。すまない。
私はガルーティア国の姫のシルフィリー・オルド・ガルーティア。
自分で言うのは恥ずかしくもあるのですが、容姿端麗でダンスやピアノ、歴史や経済に外国語も学びおよそ姫の名に恥ずかしくないよう精進してきました。
夢は素敵な勇者様に見初めて貰い、幸せな暮らしをする事でした。
ですが、生まれた時期が悪かったのでしょう・・・・・・。
我がガルーディア国のとなりにあったベスティア国に封印されていた魔王が復活し、私は魔王に攫われてしまったのです。
そして私の予想も出来ないような恐ろしい目に遭ってしまったらしいのです。
お恥ずかしい事にその時の記憶はほとんどないのですが、思い出そうとすると体の震えが止まらないのです。
これは私が言葉にすら言い表せないような、世にも恐ろしい目あう話です。
「しっかしの~。近くの魔王が復活して悪さして、あちこちの国で勇者はどこだ~って探し回ってるこの時期に旅とはの~。あんた相当変わってるの。うっかり魔王軍や魔獣や魔族と出遭ったら怖いだろうに」
「いえ、死ぬ気になれば怖くなんてないですよ」
「わっはっはっは。あんたやっぱり相当変わってるわな」
私は良く知らないのですが、これは後に国の総力を上げて調べさせた報告書の話です。
魔王軍や魔族や魔獣が活発化していたベスティア国周辺を、ある男の子が旅をしていたらしいです。
とても奇妙な話ですよね?
だって男の子ですよ?同伴する者もなく11~12歳程と報告書にはありましたが、男の子が危険を省みず旅をしてるのですから。
その男の子を途中で馬車に乗せたらしい行商人のおじいさんも、不思議には思ったらしいです。ただ、男の子とはいえ子供をそのまま放っておくのは良くないと思って馬車に乗せたとか。
一国の姫としておじいさんの行動は、褒めるべき行いだと私は思います。
「あのー、変な事を聞きますが勇者さんってどこに居ると思いますか?」
「勇者?そりゃぁ、魔王が復活して暴れてるんだし近くに現れるんじゃないかい?」
「その近くってどこだと思います?ベスティア国は大体見て回ったんですがいないようなんですよね・・・・・・」
「そうさなぁ・・・・・・。案外魔王城の中にいたりしてな。ってそんなわけないわな!わっはっはっは」
「あはっ。そ、そうか・・・・・・。それは盲点でした。あははははははははははっ!魔王の城なるほど!あはははははははははははっ!」
「い、いきなり笑い出してどうしたんだい?」
「ああ、ごめんなさい。でも、とても参考になりました。・・・・・・とても」
「よ、よく分からんが手助けになったら良かったよ」
「あのー、手助けで思い出したんですけど・・・・・・」
「ん?なんだい?」
「ちょっと、手を貸してもらっていいですか?」
「あ、ああ・・・・・・」
おじいさんはこの時、この男の子が普通ではないと感じたらしいです。
ですが、何も悪い事をしていない男の子を疑う事はよくないと思い、恐る恐る右手を差し出したそうです。
この後、男の子はおじいさんの右の人差し指にぎ、銀色のゆ、指輪を何度かぬ、抜き差しし、したらしいのですが・・・・・・。
こ、怖いです!よく分からないけどとても怖いです!
「やっぱり、このおじいさんも違うか・・・・・・」
「も、もういいかの?片手だと馬車を操るのが怖いんじゃが・・・・・・」
「ええ、邪魔してごめんなさい。もう大丈夫です」
報告書にはとくに異常はなかったそうですが、う、疑わしいです。
なにせ、恐ろしい事に一度ではなく何度かですしね。
私はおじいさんが心配でしたので、途中で読むのを止めてお父様に話をしに行ったのです。
あのおじいさんは病室で厳重に隔離して経過をみるべきではないかと言ったのですが、お父様には却下されました。病気なのはお前の方かもしれないと、あらぬ疑いまで掛けられる始末です。もうプンスカです。
ただ、意味深な事に後にお父様は気持ちは分かるとだけ言ってましたね。
「で、ここが魔王の城・・・・・・」
男の子は魔王城に近い町で馬車を降り、魔王城について聞き込みとゆ、指輪をは、嵌める作業をし向かったそうです。 この報告書の非常に疑わしい部分ですね。
男の子が魔王城に向かったなんて・・・・・・。
この報告書が事実なら、私はこの男の子が実は悪魔か何かじゃないかと疑ってしまうほどです。いえ、なぜでしょう?それが普通と言うか、妙にしっくりくるような気が・・・・・・。
き、気のせいですよね?ね!
