第3話 学術都市『フォレスティア』
三日連続で更新してますが、書き溜めはないので暫く開くと思います。結局新作も書き始めたので、いずれ投稿します……多分。
朝早くに出た俺達は、馬車を走らせながら朝食のサンドウィッチを食べていた。
中身はハムやレタス、スクランブルエッグ等だが、これら全てをディアが宿を出る前に作っていた。
あっさりとした味付けで朝でも食べやすく、ペロリと完食した俺とディアだが、ルーナはそうはいかなかったらしい。
「……もう、むり……うっ」
「そんな無理して食べることはないって言ったはずですけど……」
「……ごめん、なさ……っ」
やはり馬車酔いしてしまったルーナは半分も食べることが出来ず、それでディアに怒られると思っているのかひたすらに謝っていた。
ディアはどこか困った様子だったが、それは日頃の怒り方が悪いのではないかと密かに思っていると、
「……マコト様、何か変なことを考えませんでしたか?」
「……いや、何も」
「そう、ですか。ならいいのですが……」
……変なことを考えるのはやめておこう。
ディアは具合が悪そうにしているルーナを手招いて膝に乗せようとすると、ルーナも限界だったようで無抵抗で膝枕の餌食となった。
ここ数日ではお馴染みとなっている光景で、ディアの面倒みの良さが伺える。
膝の上に収まったルーナの頭を撫でていると、段々とルーナの目が細められて、瞼が降りてきた。
少し嬉しそうに顔を緩ませていることから、随分と気持ちがいいのだろう。
「……ディア、ごめん。ねむ、く……」
「えぇ、眠っていて大丈夫ですから、このまま続けますよ」
そう耳元で囁くと、ルーナは顔を紅潮させながら「……んっ」と答えて、すっかり身体をディアへと預けていた。
ルーナが悪さ……もとい変態行為をするとディアが怒るのだが、いつもはこうして仲の良い姉妹のようにしか見えない。
それに、ルーナは自分で何かをする分には恥ずかしさは感じないのに、こうして人にされると途端に恥ずかしがるあたり、精神的には初心なのだろう。
その上でディアが弄っている節があるように感じるが、仲がいい分には問題ないので放っておくことにしている。
猫でも撫でるかのようにルーナの頭を繰り返し撫でているディアと、夢の世界へ旅立とうとしているルーナ、そして眠気を耐えながら御者をする俺。
こんな日常を味わうのは何時ぶりだろうかと心の片隅で考えながらも、馬車はゆっくりと学術都市へ向かっていた。
「二人とも、そろそろ着くぞ」
後ろを振り返って告げると、
「すみません、御者を任せてしまって。……ルーナ、起きてください」
申し訳なさそうにディアが謝ってから、膝の上でふにゃふにゃとした表情で眠っているルーナの肩を優しく揺すった。
すると、軽く身じろきをした後に、閉じていた瑠璃色の瞳が姿を現した。
まだ起きたてで眠気が残っているのか、ぼんやりとした様子だった。
「……ついたの?」
「もう見えてる。準備だけしておいてくれ」
「……ん」
こくりと頷いてルーナは膝の上から起き上がろうとしてーーこてん、と転がってしまった。
それを見て俺とディアは苦笑を漏らす。
「ルーナのこと頼めるか?」
「わかりました。ルーナ、少しこっちに来てください。身嗜みを整えますよ」
絶望的に寝起きが弱いルーナの世話をディアに任せて、俺も御者用の席で準備だけ整えることにした。
やることと言えば、普通の冒険者を装うためにいつもの神剣の代わりに数打ちの鉄剣を吊るし、外套を羽織るくらいなものだが。
しかも指輪のお陰で意識するだけで終わるので、苦労することも無い。
後ろの方からガサゴソと音が聞こえてくるが、色々とやっているのだろう。
男と女では準備にかかる時間は全く違うのだ。
