第1話 旅路
お久しぶりです。長らく空いていましたが、これからぼちぼち更新していきます。不定期なのは変わらないと思いますが、よろしくお願いします。
ガタン、ガタンと不規則な揺れが眠気を誘うのをどうにか堪えながら、視線を後ろの荷台へと向けた。
夏に差し掛かるくらいの季節で、少し強めの日が入らないように幕で遮られたその中では、ルーナが青い顔でディアに膝枕をされていた。
どうにも馬車酔いしたらしく、治癒魔法を使って症状を少しは抑えているらしいが、それでもまるで動けそうにないらしい。
一方でディアはルーナの金糸のように細やかな髪を手で梳きながら、こちらもうとうととしているようだった。
荷台の中に荷物と呼べるものはほとんどないが、それでもダミーとして幾つかの背嚢を置いてはいる。
お陰で普通よりも広いスペースを確保出来ているので、こうして呑気にお昼寝も出来るというものだ。
しかし、御者をする俺はそうはいかない。
流石にここで寝るのは洒落にならないし、一応野盗とかの警戒くらいはしておかなければならない。
……どうせ殺気を向けられれば嫌でも起きるのだが、二人はまだそうはいかないだろう。
ディアならまだしも、箱入り娘のように育てられてきたはずのルーナにそれをいきなり求めるのは多分無理な話だ。
俺とて数年かかっているのだから、そんなにガミガミと言うつもりは無い。
……いずれその辺も含めて迷宮にでも潜った方が良いとは思っているが、それはもう少し先のことだろう。
これから向かう先では、出来ればそっちではなく、二人にはそこでしか出来ないことをやってきて欲しいと考えているからだ。
俺は俺でやることがあり、手伝ってもらった方が効率的にはいいのだが、一人で錆落としというのも悪くは無い。
そんなことを考えながら、再び二人を見る。
紛れもない美少女二人がこうしているのは中々に絵になるが、だからといって何をする訳でもない。
ただ、何となく棘が刺さったような感覚があって、それを振り払うように首を振った。
一人で残してしまった妹のことを、どうしても思い出してしまうのだ。
「……また、会えたらいいな」
心のどこかで叶わないと思っているその願いを、俺は独り言として呟いた。
会いたいのに会えないし、それ以前に会わせる顔がない俺だから、それくらいのことを口走るのは大目に見て欲しい。
一つ復讐を消化したせいか、最近の俺はホームシック気味なのだ。
……それを言ったら二人に馬鹿にされそうなので言わないが。
それから二人を見ると、どちらも眠ってしまっていているようだった。
「……まぁ、好きにやらせておくか」
あまりにもほのぼのとした光景に懐かしいものを感じながら、俺は視線を進行方向へ戻した。
現在、俺達は学術都市へと向かう道中で、アルメリアを出発してから約一週間といったところだろう。
その間に宿場町等を経由しながら馬車で移動し、もう一つ街を挟んで到着する予定だ。
昼過ぎの真上から照りつけるような日差しを手で遮りながら、着いてからの予定を考えるのだった。
夕方過ぎにようやく学術都市の手前にある宿場町に到着した俺達は、今晩泊まる宿へと向かっていた。
ディアは寝起きらしく小さな欠伸を手で隠していて、ルーナはやはりと言うべきか、まだ気分が優れないようでご機嫌ななめのようだ。
「……馬車嫌い。飛んだ方が早い」
「……そんなことが出来るのはお前だけだし目立つからやめてくれ」
「ルーナ、マコト様に迷惑をかけてはいけませんよ。慣れるまで辛いのはわかりますけど……」
馬鹿なことを言い出したルーナに呆れ半分に言葉を返すと、ルーナは「むぅ」と頬を膨らませていた。
こうして見ているとただの可愛らしい少女のように見えるが、精神年齢でいえば俺とディアのを足しても足元にも及ばない。
まぁ、あくまでそれは精神年齢だけの話で、行動が年齢に伴っていないので、二人よりも子供っぽく見えてしまう。
初めて外に出た子供のようなルーナの様子に少しだけ微笑ましいものを感じながらも、思考を真面目な方へと戻した。
というのも……
「二人共わかってると思うが、もうすぐ学術都市に着く。遊びで行くんじゃない。どれもこれも、全てが俺達自身のためであり、必要なことだ」
これは無駄なことではない。
適度に気を抜くのとお遊び気分でいるのは、似ているようで全然違う。
復讐という冷たい願望を叶えるには、命がいくつあっても足りやしない。
死ぬ気で今の自分に出来ることをやって、対策を考え、常に万全の体制でいなければ、いつ死んでもおかしくないのだ。
だからこそ、今のうちに出来ることをしておく必要がある。
「勿論わかっていますよ。……特に私は」
やけに神妙な表情で呟くディアは、ギュッと拳を握った。
俺にはその理由がなんなのかまでは理解出来ないが、ディアなりに思うところがあるのだろう。
それは悪いことじゃない。
寧ろディアも強くなってくれるのなら嬉しいが、強さでディアを連れていこうと決めたのではないのだ。
……それを今言っても無駄だとは思っているが。
「……私も、もっと強くなる。もう、二度と大切なものを失いたくないから」
ルーナもまた、決意を湛えた瞳を見せて、その思いを語った。
ルーナはもう復讐は済んでいる。
けれど、“過去の清算”は終わっていない。
自分が原因で仲間たちを死に追いやったことを、その経験を水の泡にした自分を許せていないのだろう。
確かに忘れてはいけないことだと思う。
後悔先に立たず、という言葉があるくらいだ。
「……俺は、間違いに気づくのが遅すぎた。どれだけ叫んでも、嘆いても、それは戻ってこない」
全てが裏返ったあの日のことを思い出しながら、心に灯る冷たい炎へ燃料を継ぎ足していく。
いつまでも忘れぬように、刻み込むように。
俺が俺であるための証として、忘れ物を拾いに行くための道標として。
俺が……俺達がしようとしていることは、きっと多くの人には理解されないことだろう。
“復讐は何も生まない”なんて言うやつは、一方で正しくて、また一方で間違っている。
確かに復讐というのは何も生まないかもしれない。
そもそも復讐というのはマイナスをゼロへと清算するための手段に過ぎない。
人の死の上に立って、奪われたものを奪い返して、そこからが始まりなんだ。
そして、それがあまりにも多すぎた。
「……きっと、俺は全てを取り戻す」
独り言のように呟いたのだが、両隣から返事が返ってくる。
「私も、最後の時まで傍にいます」
「……もう、絶対に離れない」
偏りすぎた忠誠のようなディアと、子供か親に縋るようなルーナの様子に、俺は頼もしいと思うと共に苦笑を漏らすのだった。
作品と全く関係ありませんが、新作を書こうかと思ってこの1ヶ月を過ごしていましたが、結局書けませんでした。現代ダンジョンものとか書いてみたいですけど、終わりかたが想像出来なくて……