「おい!人間のガキがいんぞ!逃がすなよ!とっ捕まえて生贄にしてやろうぜ!」
「ひぃふぅみぃ・・・・・・。ざっと20人弱か、この中に勇者さんっていたりするのかなぁ・・・・・・。あははははははっ!」
「な、何言ってやがんだこのガキは?」
「落ち着け。元々魔王様の城にまで来たガキだ。ただのガキだと思うな!何かたくらんでやがるに違いねぇ!」
「「お、おう!!」」
「ん~。誰が勇者なんだろう。あの小柄な肌色の悪い人かな?あの2本角のでっかい人かな?それともあの猫又のお姉さんだろうか?」
「気味の悪いガキだ。俺が食ってやる!」
「それとも、このでかい鬼の人かな?」
男の子は鬼の振り下ろした棍棒をひらりとかわし、ぎ、銀のゆ、指輪を取り出し鬼の手の小指に強引に嵌めたそうです。
「な、何をしt・・・・・・。ぎゃぁぁぁぁぁ~~~~!!」
「違ったみたいだね。じゃぁ、次だ」
「お、おい・・・・・・なんだ、あのガキは・・・・・・」
下っ端とはいえ魔王の城を守る魔族と魔獣達にどよめきが走った・・・・・・。え~と、これどうやって調べたのかしら・・・・・・。
も、妄想が入ってない?大丈夫なの?
と、とりあえず続きを読むわね。
「指輪を嵌めただけだよ。ただ、悪い人が身につけると大ダメージを食らうらしいけどね」
「お、おい。あ、あのギリーの兄貴があの指輪程度で一発で伸びちまうなんて・・・・・・」
「落ち着け!あの指輪の大きさを見ろ!恐らく俺のような大きい指のやつなら安全なはずだ!囲んで畳み掛ける!!」
男の子は目の前の指揮をしていた、斧を握った指の太いリザードマンとおぼしき魔族に狙いを定め近付いた。
「このガキが!し、しねぇ!!」
「ひょいっと!ねぇ・・・・・・。安心してね」
「な、何をだ!!」
「指輪が入らなければ、要らない部分を切ったりして小さくすればいいだけだから」
「安心できるかーーー!!しねぇぇ!!!!」
男の子は再度振り上げ振り下ろされた斧をたやすくかわして、リザードマンの懐に入り込んで上目遣いで顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。だって、何度もしてるし・・・・・・」
男の子は笑顔で言った。
「慣れてるから」
「ひぃ~~~~!!!!!!」
リザードマンの顔は恐怖で染まった。何度も必死に斧を振り回すが、男の子に当る事もなくやがて斧が地面に深く刺さった。
「く、くそぉ・・・・・・。全然あたらねぇ・・・・・・」
「んじゃ、この右手の小指借りるねぇ・・・・・・」
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
男の子は持っていたナイフで素早く小指を切り裂き、ぎ、銀のゆ、ゆ、指輪をは、嵌め指輪の端からは血が吹き出した。
ぎゃ~~~~~~~~!!
はっ!し、失礼しました。つい声が出てしまいました。
つ、続きを読みますね・・・・・・。えっと~、報告書って最後まで読まなきゃいけないのかしら・・・・・・?
