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閑話 ベッド争奪戦

もう何話か閑話が続きます

「――あー、もう朝か」

「……いくらなんでも寝過ぎじゃないですか?」

「いや、やる事やった訳だから少しくらい良いだろ。何事もメリハリが大事なんだよ」


 ――と、眠気でぼやけて纏まりのない思考をそのまま垂れ流す。

 誠達は現在、アルメリアの高級宿で暫しの休養を貪っていた。

 流石に色々と無茶苦茶やったため、当分はまるで動く気力がなくなってしまったのだ。

 だが、まずは事の顛末について整理しておこう。


 誠達は二人を殺した後、その死体を森にある工房へと持っていき、ルーナがそのまま火を放った。

 そうなれば当然、街の方からも見えるわけで、吸血鬼騒ぎで夜は危険だが、このままでは街まで燃えてしまうので、街の衛兵や冒険者はやむなく夜の鎮火作業へと駆り出された。

 その甲斐あって、明け方頃にようやく鎮火された。

 その火事での死者はゼロで、火傷などの軽傷者は数人という、規模の割に被害は少ないものだった。

 そして、焼けた森で隠し工房と、地下室に置いてあったアルムの日記が見つかった。

 それにより、吸血鬼騒ぎの犯人があの二人だと街中に知らされ、騒ぎは幕を閉じた。

 その頃俺達は何をしていたかと言うと、アルムとディーナが作って店に残していた魔法道具を全て回収し、宿屋に戻ってホクホク顔で怠惰を貪っていた。

 また、金欠問題を解決するために、回収してきた魔法道具のうち、使い道のないものを裏を使ってオークションに流して、そこそこの金額を得ることが出来た。

 その金で現在、高級宿に泊まっているわけだ。


「マコト様は食事の希望はありますか?」

「んー、なんか食べやすいやつがいいな」

「……なら野菜多めのシチューにしましょう。少し買い出しに出てきますね」


 そう言い残して、ディアは騒がしさの残る外へと向かった。

 その姿を見届けて、密かに張り詰めていた緊張を僅かに緩めた。

 …………もう大丈夫か。


「……もう出てきていいぞ」


 誠は呆れたような声音で、この部屋にいるはずのもう一人の住人に呼びかける。

 すると、誠にかかっていた布団がモゾモゾと動いて――


「――ぷはぁ」


 金色のヴェールを被ったような少女――ルーナがにへらと笑いながら姿を現した。

 何故かルーナは誠の布団に潜り込んでいることが多く、その度にディアに見つかってつまみ出されているのだ。

 だが、どうやら今日の勝負はルーナの勝利らしい。


「よくバレなかったな」

「……全力全開で魔力隠蔽して、匂いも風魔法で遮断、光魔法と幻術を組み合わせて視覚も誤魔化してた」


 見るからにドヤ顔のルーナだが、実際やってることはとんでもなく高度な技術なのでなんとも言えないのが癪である。


「…………そこまでしてお前は何がしたいんだ」

「……何って言われたら…………ナニ?」

「朝から下ネタは辞めろエロ吸血鬼」


 しれっととんでもないことを言い出す変態を小突いて、誠はルーナを押し退けてベッドから起き上がる。

 にしても、誠が知るルーナはこんなポンコツではなく、もっと真面目な印象があったのだ。

 それ故に最近のルーナに対する評価を改める必要があるなと考えながら、背伸びをして欠伸を一つ。

 とりあえず顔を洗ってこようと思い、タオルを探す誠の耳に、


「……えへへ、マコトの匂い…………」


 ……と、完全に吸血鬼の王たる真祖の威厳を粉砕し、混ぜるな危険を体現したような混沌とした存在の甘ったるい声が聞こえてくる。

 誠が寝ていたベッドでスーハーと息を荒くして、枕に顔を埋める変態が、時間も場所も関係ないと言わんばかりに荒れ狂っていた。

 しかもそれをしているのが傍から見れば美少女であるだけに、なんとも居た堪れない気持ちになってしまう。


「流石に匂いフェチで下ネタ大好きロリババア吸血鬼ってキャラキツイぞ?」

「…………えへへ」

「………………もうやだこれ」


 手遅れだと思わせられるようなルーナのそれに、誠の中で何かへの見切りを付けた瞬間であった。

 あんまりにあんまりなルーナを意識から遠ざけて、誠は顔を洗いに部屋の外へと向かった。


「……んむぅ…………でも、それはそれで…………えへへ」


 少しだけ不満さを滲ませて、しかしどこか嬉しげな表情で自らの客観的事実を受け止めるルーナであった。



 ◇



「…………で、何か言い残すことはありますか?」

「……あ、ありまひぇん」


 ディアがルーナのほっぺたを摘んで、お仕置きをしていた。

 その理由は、誠がディアが作った朝食を食べている最中に()()()()さっきのことを言ってしまったことが発端である。

 それを聞いていた時のディアの冷え切った瞳はルーナだけではなく、誠にも向けられていて、話を漏らしたことを少しだけ後悔してしまった。

 そして、朝食を食べ終わって直ぐに誠はディアに小言を言われ、ルーナはこうしてディアのお仕置きを受けているのだ。


「どうして貴方は毎日毎日マコト様の布団の中にいるんですか…………」

「……だって、マコト、暖かいから」

「いやお前、絶対邪な考えで布団の中にいたよな?」

「……ですが、それを見逃していたのはマコト様ではありませんか?」


 誠が二人の会話に口を挟むと、ディアの矛先が誠へと向いてしまった。

 迂闊なことをしたと後悔しても、もう遅かった。


「……では、こうしましょう。今日の夜は私がマコト様と一緒に寝ます」

「…………はっ?」


 想定していなかった言葉が、ディアの口から放たれた。

 虚をつかれた誠は、つい反応を示してしまった。


「いえ、何を驚いているんですか? 私はマコト様のモノなのですから、それくらいは当然ですよね?」

「いや、それはおかしくないか?」


 最早理論が破綻していた。

 別にディアは誠のモノなんかではないし、第一モノだったとしても同じベッドで寝ようなんて思わない。

 そんな感情があったが為に、さらにディアの感情に無意識的に油を注いでしまった。


「……それは、マコト様は幼女と一緒に寝たい、ということですか?」


 絶対零度の瞳が誠とルーナに交互に向けられ、底冷えするような感覚に襲われる。

 誠をしても恐怖というか、狂気というか、敵に回してはいけないものを目にした時に似た威圧感がそこにはあった。

 ルーナもそれは同じだったようで、すっかり沈黙してしまい、プルプルと手が震えているようだった。

 もうこうなってしまえばルーナはおろか、誠に逃げ道は残されていなかった。

 故に、誠は答えてしまう。


「…………今日だけだぞ」

「――確かに、言質頂きましたよ」


 その言葉を言った瞬間にディアの様子がいつも通りに戻り、二人の間に平穏が訪れた。

 そんな中で小さく呟いた「やりました」というディアの独り言は、二人へ届くことは無かった。


 その日の夜、有言実行したディアが背中から抱きついてきて、誠が満足に睡眠を取ることが出来なかったのは言うまでもないだろう。



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