第7話 前準備
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「それでこれからどうするんです?マコト様」
「様はやめろ、ディア。俺は冒険者ギルドの方に行ってくる。一応の身分証は取っておきたい」
「成程、それなら私は泊まっていた宿に荷物を取りに行きますかね。そこまでの量はないですけど」
「わかった。ならそれぞれ用が済んだらまた迷宮前に」
二人は迷宮を抜けて街に戻っていた。
時間は既に夕暮れ時のようだ。
迷宮から戻ってきたと思われる冒険者がチラホラと見える。
混む前に手早く済ませてしまおう。
そう思いディアと別行動をすることにした。
俺が向かうのは冒険者ギルドだ。
理由としてはギルドに登録することで貰える登録証が欲しいからだ。
これはギルドの勢力範囲ならば身分証として機能する比較的取りやすいものだ。
この街に入る時はあの騎士達がいたから大丈夫だったが、別の街へとなるとここで作っておかない手はない。
「すみません、冒険者登録をしたいんですけど」
「わかりました。それではこちらの用紙に名前と特技を書いてくださいね。パーティを組む時の参考材料になりますので。それと代筆が必要でしたら承りますが」
「大丈夫だ。代筆は必要ない」
「そうですか。それでは書き終えたら私に持ってきてくださいね」
ギルドの受付嬢から貰った用紙に誠は必要事項を書いていく。
この世界では日本語はないはずなのだが、【異世界言語】の技能のお陰で日本語を書いている感覚でこちらの言葉になっている。
いつぶりかの奇妙な感覚を気にしないようにして書き進める。
特技の部分は剣技とでもしておけばいいだろう。
無駄に手の内を見せる必要はない。
誠は書き終えた用紙をさっきの受付嬢にもっていく。
「これでいいか」
「……名前も特技の部分も問題はありませんね。大丈夫です。少々お待ちくださいね」
そう言ってギルドの奥の方に行ったかと思えば、2、3分程で銅色の板を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが冒険者登録証になります。始めは銅級からになりますが、依頼の達成や素材の納品等を一定数こなしますとランクアップがありますので」
「ありがとう」
冒険者にはランクがあり、それは登録証の色で判断される。
ランクは低い方から銅級、銀級、金級、白金級、魔鋼級、神鉄級の順になっている。
そしてこの中にはないランクではあるが、英雄級というものもある。
このランクに関してはギルド内での判断ではなることが出来ず、国からの許可が降りなければならない特殊なランクだ。
現状でこのランクなのは『剣聖』クライス・リーヴァのただ一人だろう。
本来ならば誠も『勇者』として数えられていたのだが、今となっては関係ないことだ。
取り敢えずの身分証を作り終えた誠は防具屋に行くことにした。
装備面に不安が無いと言うよりは、どちらかと言うと慣れの問題だった。
「どうもあのロングコートが無いと落ち着かないな。……あれだけのやつとは言わないが、似たようなものがあればいいんだが」
誠は近くの防具屋に入り、目当てのものが無いか物色する。
パッと見でわかるのは、革製の防具が主だった。
これは流石に探し物は見つからないかと思ったが、一応店主に確認をしてみる。
「なあ、革製の黒地のコートとかあったりするか?」
「ん? ……ないことは無いがそれなりに値は張るぞ?」
「それでもいい。あるなら見せてくれ」
「そうか、ならちょっと待ってな。……ほら、これだ。ブラック・ワイバーンの革を基本にして魔鋼蚕から作られた糸が編み込まれたロングコートだ。そこそこの属性耐性と魔力効率が良くなる」
「ほう?それで、幾らだ?」
「兄ちゃん、買ってく気か?それなら金貨3枚ってとこだな」
「少し高いな……そうだ、ならこれを買い取ってもらえるか?俺には必要ないものだからな」
そう言って異界倉庫にしまっていた騎士達の装備を取り出した。
その質は王国の騎士ということもあって、平均よりは高いはずだ。
「兄ちゃん倉庫持ちか、寧ろ俺はそっちの方が欲しいな」
「バカ言うなよ。それで買い取ってもらえるか?」
「それは問題ないぜ。それにしても質がうちの置いてあるやつよりも良いな。この質でこの量なら金貨1枚で買取でいいか?」
「もうそれでいい。ならそのコートは貰っていくぞ。金貨2枚だったな」
「ありがとよ、兄ちゃん!また来いよ」
「気が向いたらな」
手を振りながら誠は店を後にした。
「流石に同じレベルとは言えないがまだ使えるものがあって良かった。不良在庫も片付けられたしな」