「ん~、この人も違うか。部下を指揮するくらい人なら勇者さんの可能性あると思ったけど、やっぱり全員試さないとかなぁ?」
「「ひぃ!!!!」」
「よ、よく分からんが、よく見ろ!勇者を探してるんだろ!こんな紫の肌で角まで生えてるやつが勇者なわけないだろ!な、なぁ?」
「それがね、前の世界での話しなんだけど。ラノベとかの中には魔王がいいやつで勇者みたいに世界を救う話とかもあったしねぇ。可能性はあるんじゃないかなって思うんだよねぇ・・・・・・」
「ま、前の世界?ら・・・・・・、らのべ?」
「そうだよ。ラノベね。じゃ、君の手借りるねぇ」
「あ、ああ。えっ!あ、なし!!今のなしぃ~!!!!」
「ダメです。これもお仕事なので」
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!」
「「い、いやーーーーーーーーーーーーー!!」」
このあと魔族と魔獣達は雲の子を散らしたかのように逃げた、そう書いてありますね。
わ、私も逃げたいそんな気分になるのはなぜかしら。
「しょうがないなぁ。でもね、実は追いかけっこ・・・・・・」
男の子の目が鋭い光を灯した。
「超得意だから」
嘘か本当か、この後魔王城が阿鼻叫喚の地獄と化したらしい、です。
嘘ね。絶対妄想か何か入ってる気がするわ。
た、たぶんですけど。
なんとなく本当じゃないかって思ってしまった点は不思議ですけど、あり得ないわね。
た、たぶんですけど・・・・・・。
「どうやらお城の外には勇者さんいないみたいだねぇ」
男の子の視線は魔王の城に注がれていた。
「勇者さん・・・・・・ねぇ、そこにいるんでしょ?」
ばさぁー。
こ、怖いわ!何なのこれは!
・・・・・・ご、ごめんなさい。つい報告書を投げて取り乱してしまったわ。一国の姫としてあるまじき姿でした。
で、でもね。でもですよ?今、背中の辺りがですねぞわぞわーー!ってしたんですよ?仕方ないと思いません?
はぁ・・・・・・、分かっています。姫ともあろう者が報告書を怖がっていては、いい笑い者ですよね。
読みます。ええ、最後まで読ませていただきますとも。
「お、お願い!許して!!わ、私達は魔王に無理やり従せられてるだけなの!!」
「そっかー、それは可哀相だねぇ」
「そ、そうなの!だ、だから・・・・・・ね?」
「大丈夫・・・・・・。ちょっとだけだから、先っぽだけだからぁ」
「いやぁーーーーーーーー!!」
魔王の城に乗り込んだ男の子は、城の中の悪魔や魔獣まで尽く指輪の餌食にしていった。
城の騒ぎを聞きつけた四天王がとうとう男の子の前に現れる。
「城の中がやけに騒がしいなと思い来て見れば、ただの小僧ではないか」
「私、てっきり勇者でも乗り込んできたと思ったわ」
「侮るは早計・・・・・・。ただの子供がここまで来れる訳無し」
「そこのガキ、何しに来た?」
男の子の前に現れたのは、泣く子も黙る魔王の直属の配下である四天王。
死霊使いの最上級アンデッド、リッチのステルゴス。
魔術と魅了に特化した淫魔サキュバスのリリム。
元人間にして勇者候補と目された事もあった生鬼の刀剣使いガルアーノ。
四天王のリーダーにして、魔王の血縁でもあるカオスウォーリアのカドゥー。
ど、どれも一人で一国を落とせてしまうのではないかと言われる、脅威的な戦闘能力を持つ敵です。
私は魔王や四天王の怖い話を聞かされ善悪を学びました。それほど人々に知られている恐怖の象徴です。
「実は勇者さんを探してまして、ここまで来ました」
「勇者だと?バカを言うなここは魔王様の住む城だぞ」
「当然知ってますよ」
「なら分かるだろ?勇者などここにいる訳がない」
「あのー、それ試したんですか?」
「た、試すだと?」
「はい、そうです。いない事を証明するには試すしかないですよね?あはっ。あはははははははははははっ!!」
四天王にすらどよめきが起きた。
男の子とは思えないほどの狂気な笑いが四天王すらどよめかす。
「こやつ・・・・・・!我と同じ悪鬼の類か!!切る!!」
「あぶなかったー。早いなー・・・・・・。でも、この中だと一番勇者さんっぽいかも。・・・・・・イヒっ・・・・・・、イヒヒヒヒヒヒヒヒっ!!」
「ば、馬鹿なっ!人の身を捨てたこの我が恐怖を感じるだとっ!!ちぇぇぇい!」
ガルアーノは目にも留まらぬ速さで刀を振り下ろし、魔王の城その床が大きく切り裂かれた。
「ぜぇ、ぜぇ・・・・・・。や、やったか?」
「よく分かりませんが、とりあえず小指。・・・・・・お借りしますね」
「あ、あばばばば・・・・・・・・・。ぎゃーーーーーーーーーーーー!」
「んー。この人でもないんですかねぇ。いや、四天王ですしもう少し念入りに試しておきましょう。いひっ!イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
「や、やめーーーーーーーーーーーー!!!!」
男の子はガルアーノの小指に素早くぎ、銀のゆ、指輪を、5回程は、嵌めたり外したりした。
するとガルアーノの体が崩れ塵に・・・・・・、天に召された。
め、召された!?