その辺も含めてディアに任せておけば大丈夫なので、俺としては楽なものだ。
それから少しして、ディアの声がかかった。
「マコト様、準備が出来ましたよ」
「わかった」
ディアの手際の良さに驚きつつも返事を返すと、その横からひょっこりとルーナが顔を出してきた。
毛先が跳ねていた髪はすっかり整っていて、心無しか顔色も良くなったように見える。
「……マコト、外見たい」
「ん?別にいいが、どうするんだ?」
「隣、座る」
確かに俺の隣は空いているが、荷台から出して座らせるのは面倒だ。
「……俺は手が離せないぞ?」
無理だと言外にアピールするために、握っている手綱を見せた。
すると、ルーナは首を横に振って、
「大丈夫。自分でそこに座るから」
そう言うと、ふわりとルーナの身体が浮かんで、身体を器用に使って俺の隣へと腰掛けた。
一仕事したと言わんばかりに、にへらと笑みを浮かべるルーナだが、後ろから凄い視線を感じていてそれどころではなかった。
「……ルーナ? 何をしているんですか?」
「……ここは私の席」
ふふんっ、と鼻を鳴らして答えるルーナと、やけに剣呑な雰囲気を漂わせるディア。
何故こうなったと聞きたいが、そうしたら何かが終わる気がして俺は手を出せなかった。
代わりに、頼れるあいつに聞いてみる。
(なぁ、何が起こってるんだこれ)
(我にもわからぬが、くれぐれも気をつけるのだぞ、主よ)
(……使えない神だな)
(……それはいくらなんでも横暴というものでは無いか?)
マモンの抗議に耳を貸さずに、俺は二人の会話を聞き流すのだった。
学術都市と呼ばれるフォレスティアは、どこの国にも属していない、言わば中立の立場を取っている場所である。
しかし、どの国も容易に手を出してこない。
その理由が優れた技術が集まっていることと、人材育成のための学院が存在するからである。
もしも敵対することがあれば、その技術を永遠に手放すことと同義であるが故に、中立という立場を保っているのだ。
「……これ、結界? 魔力の質からして……エルフ?」
「よく分かったな」
隣に座っているルーナが早くも結界の存在に気づいて、自分で答え合わせまでしてしまった。
「エルフ、ですか」
後ろから、そんな声が聞こえてきた。
「ん、悪い。気を悪くしたか」
「いえ、あの場所にいたヤツらじゃないのなら、特にそういう感情にはならないですよ」
大丈夫だと言いたげなディアの言葉を聞いて、「そういうものか」と納得した。
全部が全部、同じじゃないという考え方なのだろう。
それから俺達の馬車は入国審査を受ける人々の列に並んで、順番を待った。
数分後、手続きを済ませてフォレスティアと外とを区切る結界を踏み越えた。
「……ここがフォレスティアですか。なんだか懐かしいような場所です」
「……あったかい。なんか、眠くなる」
「まぁ、それは否定しない」
三者三様に、フォレスティアという場所の感想を漏らす。
フォレスティアは自然豊かな場所で、至る所に緑が見られる目に優しい光景が広がっている。
また、結界には気候を一定に保つ効果もあり、春のような温かさが一年中続くことになっている。
夏の暑さに参っていた俺達としては、非常に過ごしやすい場所だと言えるだろう。
「まだ昼過ぎだが、さっさと宿だけ取りに行くぞ。金はあるから柔らかいベッドがある場所優先だ」
どこかのヤがつく自営業の人のようなことを言っている気がするが、求めているものはよく眠れる場所だ。
娯楽の少ない俺にとってはほぼ最優先と言ってもいいくらいに大事なことなのだ。
「わかりました」
「……ふぁぁい」
しっかりと返事を返すディアと、寝起きのはずなのに早くも眠たげなルーナの返事が返ってきた。
こうしてフォレスティアでの生活が幕を開けた。