誠からしてみれば十分という結果で終わることが出来た。
最も騎士達の装備は売ってしまったが、剣は1本だけ残してある。
神剣があるとはいえ備えは万全にしておくべきだ。
「ディアはもう戻ってるかな……と、もう居るみたいだな」
そこにいたディアの格好は大きく変わっているわけではなく、迷宮の時には無かったバックパックがあるくらいだった。
「来ましたね。随分と遅かったみたいですね」
「待たせたならスマン。それじゃあ宿でも探しますか」
「そうですね、行きましょうか」
誠達が来たのは迷宮に続く通りを1本それたところにある宿だった。
「2人で一部屋でいい。食事は無くてもいいから調理場を貸してくれ。幾らだ」
「なら1泊で銅貨5枚だ」
「わかった」
誠は二人分の銅貨10枚を手渡す。
それを宿主は1枚1枚数えて無言で誠に頷いてみせた。
「丁度だ。これが部屋の鍵だ。調理場は勝手に使ってくれ。井戸は外にあるから自分達で頼むな。……それと女と相部屋だからって愛部屋にはするなよ?」
「素直に礼を言おうとしたのにな。軽口は程々にしないと鼻凹ませるぞ」
「おぉー怖い怖い」
両手を上げて降参の意志を示す宿主だったが、それを見て更に殴りたくなった誠だった。
部屋についた誠はベッドに腰を下ろした。
しかしディアは誠の前に立ち止まる。
「すみません、マコト様」
「何がだ?というか様付けは辞めろって言わなかったか?」
「宿の代金ですよ。呼び方は試してみたのですけどこっちの方が落ち着くので」
「……もう好きにしてくれ。代金の方は別々に払うのは面倒だからな。それなら明日からのことを話しておこう。一先ずはあの迷宮の深くまで潜ることになる」
「迷宮……ですか」
「ちょっとこっちの用事があってな。嫌と言っても着いてきてもらうからな」
こっちの用事と言うのは勿論邪神のことだ。
こればかりは譲ることは出来ない。
「大丈夫です。私はマコト様がいる所なら何処へでも着いていきます。嫌と言われても」
「ならいい。そういうわけだから、ディアのステータスを見せてもらっていいか」
「私はマコト様のものなのですから好きにしてくれていいのですよ?」
言い方に何処か気になる部分が無いわけではなかったが、気にせずに【解析】を使ってディアのステータスを見る。
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ディア
HP283/283 MP174/174
レベル12
筋力207
体力218
耐久194
敏捷272
魔力245
魔耐257
技能
『剣術 lv1』『体術 lv2』『暗視 lv2』『隠密 lv2』『探知 lv2』『解体 lv1』『調理 lv2』
《素質》
【能力値補正】
成長補正:1.8
【魔法適正】
火属性:0 水属性:35 地属性:0 風属性:58
光属性:0 闇属性:29 無属性:27
系統外魔法:0
《契約》
『強欲』(眷属)
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意外にもディアの能力値は高水準だった。
技能は兎も角、成長補正と風属性の適正が高いのが目立つ。
そして契約に関しては眷属の扱いになっているようだ。
これがマモンが言っていた「力を貸す」という意味なのだろう。
「これぐらいなら普通にやる分には大丈夫だろう……普通なら、な」
「普通ではないのは今更ですよ」
「ならいいさ。それよりディア、装備や武器はどうするんだ?」
それは当然といえば当然の疑問だ。
ディアの今の装備は短剣1本だけにしか見えないのだ。
「私はこの剣があれば十分です」
「いや、それだと一発貰えば下手したら死ぬぞって意味だが……そうだ、ならこれをやる」
そう言って誠は自分が付けていた胸元だけのチェストプレートを脱いでディアに渡した。
「これは……」
「俺がつけていても使われることは殆どないからな。今のレベルならディアが付けていた方がいい」
「でも……それだとマコト様が」
「何度も言わせるな。わかったら体でも拭いて時間を潰していてくれ」
「……わかり、ました。それはそうと、マコト様はどうするのです?」
「俺は調理場にいって飯でも作ってくるさ。人が作ったものなんて信用出来ん」
そう言って誠は部屋を後にした。
「……マコト様は随分と過保護なのですね。それなら私はその期待に答えなければなりません」
誠から貰ったチェストプレートを膝の上に乗せて、ディアは囁く。
ひとしきりそうした後、ディアも部屋を後にした。
日常っぽいパート?