「あー、ちょっとやりすぎましたね。でも、大丈夫です」
「な、何をだ・・・・・・」
「次はちゃんと加減しますから・・・・・・。あはっ!あはははははははははっ!!」
「「ぎゃ~~~!!」」
四天王の残り3人は逃げに転じたが、逃げる事叶わず。
一人残らず瀕死の状態で沈黙した。
あ、あの四天王が・・・・・・ま、まさかね。こ、こんなの嘘だわ。
い、いえ、本来であれば四天王が倒される事は喜ぶべき事のはず。なぜ、私はこの報告書を嘘だと決め付け、恐怖を感じてるのかしら?
それを考えると、か、体の震えが・・・・・・。
「いやッ!魔王の嫁なんてなりたくない!お願い!私の国へ帰して!!」
「諦めの悪いやつだが、気に入ったぞ!そういうやつが絶望する姿は実にそそるからな!」
魔王は隣の国から攫った姫、シルフィリー・オルド・ガルーティア様を部下に手足を押さえさせその白い衣服に手をかけようとした・・・・・・。
え、えーと、これ私ですね。なんとな~く、こんな事があったような気がしますが、ほんとにどうやって調べたのでしょうか・・・・・・。
ま、まさかこの報告書・・・・・・、全部本当の事だったりしないですよね?ね?
「ま、魔王様!!」
「なんだ騒々しい」
「侵入者です!じきにここへと来ると思われます!」
「我が四天王はどうした?やつらに迎撃させろ」
「恐れながら、四天王はすでに壊滅し虫の息!!ガルアーノ様に至っては死んだと思われます!!」
「なんだと!フハハハッ!どうやら勇者でも乗り込んできたか。想定より早いが、積年の恨み晴らしてやろうぞ!予定変更だ!その姫は地下牢にでも繋いでおけ!」
「「はっ!」」
「勇者はこの私が直々に相手をしてくれる。さぁ来るがいい勇者!!」
シルフィリー姫は地下牢へと続く通路に連れて行かれた、その直後。
「あのー。今勇者って聞こえたんですけど」
ひぃっ!
ご、ごめんなさい。またも、思わず声が出てしまいました。
でも、先程から緊張してるといいますか、謎の震えと心拍数が上がったような感じがしてまして・・・・・・。
なんと言いますか、嫌な予感めいた物を感じるのです。
「なんだ貴様は?子供などに用はないぞ」
「僕は勇者を探してる者です」
「勇者を探してるだと?よくわからぬが、勇者の追っかけとかいう奴か?」
「ん~?まぁ、そんな感じかもしれませんね」
「まぁいい。先程我が部下が勇者が城に侵入し、ここに向かっているという情報が入った。特別に我と勇者の戦いと我の勇士を貴様に見せてやろう!俗に言う生き証人というやつだな」
「いやぁ、ぶっちゃけ戦いとか、勇士とか、生き証人とか・・・・・・、どうでもいいんですけどね」
「何か言ったか小僧?」
「ああ、いえ何でもないです。あはっ、あははははははははっ!」
「どうした?何がおかしい子供よ」
「つ、ついに勇者さんに会えると思うと嬉しくて・・・・・・。あはっ!あははははははははははははははっ~!!やっとだ!やっと、やっと、やっと、やっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっと」
「こやつ、こ、子供・・・・・・なのか?」
魔王は直感でこの男の子が普通でないと感じたのか、その頬に一筋の冷や汗が流れた。
「嬉しいなー。ここに来て正解だったなー。あの商人のおじいさんにもお礼言わないとなー。この城の事を教えてくれた町の人にも感謝だね。でも、色々と嘘ついた人たちはどうしよっかー?あの人とかあの人とかまるで的外れな情報掴まされたしなー。別の意味でお礼しないとだねー」
「子供よ、もう少し静かに待てんのか・・・・・・」
「そう言えば、魔王さん」
「なんだ?」
「お礼とか感謝と言えばさ。勇者さんは僕に感謝するべきだと思いませんかー?」
「ど、どういう意味だ」
魔王は嫌な予感がしつつ、その意味を男の子に聞いた。
「だってー・・・・・・」
「だって?」
「僕が四天王までやっちゃった訳だし」
いやぁああああああああ!!あ・・・・・・。
まって、まって。ねぇ待って報告書・・・・・・。ステイ、ステイしててね報告書さん。
わ、私ちょっと御花を摘みに行ってくるわね。
け、けっして漏らした~とか失禁した~なんて事はないんだからね!ほ、ほんの少し出そうになっただけなんだから!せ、セーフなんですからね!!
しばらくお待ちください。
お待たせしてごめんなさい。ちょっとばかり着替えをしたので遅くなりました。
寒気とか体の震えたりしたので、暖かい服に着替えただけです。変な妄想は、よしてくださいね!私の品位に関わりますから!!
「馬鹿な!我が四天王が貴様のような子供に倒されるはずがなかろう!!四天王がやられるくらいだ、相手は勇者に決まってるだろ馬鹿者が!!」
「あ、あれれれ・・・・・・。も、もしかしててて・・・・・・、ここに、ここに勇者さんがいるって・・・・・・」
「ま、魔王様!そいつです!その子供が四天王を倒した侵入者です!!」
「なんだとっ!!」
姫を地下牢に連れていった部下の一人が、魔王のいる部屋まで戻り驚愕の事実を告げた。
四天王含めて魔王の城を警備していた部下、魔王の城にいた多くの部下達が目の前の男の子に倒されたと言うのだ。
魔王は嫌な予感を感じつつ男の子から距離を取り警戒する。
「ま、まままままま・・・・・・。魔王さん」
「な、なんだ・・・・・・」
「嘘・・・・・・ついてたたたんですか?」
「なにやら、薄気味の悪い奴よ!しねーーーーーー!!!」
魔王は黒い雷を纏った球体を十数個を一度に男の子に向けて飛ばした。
球体は男の子がいた辺りで弾けて爆発した。
「やったか?」
部屋が魔王の攻撃によって崩れ、天井から屋根がガラガラと音を立てて落下した。
生死は分からない。普通なら死んでいて当然の威力だった。
魔王は胸を撫で下ろし、男の子のもつ狂気によって心の中に出来そうになった恐怖をなかった事にした。
「ま、魔王様後ろです!!」
「いるって言ったじゃん勇者さんがさぁ・・・・・・。いないの?勇者?隠してるんじゃない?勇者。どこにいるのさ?勇者・・・・・・」
「な、なんだとーーー!!」
男の子から黒いオーラのような物が立ち上がる。
「そ、そうだ。うん、そうだ、きっとそうだ」
「な、何を言っている!!」
「魔王さんが勇者さんなんでしょ?あはっ、あはははははははははははっ!!」
男の子はターゲットをロックオンし回り込み、相手の右手の小指にぎ、銀のゆ、指輪をは、嵌めた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
「ほらー、魔王さんの部下はやっぱり勇者さんじゃないし。やっぱり、ねぇ?そうなんでしょ?魔王さん・・・・・・。いや、勇者さん。イヒっ!イヒヒヒヒヒヒヒヒっ!!」
「わ、わ、われは違う!!ゆ、勇者じゃない!!」
倒れ逝く部下とその叫び声を見聞きし、魔王の心は完全に恐怖に染まった。
「そ、それに。な、なぜ勇者を探す?」
「決まってるじゃないですかー。悪さをする魔王さんをどうにかしてもらう為ですよー。イヒっ!イヒヒヒヒヒヒヒヒっ!!」
「分かった!分かったから!も、もう悪さはしない!だ、だから、な、な?」
「そんな事知りませんよー。そういうのは上の人に言ってくださいよー。僕は探すよう言われてるだけなんですからー。アヒャっ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャっ!!」
「上・・・・・・、だと!!上って何?お前の上なんてあんの?どんなバケモノ?話し通じるんですかー!!!!」
「アヒャっ!アヒャヒャヒャヒャヒャっ!!」
「いやーーーー!こ、来ないでくれーーー!!」
男の子は魔王にゆっくり一歩一歩近付いていく。
「な、何でもするから!な、なんなら、もう1000年くらい眠っちゃうから!!な!!ね!!お願い!!!!」
「アヒャっ。・・・・・・何でもするんですか?」
「あ、ああ!も、もちろんだ!!」
男の子は足を止めてしばし考える。
「ど、どうだ?悪い話ではなかろう?な?」
「確かにいい話ですね」
「だ、だろ。で、我に何を望む?」
「大人しく試させてください。アヒャっ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「イーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
魔王の断末魔がその日近くの町にまで響いたらしい・・・・・・。
おお、魔王よこんな所で負けるとは情けない。じゃないわよ!!
え?嘘?ま、まさか魔王まで負けたのですか・・・・・・?信じられない・・・・・・。
そ、そういえば、わた、私はこの後どうなったのかしら。
パラ・・・・・・。
うっ・・・・・・。紙の端を捲って見ると、まだつ、続きが・・・・・・。
「うーーん。どうやら魔王さんも勇者じゃないみたいですね。もう十回は指輪を付けたり外したりしてるのに・・・・・・」
じゅ、十回もなんて!なんてお恐ろしい・・・・・・、まるで拷問ようだわ。
あれ、何かおかしいわね。
そういえば、私はなぜ指輪が恐ろしいのかしら・・・・・・。付けたり外したりするくらい何も怖いわけないのに。
「ああ、まだ探してない箇所がありましたね。あはっ」
男の子は地下牢へと続く通路を見つめていた。
お、お、落ち着くのよシルフィリー・オルド・ガルーティア。私は姫、そして今は無事にガルーティア国にいるじゃない。それがすべてよ。
そう、これが真実であれば、この男の子はわた、私の恩人な筈だわ。
怖い事なんて何もないはずよ!
「お父様。お母様。私はもう国に戻れないのでしょうか?」
冷たい地下の牢の中で両手首を壁の鎖に繋がれ座る事も出来ず、体重の負荷がかかる鎖に繋がれた手首は、短い時間ながらも赤くなり痛みを伴っていた。
「できれば、私の憧れのあなたにお会いしたかったです。・・・・・・勇者様」
「勇者・・・・・・。今勇者って聞こえたんですけど!!あはっ!あはっははははははははははは!!」
はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。
落ち着くの私。こんな事で負けてはいけないわ。も、もう過ぎた事なの。
いえ、これは嘘、偽の報告書。イタズラなのだから大丈夫よ。
そ、そうに違いないわ・・・・・・!
「あ、あなたは誰?いえ、この際誰でもいいわ!私をここから逃がして頂戴!」
「ええ。いいですよー。どの道この牢の鉄格子を開けないと試せませんしね」
「試す?ですか?」
「そうです。試すんです。それより!先程勇者って聞こえたんですけど勇者って!どういうことですかぜひ聞かせてくださいよ!!」
ガン!ガン!ガン!
男の子はシルフィリー姫の牢屋の鉄格子を掴み揺らすようにし音を鳴らし、興奮した様子で勇者について質問をした。
「え、えーとですね。私は一応姫という立場でして、姫を助けに現れる勇者様に憧れていて・・・・・・」
「なるほど、つまりここで待てば勇者さんが勝手に現れるという訳ですね?」
「え?あ、えーと、だったらいいなという話でして流石にそう都合よくはないかと・・・・・・。なので逃がして欲しいなぁ、と」
「つまり今の話は嘘だと・・・・・・?あはっ、あははははははははは!ウソ、嘘?嘘かよ嘘かよ嘘かよ嘘かよ嘘かよ嘘かよ嘘かよ嘘かよーーーーーーー!!」
シルフィリー姫は男の子のその様子を見て言葉を失った。
この男の子は普通じゃなかった。
「やっぱり試さないとだね。みんな嘘ばかり言うから信用できない、確かめないと」
「・・・・・・何を確かめるのですか?」
「この指輪は勇者さんの持ち物らしくてね、勇者が身につけると黄金に輝くらしいんだ。だからさ、これで勇者を見つけるのが僕の仕事・・・・・・。仕事の為にはー、まずこの鉄格子どうにかしないとなぁ。あはっ!あはははははははっ!」
「ひぃっ!・・・・・・そ、そのー、鍵がないと開かないと思うのでお帰り頂く訳には・・・・・・」
「もちろん、確かめたら帰るよ?あはっ!あははははははははははっ!」
「ひぃっ!」
「おい!そこの人間の子供何をしている!!」
「あ、あの!そこの魔族の人!私を助けてください!」
「コイツは何を言っているんだ?」
牢屋を管理していると思われる魔族が現れた。
「姫を助けに来た・・・・・・?も、もしかしてキミが勇者さん?かな??なぁ、そうだよね?ね?」
「はぁ?コイツも何言ってんだ?」
「この人姫らしいんだけど、それを助けに来たんだよね?もう勇者さんでいいよね?イヒっ!イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒっ!!」
「助けを求めておいてなんですが、さすがに肌の色もつやも顔も悪い勇者はちょっと・・・・・・」
「よくわかんねぇが!おれの事いってんのかゴルラァ!!」
「そうだよね。よくわかんねぇからさ、確かめさせてね。いひっ!イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒっ!」
「何を・・・・・・、ぎゃ~~~~~~~~~~~~~!!」
男の子は牢屋の管理をしていたと思われる魔族の右手の小指にぎ、銀のゆ、指輪を3回ほどは、嵌めたり外したりした。
魔族はガルアーノのときとは違い全身からどすグロイ血を吹き出して死んだ。
その光景を見たシルフィリー姫は恐怖で錯乱した。
「そ、そ、その指輪をわ、私にも?」
「もちろんですよ。あはっ!あははははははははははははっ!」
「や、やめましょう?ほ、ほら、この頑丈でとても強そうな鉄格子がありますし、か、鍵もないのでしょう?」
「それがですね?」
「え?」
「この魔族が持っていたようなんですよ。あはっ!あははははははははははははっ!」
この後シルフィリー姫は気絶し、後に改心した魔王によって城まで送り届けられた。
その時に魔王は妙な事を言った、なんでも悪さはもうしないから勇者を探すのを辞めて欲しいと懇願したと・・・・・・。
え、えーと。その何と言いますか。
はっきりとは思い出せないのですが、私の出てきた部分は事実なきがしますね。
非常に認めたくないのですけどね。
できれば、もう二度と会わない事を願います。
私ははため息をつき、お城のテラスで目の前のテーブルに無造作に報告書を投げ椅子に座ったのです。
「しかし、あのような方が、探し回っているなんて・・・・・・。苦労が多いのですね勇者って」
「あのー、今勇者って言ってませんでした?」
「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!」
この時私は見逃していたのです。最後の行にこう書かれていたのを・・・・・・、
『魔王城でベスティア制覇かー・・・・・・。次はどこ行こうかな?そうだなここから近いガルーティアにでも行こうかな』
と、男の子が言ったであろう言葉が書かれていた。
お恥ずかしい事に、私はこのあとショックで寝込みました。
厳しい世の中を知らなかった、無知で勇者の花嫁を夢みていた私は跡形もなく消え去ったのです。
それから私は、勇者という物に何も魅力を感じないそういう姫になりました。
だって勇者様の影にあの男の子がいそうで怖いじゃないですか・・・・・。
ちなみに、あの報告書は魔王の協力もあって作られたものらしいです。魔王が持っていた過去を見る事ができるという鏡などを使って。